第14話 山中で出会ったのは懐かしい人
全身黒ずくめの男は、体重を感じさせない身軽さでさ降りてきた。ギラギラとした瞳でふたりを見つめ、少しずつ距離を縮めていく。
「…………」
無言で、黒ずくめの男の布へと手を伸ばした。
男は意外なほどに抵抗をしない。それどころか、そうされることを待っているかのようだった。
やがて顔を隠していた布が取れる。するとそこから現れたのは、口元の黒子が印象的な二十歳前後の男だった。
肩ほどまでに切り揃えられた黒髪を、後ろで少しだけ縛っている。整った顔立ちはしているものの、どこか幼さを残していた。
そんな男は、にっと笑う。そして……
「──
「あ、
「
グリグリと。甘えん坊のように、彼の胸板へ顔を埋めた。
「お前、まさかずっと俺を探してたのか!?」
「当然ッスよ。
男の視線は
「誰ッスか? ものすごい、美人さんじゃないッスか!」
「ん? ああ、
名前を呼ばれた
なぜか照れている彼の脇腹を小突き、睨みを利かせた。
「うっ! ち、ちゃんと説明するよ。しますから、そんなに睨まないでくれー!」
「えっと……こいつは俺の弟弟子で、名は【
「何、言ってるんッスか!?
ふたりは、彼らしか知りえない物語に花を咲かせていった。
彼らの会話に横やりを入れることすらできない
「……ちちうえ、ははうえが、かわいそうですよぉ~」
子供の純粋な眼差しに加わるように、
「うっ、ぐっ!」
「お、お……俺が…………悪かったです」
どうやら、敗けを認めたようだ。その場に土下座し、ふたりに許しをこう。
ふたりはしたり顔になる。お互いの手を合わせ、ふふっと微笑んだ。
ふと、
「……別に、昔話に花を咲かせるのは悪いことではありません。でも、何となくてすが……」
もじもじ。普段の
「そ、その……あなたが、他の人と楽しそうにしてるのを見ると、胸の奥が痛むんです」
──この気持ちの意味がわからない。私は本当に、どうしてしまったのだろうか。
どうしたらいいのか。それすらわからなくなり、頼みの綱として、
「……っ!?」
見つめられた
ふたりはお互いに言葉を失い、ともにゆでダコ状態となっていった。
「……あれ?
そんなふたりを見ていた男──
「あー、でも。三年もの間いなくなってたんッスから、その間に結婚して、子供ができても不思議ではないッスね? 子供はそれなりに大きいから、いなくなってすぐってことッスか?」
女に興味ないふりして実はムッツリなんだなと、わかったような口を訊いた。
「いやぁー。それならそうと、連絡くれたらよかったじゃないッスか。師範、きっと喜ぶッスよ。しかも、こんなに美人な奥方がいるなんて……」
羨ましい。にやつきながら、肘で
「は、はぁ!? ばっ! 何、言って……お、俺と
あわてふためいた。その瞳はかなり動揺しているらしく、視線が泳いでいる。
「お、男……? この、見た目で? 本当に、男ッスか!?」
顔をひくつかせ、再度尋ねた。
「そ、そんな……こんなに美人で、きれいなのに……下半身には、俺や
最後まで言い切る前に、
蹴った本人である
「ば、馬鹿やろー!
「さすがは兄弟弟子、発言が下品そのものですね?」
「──
青筋を浮かべながら、笑顔を
誰もが寝静まった夜の山中に「ひょーー!」という、奇妙な叫び声が響いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます