第250話
「きゃっ。わっ、わわわわ、いたっ」
転移したときに体勢を崩し、竜から放り出された。
空、海、黒い鱗、そして地面。
目に映る風景がパッパッっと変わっていき、何も出来ぬまま地面に落ちた。
地面を見ながら、痛みに耐える。
立ち上がって、ここがどこだか確かめないと。
膝をつき、立ち上がろうとした私に影が差す。
ぎぃん!
見上げるとアルフレッド様が竜の爪を剣で弾いていた。
アルフレッド様はそのまま、肩にかけた袋から結界の魔導具を取り出し、地面に刺す。
「ここから離れて!」
竜の攻撃をかわしながら、竜の周りを一周、そしてもう一周。
竜は暴れているが、その攻撃がこちらに届かなくなった。
歩いてアルフレッド様が戻ってくる。
「これで少しの間、大丈夫だろう」
そうか。結界の魔導具は結界を張る向きを指示して付与してある。
それを逆向きにして檻にしてしまったのだ。
私には考えもつかなかったことだ。
「さて、それでここはどこなんだ?」
アルフレッド様が周りを見渡しながら、言う。
「竜の背に……魔法陣があったの。転移の魔法陣。それを起動させただけだから、私もどこかは……」
「そうか。あっちに石碑のようなものがあった。現状竜の対策も思いつかないし、そこを起点にまずはここがどこか調べよう。どこか分かれば援軍も呼べるだろう」
二人で、竜をぐるりと回り、反対側に出る。
私が落ちた側からは巨大な竜で何も見えなかったが、反対側には確かに大きな石碑があった。
黒ずんで、蔦も這っていた。きっと長年放置されていた。誰に読まれるわけでもなく。
アルフレッド様が先に台座となる石にのぼり、手を差し伸べてくれる。
私もアルフレッド様に引っ張り上げてもらいながら、ようやく巨大な石碑の台座に上る。
アルフレッド様が剣で蔦を切りはぎ取った。
蔦の下から現れたのは、古代語だった。
背後の竜を警戒しつつ、古代語を読む。
「モノジア 知が集う場所」
モノジア……。宮殿で解読した古代語の中にもあった言葉だ。
確か『守り人よ。その本を開け。時が来ればモノジアに眠る叡智と共に世界を導くがいい』と書かれていた。
なんとなく場所の名前だとは思っていたが、モノジアという場所がどこにあるのかを私は知らなかった。
その場所がここ。だが、この場所が地図上のどこにあるかは石碑を見てもやはりわからなかった。
石碑を読んでわかったこともある。
この石碑を作ったのは、ライブラリアンだということ。
私は初めて、石碑を通じて自分以外のライブラリアンと対面しているような気がしていた。
「テルミス、ちょっと」
いつの間にか台座から降りていたアルフレッド様が手に何かを持っている。
大きな石碑の周りは、長年誰もいない場所だからなのか草が伸び放題だった。
そんな背の高い草の中に本が置いてあったという。
「草が石の上にまで蔓延っていて分かりにくいが、ここもまた台座の一番下の部分だ。石碑に捧げていたのかもしれない」
アルフレッド様はそう言った。
紙をただ束ねただけの本だった。
草の中に置かれていたというのに、朽ちるわけでも、汚れているわけでもなかった。
なるほど。だから朽ちず、汚れず本の形をとどめているのか。
アルフレッド様から手渡された本をひっくり返し、表紙を読む。
そこに書かれていた文字は見慣れた文字だった。
『植物大全 ゴラム・ロイド』
初めて、実物を見た。
パラパラとめくる。私がいつもライブラリアンのスキルで読んだ通りの内容だ。
ひらりと紙が本から零れ落ちた。
拾ってくれたアルフレッド様が驚いた声を出す。
「魔物を元に戻す花だと?」
どういうことかと二人で紙を覗き込む。
そこには
鍾乳洞の中にある茎も葉も花びらも真っ白の花のようだ。
紙の裏には地図まで書いてある。
紙の端に走り書きがあった。
「ウィスパの希望」
邪竜を見て、イヴはウィスパと呼んでいた。
これを研究していたゴラムさんは、ウィスパと呼ばれるこの竜が邪竜になると知っていたんじゃないだろうか。
そして、それを止めたかったのだとそう思った。
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