子育てって大変なんだね
第5話 ふたりの行く道
「──
「……あ、は、はい」
自分の失態から起きた同性へのあるまじき行為。それは、目の前の人──
──やっべぇ。全部、俺が原因じゃん。赤ん坊云々以前にこんな状態になったのって、俺が薬を間違えたのが発端じゃん。
己の馬鹿さ加減を恥じる。
けれど目の前の人は、そんなのを待ってはくれなかった。
「ああ、そうだ。私が兵に
「うぐっ! そ、それについては、俺がすべて悪いって思ってる。何なら責任を取る意味で、俺はあんたに一生を尽くしてもいい! だけど兵に言うのだけは……」
椅子から離れる。床に頭をこすりつけ、どうかそれだけはと懇願し続けた。
「……私も鬼ではありません。ケジメをつけさせてくれるのなら、もう何も言いません」
そう言う
「さあ、こい!」
潔く、頬を差しだした──
□ □ □ ■ ■ ■
「──えっと。いろいろあって俺は、【
椅子に深く腰かける。行儀悪く足を机の上に乗せた。
ふんっと鼻息荒くし、
そして、ことのあらましを説明した。
ある日、いつものように
彼は急いで師匠の元へと駆けよる。そのとき、師匠からある伝言を託された。
「師匠を襲った連中は、
突然襲われた師匠は、持てる力すべてを使って襲撃者を撃退する。しかし深傷を負い、動けぬ身となってしまった。
そこで白羽の矢がたったのが、弟子の
「で、その最中に捕まって、売り飛ばされそうになったってわけ」
もともと彼は、お尋ね者だった。はした金ではあるが、賞金もかけられていた。手配表を見れば載っている。けれど有名ではなかったようで、町を歩いていても兵には無視される程度だった。
そんな彼だからこそ、謎の石を探すのは好都合だったようで……
「情報集めとかは、結構簡単にいったんだよな。だけど、ドジ踏んで競売にかけられそうになった」
一度肩を落とす。茶を飲み「いざというときに、俺はドジを踏むんだよなぁ」と、苦笑いをした。
「さて。今度はお前の番だ、
「……そう、ですね。どこから話すべきか。迷ってしまいます。ただ私は、あの赤ん坊のことは何も知らない。とだけ、伝えておきます……」
茶器を机の上へ置き、深息した。
「ん? お前の子供とかじゃ、ないのか?」
「違います。私は、ある宿屋で陥れられました。そのときにあの赤ん坊と一緒に氷の術に填まってしまったんです。情けないですよね?」
「え? あ、いや……そ、それで? お前は、どうしたいわけ?」
「え?」
そんなことを聞かれるとは思っていなかったのだろう。
「いや、だってさ。赤ん坊は他人です。だから関係ありません! ってわけにはいかねーだろ? どんな理由があるにせよ、お前が凍漬けになったときに巻きこんだんだろ? だったら親元に届けるまでは、責任持つべきだと俺は思う」
「責……任」
美しい銀髪を耳にかける。男のはずなのに、女性のように艶やかな色香を伴う吐息を溢した。長いまつ毛で両目を隠し、唇を噛みしめる。
「そう、ですね。私のせいで、関係のない赤子が酷いめにあってるんですし。親子さんの元へ届けるまで、私はあの子を守ります」
晴れた表情ではなく、曇った眼差し。それでも言葉に嘘はないようで、一言一言がはっきりとしていた。
それを確認した
「そうなると、だ。俺の目的とあんたの目標は違うわけだけど……」
──お師匠様が言ってた
どうしたものかなと、頭を掻いた。
「……とりあえずは、さ。ふたりとも目的が違うわけだし、ここでお別れってことで……って、どうした?」
真剣に話している最中だというのに、
それに気づいた
「あ、いえ……正直に言いますと、この辺りには知り合いがいなくて……そのぉ……」
恥ずかしそうに頬を紅色に染め、ちらりと
「う、ぐっ!」
意外と面倒見のいい
──やっべぇー! めちゃくちゃ可愛い。男のくせに!
頭の中で言葉を選び、軽く咳払いをした。
「……まあ、何だ。助けた手前、ここで放っておくのも、なあ? それに、その……」
間違った薬を飲ませ、無理やり抱いてしまった。
そのことについてゴニョゴニョと、口を小さく開けながら謝罪する。
「……っ!?」
一夜の過ちを思い出した
「んんっ!」
──やっべぇ。マジで可愛いよ、こいつ。
そのとき、ドタドタと、階段を登る足音が聞こえた。一緒に赤ん坊の泣き声もする。足音は彼らの部屋の前でとまり、扉をたたく音に変わった。そしてすぐに扉が開けられ、赤子を抱っこした店員が現れる。
「す、すみません。赤ちゃんが泣きやまず……」
おぎゃあおぎゃあと、元気よく泣く赤子を背に、店員は困りはてた様子で
彼は泣く赤子に、いないいないばーをしてあやす。
「お、お客様、申し訳ありません。乳母が用事で出かけておりまして……明日まで留守だそうです」
とどのつまり、頼りにしていた母乳はない。このままでは赤子はお腹を空かせたまま。それならば夫婦の元へ返し、母親が乳を飲ませるべきだ。
という、結論になったそうだ。
「預かっておきながら、すみません。あ、奥方様がお目覚めのようなので、母乳あげられますね。それでは」
言いたいことだけを嵐のように伝え、店員は一階へと戻っていく。
残されたふたりは赤子を見、互いの顔を見合せた。そして「えー?」と、困惑しながら途方に暮れてしまう。
けれど、赤子は彼らの動揺などおかまいなし。ひたすら泣いては、彼の服をちゅぱちゅぱ吸っていた。
「……お腹、空いてんだろうなぁ。でも母乳なんて出ねぇーし……」
「だからと言って、このままというわけにはいきませんよね?」
貸してくださいと、
「私が女性だったら、母乳をあげれたんですけどね」
「はっ! じゃ、じゃあ、俺の雄っぱ……」
「子供の前で、おやめなさい!」
唐突に服を脱ぎだす彼を見て、
「……ってか、本当にどうすんだよーー!」
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