向き合う心
第8話 禁止された名
「……いやこれ、地図逆さまじゃねーか」
来た道を引き返している途中で、彼らは立ち止まった。
砂利道の端にある木に、ロバを繋げる。
「…………すみません。どうやら私、地図を読めないっぽいです」
逆さまにしていたことにより、目的地とは真逆の陸路を進んでいた。そのことに反省の色は示しているものの、追及はしないでほしいと訴える。
「一応聞くけどさ。さっきの茶屋は、東西南北のどこだって思う?」
「え? ええと、王都が國の最北端にあるので……あっ! わかりました。反対側ということは、南ですね!?」
自身満々に胸をはる。
瞬間、
「嘘だろ……東西南北わかんないやつとか、本当にいるとか。あのなぁ、よーく聞けよ? 茶屋は西だ」
「西? でも王都は北ですよね? その反対側ということは、南では?」
「反対側って言っても、途中で東西南北が変わってんの! わかる!?」
「…………?」
最終的には
「あー、うん。もう、いいよ。ってか、これからは俺が地図持つからさ」
げっそりとなってしまう。それでも見捨てないあたり、面倒見のよさが伺えた。
この話は終わりだと、木に繋げていたロバを離す。ロバは再び歩きだした。
□ □ □ ■ ■ ■
しばらく道なりに進むと、赤煉瓦の屋根が見えてきた。建物の前には門があり、左右にひとりずつ兵が立っている。
「ここ、関所だよな? 何て名前なんだ?」
入り口には、関所名が記載されている看板がなかった。そのこと疑問を持った様子の
「……ここは百五十年ほど前に、一度滅んだんです。妖怪たちの襲撃にあって」
風に靡く銀髪を手で抑えながら関所を凝望した。
「【中秋の悲劇】は、聞いたことありますか?」
そう、尋ねた。
「……お師匠様に教えてもらったことがある。どこかの関所が妖怪の襲撃にあって、一夜で滅んだってやつだったような? 当時は関所を中心に、ふたつの仙門が東と西を治めてたって話だった。いろいろあって今は合併して、【
「……詳しいですね」
「当時……今から百五十年ほど前。ここは【
「名前のない関所、か。何か、寂しいな」
兵たちは快く彼らを中へと案内する。
中には、突飛した何かが置かれているわけではない。建物も普通で、真新しさもなかった。人は疎らで、数人の兵が巡回しているだけのよう。一般人の姿はなく、寂れた関所だった。
「……災厄に見舞われる前までは
「口にしてはいけない、ってやつか」
「昔はこの関所の周辺に、村があったそうです。けれど災厄に巻きこまれ、一瞬で滅んだとも聞きます」
ふたりは関所の中を進んでいった。
数人の兵が彼らを見ては会釈をしていく。瞬間、ひとりの兵が、
「え?」
「あっ! お前、
「大丈夫ですよ
睨むのではなく、微笑む。あくまでも相手を上に持たせたやり方で、静かに問いかけた。
すると兵はハッと我にかえり、慌てて謝罪をする。
「も、申し訳ありません! その……とてもよく似ていたもので……」
「……?」
兵の言葉に、彼らは互いの顔を見合せるしかなかった。ふたりは首を傾げ、どういうことかと尋ねた。
兵はしどろもどろに語り始める。
「あ、いえ……この関所が
懐から一冊の古びた本を取り出した。それをめくり、ふたりに見せた。
本の中身に目を通せば、そこにはふたりの人物画が描かれている。ひとりは長身で黒髪、もうひとりは薄い髪色の人だった。
黒髪の方は優しく微笑み、視線を薄い髪色の人へと向けている。
薄い髪色の人は女性だろうか。とても儚く、手に持つ花がよく似合っていた。
そんなふたりは、ともに整った顔立ちをしている。
「かつて、
災厄が訪れるたび、ふたりに祈りを捧げた。そうすると災厄は自然となくなっていくのだと、夢物語のように語っている。
「そ、そちらの方の髪色が、ここに描いてある人と同じな気がして……」
「まあ、この髪色はかなり珍しいですからね」
片手で
「……子供扱いしないでくれません?」
「えー? だって、めちゃくちゃ可愛いじゃん!」
「…………二十四の男に可愛いって、おか……」
「え!? お前二十四なの!? 俺より年上かよ!」
俺は二十歳なんだぞと、若々しさを自慢するように胸をはる。
そんな彼にたいし、
「話の論点、ズレてますよ? 今は、そんな話をしてはいません」
説教されてブー垂れてしまった
兵は慌てて頭を下げ、書物を渡してどこかへと行ってしまった。
ふたりは苦笑いし、書物を見つめる。
黒と白。対照的なふたりが美しく描かれた絵巻で、物語のようになっていた。一頁、また一頁と、めくっていけば、最後はふたりが大木を前に手を握っている姿になった。
「絵ならあるけど、文字がねーな。想像しようにも、いまいちわからねー」
「……私のような髪色をした人が、過去にもいたのには驚きました」
書物を懐にしまい、関所の中を歩く。直後……
腕に抱えていた
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