果てのない絶望

汐なぎ(うしおなぎ)

全一話

 僕は大好きだったあのに、気持ちを伝えられないままここにいる。


 ここは結婚式場。今、僕の友達とあの娘の結婚式が行われている。


「結婚おめでとう」


 僕はにこやかに二人に告げる。


「ありがとう」


 幸せそうに答える友達とあの娘。


 新居への引越しが決まった日、落ち着いたら遊びに来て欲しいと友達は言った。僕の気持ちなど知らないのだから、仲のいい友達として当然の誘いだろう。


「新婚さんのお宅にお邪魔するのって、なんだか申し訳ないなあ」


 友達はそれを聞いて、僕の背中を「パンッ」と叩く。


「何言ってるんだよ。お前がいるから俺たちがあるんだろ?」


 僕はあの娘とも友達とも仲が良かった。僕を介して二人は知り合い、いつしか三人で遊ぶようになった。それからしばらくして、友達があの娘と付き合う事になったと照れた顔で教えてくれた。


「やったな。おめでとう」


 その時、僕は精一杯の笑顔を作って友達の背中を「パンッ」と叩いた。


 僕は、あの娘と付き合っているわけではないし、二人がお互いに恋愛感情を持っているのも知っていた。かたや、二人は僕の気持ちを知らない。誰が悪い訳でもない。


 そして今、僕はここにいる。


 二人の門出を祝う気持ちと、憎む気持ち。僕は笑顔を作りながら、ふたつの気持ちの狭間はざまにある、果てのない絶望の中にいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

果てのない絶望 汐なぎ(うしおなぎ) @ushionagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ