第228話
初めて見た武道会はすごい盛り上がりだった。
トーナメント方式で騎士たちが戦うのだが、魔法でも、剣でも何でもありなこの試合。
だからこそ攻撃も守りも多彩で見る目も楽しい。
観客は皆騎士たちの名前を知っているようで、出場する騎士たちの名前が叫ばれたり、「いいぞー!」とエールが送られたり、どよめいたり、歓声が上がったり。
競技場内は、感じたことのないような熱に包まれている。
運動が苦手な私には、剣技の良し悪しはわからない。
けれど、スキルとはいえ魔法の事なら少しは分かるし、動きも
「危ないっ!」と肝を冷やしながら、いつの間にか手を握りしめながら試合の様子を見ていた。
その人が場内に入ってきたのは、初戦の最後の組だった。
会場内に一際黄色い声援があがる。
「アルフレッド様ー! 私のために勝ってくださいましー」
客席最前列で一人の女性が声をあげた。
あの方は誰だろう? 恋人かしら?
そう思った時、同じく最前列の別の女性が「いいえ、アルフレッド様! 私たちのために頑張ってください」と声をあげた。
さすがだ。
去年は確か武道会に出場することで、騎士団に応援に来る女性たちの間でアルフレッド様の結婚の話が駆け巡ったため出場を取りやめたと言っていた。
今年はもういいのだろうか。
それにしても、アルフレッド様……。久しぶりだな。
直接会ったのは、帝都に帰ってきてすぐの時。
あの時は「なぜ帰ってきたのか」と怒られ、今後は勝手にすると言われたのだ。
愛想をつかされたようで、あれから一度も会うことはおろか
シャンギーラにいた頃は週に一度は話をしていたので、最初は随分寂しかった。
最近は、魔法陣の授業や古代語の解読に精を出すことで、寂しさを紛らわせている。
でも久しぶりに見ちゃったから、今日は寂しくなりそうだなと思いながら、アルフレッド様を見下ろした。
当たり前だが、アルフレッド様はちらりともこちらを見ない。
そして、初戦は瞬殺。あっという間に勝ってしまった。
あまりの速さに、会場内も一瞬静まり返り、次いで大歓声が巻き起こった。
それから2戦目も、3戦目もアルフレッド様は難なく勝ち続け、ついに決勝にまで勝ち進んできた。
真っ先に声援を送っていた女性の周りは騒がしく、周囲の観客が「お? 結婚か?」「どっちだ、どっちの娘なんだ?」と観客の興味は勝負の行方よりも、アルフレッド様の願いに移っているようだ。
何やっているんだろう。
相手は去年の優勝者のようで、剣の打ち合いは拮抗している。
「優勝はバートランド公爵の弟かな」
皇帝陛下がつぶやいた。
なぜわかる? と思い、陛下の言葉の続きを待っていると、第一皇子エルドレッド殿下が言葉を継ぐ。
「そうですね。未だ魔法を使っていませんから」
確かに相手は時折火で攻撃もするが、アルフレッド様はこの大会が始まってまだ一度も魔法を使っていない。
「彼は一時賢者と噂されたほど魔法の秀でた男。再びあらぬうわさが流れぬよう、なるべく魔法なしで戦うと思うがな」
陛下が付け足した時、炎がちりりとアルフレッド様の袖を焼いた。
アルフレッド様の口が動く。
「
相手が再びアルフレッド様に向かおうと前傾姿勢になった時、相手の足元に小さな、けれど強力な竜巻が一瞬起こった。
私も
相手は少し体勢を崩し、その隙にアルフレッド様が相手の剣を跳ね飛ばし、自身の剣を首元に突きつける。
「勝負あり! 優勝、アルフレッド!」
審判の声が競技場内に響き、固唾をのんで見守っていた観客たちが一気に沸いた。
すごい、アルフレッド様。
優勝しちゃった。
けれど、もう一つ驚いたのは最後のほとんどの人が気づかないくらい小さな魔法。
アルフレッド様に魔法陣を教えたのは、ドレイトにいた時のほんの少しの間。
帝都に来て、時折魔法の練習に付き合ってもらったことはあったし、その時に魔法陣の事を話したりもした。
けれど、今宮殿の魔法使いたちに教えているように時間を取ってしっかり教えたことはない。
風はアルフレッド様のスキルだ。だから使いやすいのは分かっている。
だけどほんの少ししか教えていないのに、アルフレッド様はもう完全に魔法陣で魔法を使えている、いや、使い慣れている域だ。
今魔法陣の授業をしているからわかる。
アルフレッド様は、魔法の素養が飛びぬけて高い。
そんなことを考えているうちに、皇帝陛下が立ち上がる。
今、競技場内は皇帝陛下とアルフレッド様の会話を邪魔せぬよう、そして、アルフレッド様の望みを聞き漏らさぬよう静寂が場を支配している。
「望みはなんだ」
陛下の声が響き渡る。
アルフレッド様は何を願うのだろう。
「私を、賢者様付の騎士に。賢者様の護衛に関する全権をいただきたく存じます」
アルフレッド様の声が響いた。
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