第二章 昔語り
第7話 人ならざる者の町
翌朝、
外に繋いでいたロバを引っぱり、
パッカパカ……
ロバはゆっくりと歩いていた。背には銀髪の美しい麗人、
そのロバを引っぱって歩くのは
「ったく、このロバめ。俺の言うことはまったく聞かないくせに、
宿屋を出発する際、ロバは嫌々と、その場から動こうとはしなかった。
キレた
「……この、エロロバめ!」
経緯を思い出し、ロバを睨んだ。
ロバは小馬鹿にしたように笑っている。歩くたびに小石を蹴りあげた。
わざとかと思えるほどに器用な行動に、彼は怒り心頭となっていく。ロバの耳を引っぱり、威嚇した。
「
「……いや、あなたは何を言っているんです?」
ロバの背中の上で赤子を癒す
銀の髪がさらりと流れる。
太陽の光を受けた髪と白い肌が合わさり、まさに美貌の女神といった儚さを見せていた。
──相変わらず、
「そ、それよりも! 王都への道は、こっちで合ってるのか?」
心の中にある負の感情を隠し、前方を指差した。
そこには二又に別れた道、手前には古びた茶屋が建っている。茶屋の屋根は
出てきた店主は彼らを見ては、愛想笑いで注文を求めてきた。
「私はサンザシ飴と
「……え!?」
ロバから降りた
「せっかくなので、お昼にしましょうか。店主、お願いしますね」
にっこりと微笑む。それは美しいけれど、有無を言わせない妙な厚がある。
店主は慌てて奥へと入っていき、
「……え? あ、いやいやいや。そんなに食べれないだろ!?」
「え? 普通ですよ? というか、私にしては少ない方ですねぇ。今日はあまりお腹空いてないので、いつもより少食ですけどね」
「少食って……」
数十分後、注文した食品のすべてが空となった。
「……嘘、だろ?」
絶句したのは彼だけではない。店主はもちろん、野草を食べていたロバですら、食事を忘れて両眼を大きく見開いていた。
「はー、美味しかったです」
完食した本人は、呑気にお茶をすすっている。
「あ、あれだけ大量の飯を……おまっ、こんな細い体のどこに入るんだよ!?」
華服の上からお腹を触ってみた。けれど膨らんだ様子は微塵もない。ほっそりとしていて、肉づきが悪いほどだった。
「まだ、いけますよ?」
「やめれ! 見てる俺の胃がおかしくなるから! それと、お金ないから! これ以上食べたら俺ら、無一文になるからな!?」
「むー……それは、困りますね。わかりました。やめておきましょう」
「わ、わかってくれて嬉しいよ」
──
どっと、全身に疲れが生じていく。
「……まあ、いいか。それよりも店主、ちょっと道で聞きたいんだけど」
王都への道は、こっちでいいのかを尋ねた。
「え? 王都ですか? お客さん、それはこことは反対側ですよ?」
「ん? 反対?」
反対とはどういう意味なのか。小首を傾げながら、再度問う。
「はい。こっちの道……そこにある二又の道は、右は幽霊谷ですね。幽霊や
恐る恐る、店主は話していった。
店主の話によると、百年ほど前に滅んだ町とのこと。滅ぶ前は、人間のまま妖怪と化した半端ものが集う町だった。鬼女をはじめ、
彼らは、人間たちに悪さをするわけではない。近くにある幽霊谷に捨てられた人間たちを迎え入れては、楽しく暮らしていた。
けれどある日、突然、町は滅んでしまう。
「一夜にして滅んだとは聞いておりますが、理由は存じ上げません。ただ……」
「ただ?」
彼らは、二又の道を目で追いかけた。
何もない、荒れ果てた道は、野生動物ですら寄りついていないよう。鳥ですら地上に降りることを避け、どこかへと飛んでいった。
「わたくしめが又聞きしたお話になりますが、当時あの町は、幼子が支配していたとか」
「まだ五、六歳の子供だったそうです。実権は他の方が握っていたそうですが、その幼子が原因で全滅したとも噂されておりますね」
ロバの歩く音が響くなか、ふたりは無言になってしまう。
──んー……俺、何か喋ってないと気がすまない体質なんだよな。あれ? そう言えば……
重たい空気に耐えられず、話題を探していた。ふと、あることを思い出し、
「なあ
「……どう、なんでしょう」
煮え切らない返事だ。
「
「……嫌いかどうかはわかんねー。でも俺は、その子のせいだなって、絶対に思わない」
そう、断言する。
並んで歩くロバの背中を見れば、驚いたように両目を見開く
「はは。そんなに驚くようなことか? ……よーく考えてみろよ。幼子なんて、ものの良し悪しがわからないんじゃないのか? ましてや政治的なことなんて、わかるわけがない。大人に、いいように利用されるだけだ」
無邪気な笑みと、裏表のない言葉で伝える。
「そんな幼子を、どうして責められる? だいだい悪いのは大人の方だろ? 子供のせいにして、自分たちの失態を隠してるだけなんじゃねーの?」
「…………」
「俺だったら、その幼い子供を抱きしめるね。よく頑張ったって言って、一緒に何が駄目だったのかを考えてみ……って、何だよ?」
一通り話た直後、
そんな
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