第234話
ユリシーズ殿下と私は今、以前壊してしまったスキル鑑定具を覗き込んでいる。
「何か穴が見えるか?」
以前は台座の部分とその上に載っているクアルソをくっつけた状態で魔力を通していた。
そうすると魔力が台座まで辿り着くと四つに分かれることが分かった。
だからどうしても台座の方ばかり見てしまっていた。
今は、台座なしのクアルソだけに魔力を通している。
額に汗を浮かべながら、二人でクアルソを見つめる。
何故私たちがクアルソを見つめているかというと、話は魔物被害にあった村へ行ったところまでさかのぼる。
ウォーレン様から血が流れ過ぎた場所は呪われるという話を聞き、私はその理由が衛生面が劣悪か瘴気が濃いか、またはその両方だと考えた。
もしこの仮説が正しければ、村を焼く必要はない。
結界を張って、その地の瘴気も汚れもきれいに浄化すればいいからだ。
それで話を聞いた翌日にユリシーズ殿下に相談して、村へ向かった。
アルフレッド様は私が行くことにいい顔はしなかったが、止めても無駄だと思ったようだった。
村は私が思っていたよりもひどい状態で、目を覆いたくなった。
私は護身用のネックレスをしていたためか何も感じなかったが、一緒に行った騎士や魔法使いたちは村に近づくにつれ、顔色が悪くなり、何人かは村に入ることができなかった。
どんなものかと村の入り口で一瞬だけネックレスを外すとずんと体が重くなった。
まだ抵抗できる人たちが村の中へ入り、現状を確認する。
普段はそんなことはしないらしい。遠くから火を放つだけだ。
けれど今回は、結界で浄化するという初の試みの為、何か変わったのかわかるよう事前に村の中を見て回っているようだ。
少しして、一人の騎士が手に何かを持って帰ってきた。
「賢者様、これだけ先に浄化することは可能ですか? 教会から持ち帰るよう頼まれていまして」
そう言って渡されたのは上部に取り付けられたクアルソが真っ黒になったスキル鑑定具だった。
ちょうどこの地のスキル鑑定中だったようだ。
受け取って、
「助かりました。これで問題なく返せそうです」
そう言って騎士が馬車に載せる。
村の現状を確認した後、村の半分に
これも魔法を使った前後を比較するためだ。
半分がきれいになる。村に入れなかった騎士たちもこちらは問題なく入れるようになった。
その後あれこれ魔法使いたちが調べ、初めてのことだから引き続きどうなるか観察は必要としながらも、結界が呪われた地にも有効であると認められ、村は存続を許された。
あとは残りの半分も浄化するだけという段階になって、問題が起こった。
先ほどの騎士が戻ってきて、スキル鑑定具を見せてくれたのだ。灰色になり、その色がどんどん濃くなっていくスキル鑑定具を。
そこで再びスキル鑑定具を浄化し、浄化前の村と浄化後の村に一時間ほど置いてみた。
浄化後の村では変化がなかったが、浄化前の村では灰色に変わった。
それで思い出したのが、少し前に読んだ『魔導具の格があがる10の秘訣』だ。
洞窟の天井に書かれていたというこの文章の中に、魔力浸透処理をすることで魔力を通しやすくなると書いてあった。
それを見た時、子供の少ない魔力でも発動するスキル鑑定具もきっとこの処理をしているのだろうと思った。
もしそうならば……スキル鑑定具に魔力浸透処理が施してあるとするならば、魔力浸透処理は魔力だけでなく瘴気も通しやすくするのかもしれない。
そういうわけで、村から帰ってきた今、ユリシーズ殿下と以前壊したスキル鑑定具を確認している。
「だめだ。私には見えない」
ユリシーズ殿下がギブアップする。
私はもう少し粘る。魔力がまっすぐ通っているここにある気がする……。
集中してそこばかりを見つめる。
「あ、ありました。ここです。小さな穴がいくつも空いています。いけます。これで、瘴気感知器が作れます!」
魔力を通す道のように針よりも細い穴がいくつも上から下へと空いていた。
「それなら、全方位から大量に穴を開ければ、一瞬で瘴気を測れるのではないか?」
一瞬で? もしそうならすごいことだ。
町を巡回する騎士に持たせれば、すぐに瘴気が多い場所が分かり、そこにある問題を解決できるから。
問題が解決したら、その地に住む人も幸せになって、瘴気も減って、竜も来ないし、魔物も減る。良い事づくめだ! と思ったのだが、それをユリシーズ殿下に伝えたら、実際はそんなに簡単ではないと言われてしまった。
「だがきっかけにはなる。心づもりもできる。それだけでもすごく助かる。国で何か対策をしようとすれば、なんであれとても時間がかかる物なんだ」
◆作者からのお知らせ◆
ライブラリアン3巻が7月1日発売です!
発売まで残り1週間。ちょっとそわそわしてきました。
公式の特集ページがアップされましたら、詳しい書籍情報を近況報告に書く予定です。
よろしくお願いいたします。
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