学園一の美少女になりたい動機

「俺からも一ついいか。そもそも学園一の美少女になんてなりたいんだ?」


 調査員と知って俺を呼び出したからには彼女たちの言い分も聞かねばなるまい。


「私はなりたいかな。進学に有利と聞いたよ?」


 日下部さんが真っ先に切り出した。


「有利になるよ。動機は調査に関係ないから気にしないでくれ。金持ちと結婚したいとかでも、構わない」


 俺は苦笑しながら言う。

 金持ちと結婚したいと思っている女子高生は多いのだ! 現実的だよな。


「私もなれるもんならなりたいな。アイドルじゃなくてヒロインというのがいいね。私だって女の子だし一つぐらいそんな称号は欲しいよ。陸上だって頑張ってもさ。やっぱり個人差の限界ってあるからね。あんたの言う失礼だって言ったランク付け。そんなこというなら偏差値差とかさ。スポーツの記録とかさ。記録するなってのってね」


 少し弱音を見せる岡島さん。自己記録が伸び悩んでいるんだろうか。

 サッカーをやっていた身としては己の限界にぶつかるということは痛いほど理解できる。


「俺もそれは激しく同意する。平等の理念は大事だけど、個人差、能力差で入る学校や会社は違ってくるのが現実だよな。でも岡島さんは自分の記録に挑戦している。十分に輝いているよ」

「へ? あ、ありがと」

「ほら。この人油断したら危ないよ?」

「そうだね。メカクレ系がもったいない」


 ほっとけ。


「……私は、ヒロインといえるような女優になりたい。芸能事務所に入った理由。それがそのもの。学園一の美少女の称号で、ドラマの主役が欲しい」


 力なさげに呟く北条さん。一位だと思っていた自分が三位だったのがショックだったらしい。

 虐めている気分になるが、彼女は間違いなくこの学校では一番の有名人。しかしヒロインというには、遠いんだ。


「純粋な動機だと思うよ」


 女優志望なら当然だろう。納得する理由だ。


「ともあれ、だ。何か勘違いされると困るから先に言うけど、俺からはあまり接触もしないし学校外は関係ない。あくまで学園一の美少女の話だからな。学校の外ではストーカーじみた真似はしないよ」

「学校内ではするということね。それで何をどう判断するの?」


 北条さん口調が詰問になっているな。


「嫌でも耳に入ってくるだろ。良い意味で目立つ話も悪い話も。その時は真贋を自分の目で確かめるだけだな」

「そこがあやしくない?」

「風評や遠目の容姿だけで決めるわけにはいけないってさっきも言ったろ? それに候補は君たち三人だけでもないしね、在学中の生徒が対象だよ」

「それもそうか。学園一のアイドルじゃなくて、ヒロイン。記憶に残る女の子、か……」


 日下部さんが感慨深げに頷く。


「いいわよね。幸せになって欲しい系女子は」

「北条さんは不幸になって欲しい女子系の自覚はあるの?」


 日下部さんの嫌味に岡島さんが笑いながらツッコミをいれる。毒舌だわ。


「性格がキツいもんね。真衣ちゃんは」

「いわないでよミキ」


 この二人は仲よさそうだな。

 こういう素をもっと見せたら柔らかい雰囲気になるのに。とまあこんなことを口に出すヤツは無粋でモテない。

 俺のようにな!


「これで解放してもらえるかな? これだとまったく調査員の意味がないんだけど!」

「そこは三流ってところね。調査員さん」


 にやりと笑う北条さん。そういう強気は嫌いじゃないぜ。


「オープンカードで勝負するタイプだったらどうする?」


 真面目な話、ある程度漏れる前提であいつらに話したのだ。

 秘密ってのは本当に秘密にしたい場合、人には話さないものさ。


「ブラフじゃなさそうだよね、あなたの場合」


 スポーツ選手なら駆け引きに敏感だよな。


「学園一の美少女に選ばれたとしてもヒロインガイドなんてマイナーな雑誌の取材を受けるだけだ。懸賞にあたったらラッキーぐらいに思ってくれ」

「その後の影響力が桁違いなんですがそれは!」

「それな」


 日下部さんの問いを否定はしない。


「嫌がったらどうするのよ」

「そりゃ辞退だ。ただし多くの生徒から支持されている場合はそうでもない」


 本人が嫌なら仕方ないが、俺の耳に入るレベル。いわゆる他薦が強ければお願いするしかない。彼氏がいようがその気はないといっても、その女子の魅力なんだ。

 それでもダメなら他をあたるけどな。


「あとはそうだな。彼氏持ちの例を先ほど出したが、学園一の美少女候補と調査員が付き合うことになった場合、報告義務はあるな。審査継続か除外かを判断するそうだ。まずないだろうな」

「ないわね」


 断定しなくても俺は理解している


「ルール変更がある場合もあるってことなの?」

「多少の権限はあるんだ。いざとなったら、不本意だが選挙みたいな投票制にしてもいい。校長の許可はとってある」


 学園一の美少女、という曖昧な定義で審査するのだ。ルール策定側であるヒロインガイドも柔軟に対応してくれる。

 行き当たりばったりだけどな。そのゆるさが今なお雑誌が継続している理由なのだろう。


「とってあるの?!」

「当然だ。運営は文部科学省系統のNPO法人だ。調査員はアルバイトみたいなもんだし」

「うさんくさいなー!」

「俺もそう思う」


 正直な感想だ。


「そんなにすぐに報告したりしないさ。君たちはいつも通りの学園生活を送れば良い。それでは俺はこれで」


 これ以上追求されると危なそうだ。そそくさと退散することにした。

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