第4話 親の話と、家出の理由
そこから十分ほど歩き、辿り着いたのは……墓地だった。
技術が進んだ世の中、バーチャル空間やAI技術が発展し、「死」という概念は大きく変わった。生きている内にAIに自分の性格や行動パターンなどを学習させることで、もし自分が死んでもバーチャル空間で遺族はAIと話し、寂しい思いはさせない。また、医学自体も発達したことで、人は死にづらくなった。
だからお墓を建てたいという人も少なくなり、全国から墓地はどんどんなくなっていった。今では都市部にしかない。
ここは、僕の家から一番近い都市部の墓地だった。たぶん、ここにある。
「サラ、
「分かった!」
僕たちは手分けして、墓石に刻まれた名前を見て回っていく。はやる気持ちを抑えながら、見逃さぬよう目を凝らし、皇の字を探していく。
どこだ、どこにある。
「コウ~! 見つけたよ!!」
そこでサラが僕の名を叫び、大きく手を振って来た。その方向に、僕は慌てて駆け出す。
たまに岩に躓きかけて、それでも必死に足を動かして……僕は、サラの隣に立った。
『皇家之墓』
石には、そう刻まれている。
ここだ、ここに。
父さんと、兄さんが、いる。
そう思うと、自然と涙が零れてきた。……今まで、父さんと兄がいないことなんて、普通だったのに。なんだかこの墓石を見ていると……それは現実なのだと、突き付けられたような気がしたのだ。
「……僕の母さん、家から出してくれないって話、したろ」
「……うん」
「たぶん、父さんと兄さんが亡くなったせいなんだと思う」
母さんは、何度も言った。お父さんは無人タクシーに乗っていたら交通事故に巻き込まれて亡くなって、お兄ちゃんはベビーベッドから転落し、安全装置が作動せず、そのまま頭を打って亡くなったのだと。
だから考新は、お母さんを一人にしないでね。何度も、そう言われた。
頻繁に僕の様子を見てくるのは、きっと自分の目で僕の安全を確認しないと気が収まらないから。僕を外に出してくれないのは、きっと僕が外でどんな危険な目に遭うか、分からないから。
そう話すとサラは、悲しそうな表情をしていた。でも、慰めの言葉は口にしなかった。
「……私は、逆なんだよね」
「逆?」
「そう。うちのお父さん、私に関心がないの。……私が五歳の時に、お母さんが亡くなって……そこから、お父さんは私のことをあんまり見なくなった。笑うこともなくなったし、話しかけても、無視されるようになった。学校のことも聞かれない。勝手に外に出て、帰っても……何も反応してくれない。だから今日は初めて、ここまで遠出したけど……きっと私のこと、心配してない」
その話を聞き、合点がいった。どうして、サラはバングルを使っていたのか。
……バングルの利用情報をわざと父親に送信することで、探しに来て、迎えに来てほしかったのだ。そのための、家出なのだと。
「だから私、コウのこと、ちょっと羨ましいって思う。……ごめん。コウはその状況が辛いだろうに」
「……いや」
悲しそうな表情をするサラに、僕はそれしか返せなかった。もっと気の利いたことを言えればいいんだろうけど、頭の中には何も……適切な言葉が、浮かばなかった。
僕もサラも、親のことで悩んでいた。たまたま暇同士で通話して、そこからこんな家出をして、事情は違えど悩みは同じ……こんな偶然が、あるんだな。
僕は、サラの手を握る。サラは驚いたように、勢い良く顔を上げた。
「……帰ろう」
最初は、僕たちは気が合わないと思っていた。いや、今も気が合うかと聞かれると、それはNoだろうけど。
それでもきっと、僕もサラも、今、同じ気持ちだと思うから。
「……うん」
泣きそうな顔をしながら、サラは小さく頷いた。
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