第249話
アグネスとレスリー様は、結界を付与した魔導具だけでなく、ポーションや薬も必要そうなものをたくさん積んで持ってきてくれた。
アグネスとショーン様が後ろで怪我をした冒険者たちの治療をし、イヴは何度弾き飛ばされても、何度でも立ち上がり、ウィスパに向かっていく。
アルフレッド様は、接近戦は不利と思ったのか竜の攻撃をひらりひらりとかわしながら、氷の杭を打ち込む。
だがそれも邪竜には効かない。
ちらりとアルフレッド様がこちらを見て、戻ってくる。
何か策を思いついたのか、アグネスたちが持ってきた結界の魔導具をいくつか袋から出しここに残すと、残りを袋ごと持っていった。
「これ、使わせてもらうぞ!」と言って。
思いついた策は近くに寄らねばならないのか、先ほどより竜に近づくアルフレッド様。
私も何度も盾状の結界をだし、冒険者たちやイヴ、ネイト、アルフレッド様への竜の攻撃を防ぐ。
だが、これではいつか魔力が無くなってしまう。
どうすれば。
竜の尾がぶぅんと振られる。
あっという間のことで盾状結界を張る暇もなかった。
アルフレッド様に竜の尾が当たり飛んで行く。
勝手に体が動いていた。
「アルフレッド様!」
よかった。大丈夫だとほっとした瞬間思いついた。
そうよ。これなら、竜を追い返せる。
これならだれも死なない。
これが一番……ううん、これしかない。
ふらりと一歩を踏み出す。
大丈夫、きっと大丈夫。
でも、どこならいい? とにかく遠くね。
大丈夫、きっとやってみせる。
「テルミス?」
後ろでアルフレッド様の声が聞こえる。
起き上がって止められる前に行かなくちゃ。
真っ黒な竜を見上げる。大きい。本当に大丈夫かしら。
でもやるしかない。これしかないのだから。
「
転移先は竜の背中。
巨大な竜は私が竜の背に乗ったことも気が付かないらしく、目の前の冒険者たちを振り払っている。
よし、やるぞ。
そう思ったときに、手元の鱗が光っているのに気が付いた。
なんで?
これって、魔法陣じゃない。
しかもこの魔法陣……。
初めて見た魔法陣だった。けれど感覚的にわかってしまった。
これは転移の魔法陣だと。
もともと転移しようと思っていたのだ。
これを使ってみよう。
「みんな! 離れて――――!」
魔法陣を起動させる。
周囲が光り、私の視界から冒険者も帝都の町も消えた。
◇
竜の尾が目前に迫っているのに気が付き、受け身の体勢をとる。
とてつもなく重い一撃が全身に響き、吹き飛ばされた。
「アルフレッド様!」
声を聞いた気がした。
テルミスの声だ。
意識がまだはっきりしていないこともあって、幻聴だと思った。
じんわりと暖かい空気に包まれたような気持になったと思ったら、体の痛みが引いていた。
目を開け、視界の隅にふらりと竜へ寄っていくテルミスが見えた。
「テルミス?」
大丈夫か? 危ないから下がるんだ。
言いたいことはたくさんあった。
けれど、何か見据えたように竜を見るテルミスに嫌な予感がする。
起き上がって、テルミスを捕まえようと手を伸ばし、テルミスまであと少しの所でテルミスが消えた。
転移だ。
先ほどまでテルミスが見ていた竜を仰ぎ見る。
「くそっ」
そこには竜の背にしがみついているテルミスがいた。
待てよ、待てよ。
一人で行くんじゃない。
脚に身体強化をかけ、竜に近づく。
氷の足場を出しては踏み砕き、竜にのぼる。
待て。
一人で背負うんじゃないと言っただろう!
「みんな! 離れて――――!」
竜の翼にしがみつく。
光が俺らを包み込んだ。
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