第229話
「本日より私が賢者様の護衛を務めさせてもらいます」
武道会の翌日、早速アルフレッド様が挨拶に来た。
「良いのですか?」
呆れられたと思っていたのに……。
「良い……というよりも、これが最善だと考えました」
部屋の中には侍女もいるので、アルフレッド様は丁寧な言葉で話しかけている。
「私には、妹のように思っている人がいるのですが……その子は目を離すと何をするかわからないのですよ」
そう言ってアルフレッド様はにこりと笑った。
突然始まった妹の話にアルフレッド様の背後の壁に控えていた侍女が首をかしげる。
だが、当然私にはわかる。
私が何をやらかすかわからないから、アルフレッド様は賢者付きの護衛になったと言っているのだ。
ニコリと笑った笑顔が、怖い。これは、私が賢者でなければ説教食らっているところだ。
「こ、これからよろしくお願いします」
この会話を長引かせるとダメージが大きくなる予感がして、こちらも挨拶をして切り上げる。
そして、逃げるように部屋に備え付けられている机に向かい、古代語の解読に取り掛かった。
今読んでいるのは、洞窟の壁に書かれていた文字だ。
既に一つは解読した。
その一つは、簡単だったからだ。
全てが古代語で書かれているので、訳するのに時間はかかったが、少し訳したらわかった。
何度も何度も読んだ『魔本の基本』の内容がかいつまんで書かれていたからだ。
魔力感知、魔力コントロール、魔法として表現する。
そういうことが書かれていた。
そしてまだすべてを読むことはできていないが、今読んでいるのは魔導具作りの要点が書かれているものだ。
これに関する本は読んだことがない。
それでもそう断言できるのは、最初の一行にこう書かれていたからだ。
『魔導具の格があがる10の秘訣』 ルッソ
昨日読んだところには、魔法陣の上にさらに魔力を覆いかぶせることで魔法陣を隠すことができると書いてあった。
そこからスキル鑑定具はもしかしたら魔法陣を魔力で覆っているから魔法陣が見えないのかもしれないと思った。
読んだことのない本の内容が書かれている。そう思えば、当然期待も上がる。
これには、何か今の状況の手助けになるヒントが書かれているかもしれない。
さぁ、今日の分だ。
ライブラリアンで『古代語』という本を出し、翻訳していく。
今日翻訳した部分にはこう書かれていた。
『魔導具を作る際に大事なのは、付与魔法の基本である適切な素材に適切な処理を施しているか、そしてもう一つ。いかに魔力を通しやすくするか。
魔力浸透処理と呼ぶこの処理をしたものとしていないものでは、その魔導具に必要な魔力量は雲泥の差だ。
魔力浸透処理をする前に、全てのものは魔力を持つということを理解するといい。生きとし生けるものはもちろん、木から切った枝、木を加工して作った箱にさえ魔力は宿る。
その魔力量はほんの少しで、生きているもののように聖杯があるわけではない。
ただ生きてきたときに纏っていた魔力の残差が残っているのだ。
それに自身の魔力を針のように、槍のようにとがらせ、ぶすぶすと穴を開ける。
実際に穴が開くわけではない。けれど、残っていた魔力に穴をあけることができる。
その穴が多ければ多いほど、後に魔力を注入する際に魔力が通りやすくなるというわけだ。』
魔力に穴をあける? 前世にあったスポンジが水を吸うようなことだろうか。
おもしろい。
スキル鑑定具は子供でも扱えるほど消費魔力が少ない。あれも魔力の穴が開いて魔力を通しやすくしていたのだろうか。
昼食の時間になる。
昼食は一人で食べることも多いが、ユリシーズ殿下が忙しい時は一緒に食事をとり、その間に互いに分かったことを報告しあっている。
今日はユリシーズ殿下が忙しいようで、昼食に招かれた。
早速、先ほど解読した洞窟に書かれた古代語について報告する。
「あの洞窟の文字は別々の場所で発見されたものなのですよね? 今日は先日報告したものと別のものを訳していたのですが、こちらもやはり本の要約のようでした」
「そうだな、地理的にも北と南で随分離れた場所だ。面白いな。先日の話だと、その本は存在しているのだろう? つまり、本を作る技術はあったわけだ。それなのになぜ洞窟に書き記す? 洞窟に書かれた文言を本に編集したのか? いや、タイトルが書かれていることから考えると洞窟より先に本が存在したと考える方が妥当か?」
ユリウスさんは、食べる手を止め熟考モードに入ってしまった。
オルトヴェイン先生が時間がないのだから、先に食事をと促し、食事を再開する。
「あぁ、そうだ。今日の授業から一人受講生が追加になる。結界の使い手なら聖魔法使いだろうと文句を言ってきた。面倒かもしれないが、あちらの言い分も一理ある。よろしく頼む」
「聖魔法使いの方ですか! 確かに結界は聖魔法を使いますからきっと他の方より習得が容易なのではないでしょうか」
弾む私の声とは裏腹に、ユリシーズ殿下は疲れた声で続ける。
「そうなんだがな……。君にはちょっと面倒だと思うのだ」
言っている意味が分からず、首をかしげる。
「優秀なんだが、あそこの一家はなぁ。まぁいい。他の受講生と同じようにしてくれればいい」
「そうですね! もう魔法陣の書き方などの座学も入っていますが、皆の復習にもなりますし、大丈夫です」
少し授業をし慣れてきたこともあって、胸を叩く私をユリシーズ殿下もオルトヴェイン先生もジュードさんも何とも言えない顔で見つめていた。
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