第10話 赤ちゃんの成長速度ってこんなに早いの?
自然に。意図せずに、
気を失って眠る
「……そう、か。ここは、あのふたりが辿った道だったのか」
感傷に浸っていた矢先、赤子の姿がないことに気づく。直前までいた
行方不明という事実に驚愕し、顔を真っ青にさせた。ひたすら名を呼び続け、蝋梅の木の後ろや建物の回りを探す。
「
蝋梅の木よりほんの少し離れたところに、小さな花壇があった。そこてま、見慣れた者の姿を発見する。急いで駆けよろうとしたが、彼は凍りついてしまった。
「……ひょーー!?」
言葉をなくした
「う、そだ、ろ……歩いて、る」
赤子は二本足で歩いていた。ただ、それだけなら驚きはしない。
「…………な、何か知らんが、成長してるー!?」
直前ないし、数分前までの
言葉はたどたどしいけれど、彼のことを「父上」と呼んで笑っていた。
「え!? お前、
坊主に近かった頭から、ふわふわな黒髪が生えている。少しだけ癖っ毛ではあるものの、さらさらだ。
子供らしい大きな瞳は灰色混じりで、不思議な雰囲気を持っている。
「ど、どうなっててるんだ!? 赤ちゃんって、こんなに早く成長するものなのか!?」
驚きながら
──ああ、でも。子供らしい暖かさがあるな。ほっぺたなんてすっげぇ、もちもちしてるし。
「…………」
ひときしり考えてみた。
「うん。わからん!
成長した
戻った先には意識のない
「……あれ? 私は何を……はっ! ぱ、
普段の落ち着いた雰囲気はなくなっていた。必死にどこだと尋ね、
「実はさ……」
後ろに隠れている
「……
起き上がって膝を曲げ、目線を
数刻前までは赤子だった
の
「……やはり、私の見間違いではなかったんですね?
もじもじとしている子供を抱きあげる。お日様と、ほんの少しだけ乳の甘い香りが舞った。
その香りに浸りながら、ふふっと微笑む。
「
「うん? ああ。昨日、そんなこと言ってたな。でも、よく気がついたよな? 昨日は、明確な違いなんてなかっただろうに」
どこが違ってたんだと、
「……手が、少し大きくなっていたように感じました。爪も一気に伸びてましたし」
「え? そうなの? あー……全然、わかんねーや」
どうやら
頬をポリポリと掻いて、うーんと唸るだけだった。そのとき、
「
その囁きは、
予想もしなかった出来事に、
「……むっ。何かその態度、酷くないですか?」
「うえっ!? い、いや、そんなこちょはな……」
「こちょ?」
噛んでしまう。わたわたと、落ち着きのないままに、後退った。
「あ、いや……えっ……とぉ」
彼が後退れば、
男にしては大きな瞳は、少女のように愛らしい。清楚で整った顔が、
「うっ、ぐっ!」
──やっべぇ。本当に、めちゃくちゃ可愛い。男だってわかってるんだけど、これは……
にやける口元を片手で抑える。視線を逸らし、深呼吸した。軽く咳払いをし、ロバの背中に座る
子供はロバの上できゃっきゃと、楽しそうに笑っていた。
「と、ともかく! 子供は成長が早いってことで、いいんだよな?」
「……いいわけありますか。確かに、子供の成長は早いと思います。でも一日や二日で三歳分成長するなんて、聞いたことがありません」
情けないものを見る瞳が、
「……私もあなたも、
「確かに、そうだけど……」
──そうなると、だ。
腕を組み、ぶつぶつと呟いた。
膝の上に乗る子供は、彼の長い銀髪を両手に握って遊んでいた。
仲良しなふたりを見て、
ロバの紐を手にする。ゆっくりと引っぱりながら入ってきた門とは逆の、北東門へと向かう。門前に到着すると、兵に会釈をして敷地を出た。
「あ、そうだ。なあなあ
ロバの
振り向いた先にいる
「……さっき、兵が言ってたこと覚えてるか?」
遠慮がちに伝えた。
「書物に書かれてたふたりは多分、俺の……」
ざあー……
冬の冷たい風が、彼らの長い髪を揺らした。ふたりは髪を手で押さえる。
──いつかは伝えなきゃならなかったこと。それが、今だったって話だ。
「……俺の、両親だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます