第6話 赤子の名前を決めよう
ホーホーと、
人の姿は
「…………つ、疲れた。ようやく、眠ってくれた」
夜も更け、誰もが寝静まった
見た目の美しさなど、どこへやら。そんなふたりはすやすやと眠る赤子を見て、から笑いを繰り返した。
「…………あ、赤ん坊の世話って、こんなにも大変だったのかよ!?」
もう嫌だと、
「私も、甘く……見てました。寝たと思ったらすぐ起きて泣いて……あやしても寝ないし、ぐずるしで……」
美しい銀髪を払いのけながら、
「この子を見ていると、私を育てくれた祖父上や外叔父上たちに感謝したくなります」
そう口にする
まるで、愛しい我が子を胸に抱く聖母のよう。
「……っ!?」
そのときのことを思い出すと、体が疼いてしまう。
──んんっ。やっぱり、顔はめちゃくちゃ可愛いんだよな。俺の好みだし。でも……これだけきれいなら、恋人とかいるんだろうな。
チクッと、胸の奥に不思議な痛みを伴った。それが何なのかわからず、首を傾げるばかり。
「
「え? あ、ああ、いや。何でもない。それよりも、他人行儀はやめようぜ? 俺のことは
どちらの呼び方も、親しい者でなければ使えないものだった。それを容易く口にしてしまう。
早まったかもしれないと考え、相手の出方を伺った。
「ふふ、別に構いませんよ。あなたとは初対面ではありますが、信用できる方とお見受けします」
「え? いいの? ってか、そんなに簡単に信用しちゃうのもどう……うっ!」
眼前にいる儚げな瞳の男にじっと見つめられ、言葉を詰まらせた。ぐっと言葉を飲みこみ、負けを認めながら両手を挙げる。
「あー……うん。言い出しっぺは俺だからね。
なぜか、照れてしまった。
そんなふたりの間には、奇妙な沈黙が訪れる。どちらもが無言になり、ため息をつくなど。初々しいほどの空間が生まれていた。
けれどそれは、赤子の泣き声によって消される。ふたりは我にかえり、慌てて赤子をあやした。
「なあ
「乳母がいない以上、私たちで作るしかありません。お粥を極限まで煮詰めて、肉松のでんぷんを乗せるというのもあるそうです」
「へえ。あ、でも。まだ母乳の状態だと思うけど、もう離乳食あげてもいいのか?」
彼からの素朴な疑問に、
「……気づきませんか? この子、成長してますよ」
「うん?」
意味がわからなかった。
赤子は成長するもの。成長がとまった大人とは違い、あっという間に育っていく。多少体重が増えたところで驚くことではない。それが、赤子というものではないだろうか。
「……そう、でしょうか?」
納得がいかない様子で、うーんと小首を傾げた。しまいには口を尖らせ、子供のように拗ねてしまう。
「んんっ!
「お、男に可愛いとか言わないでください!」
からかわれたと思ったようで顔を真っ赤にさせながら、ポコポコと
「あはは、ごめんごめん。おっと……赤ん坊が、ぐずり始めた」
おくるみにくるまれたまま、小さな手足がもぞもぞと動く。あーぶーと、彼らの華服の袖を掴む。力などありはしない。小さくて柔らかな手は暖かく、ふたりの頬を緩ませていった。
「……なあ、こいつの名前つけねー?」
「名前、ですか?」
「うん。だって、ずっと赤ん坊とかだとかわいそうだろう?」
赤ん坊の口は、
「……そう、ですね」
細く美しい銀髪が風に
「──
そう、口にした。
その姿は美しく、とても眩しい。女神と言われても納得してしまいそうになるほどに、
そんな男の姿を見た瞬間、
「ぱ、
ぎこちなくなってしまう。
ただ、
「朝陽が出始める時刻の空は、とても美しい。一日の始まりと、まだ寝ているであろう時間の境目。季節によって明るさは異なりますが、夕陽とはまた違った雰囲気があります」
青に染まりつつある、空に浮かぶ白い月という意味もあるのだと言う。
「私たち大人が夜に活発になるのなら、
植物のように朝陽を受けて、健康でいられるのなら。それ以上に幸せなことはない。
聖母のような美しい笑みを浮かべる
「……っ!?」
瞬間、さらりと流れる銀髪を目にした
触れたい。抱きしめたい。そう感じてしまう、不思議な気持ちが生まれていった。
──何でこんなに、俺の鼓動は速くなってんだよ!?
「と、とりあえず、もう寝よう! な!? 寝ようぜ!?」
不自然なまでに話題を逸らす。けれど
焦る彼をよそに、
「……はぁー。先が、思いやられる」
窓枠に肘をつけ、夜空を眺めた。ホーホーと、梟の鳴き声が聴こえ、大きなため息を溢す。
冷めた茶を飲みながら前途多難だと、先行きに不安を覚えた。
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