第222話【閑話】ユリウス視点

クラティエ帝国には4人の皇子がいる。

正妃から生まれた第一皇子エルドレッド、第四皇子イライアス。

副妃から生まれたのは、第二皇子ユリシーズ、第三皇子オスニエル。


生まれたのは全て男児。

皇帝になるために兄弟間で争いになるのを避けるため、皇帝は早々にエルドレッドを皇太子に定めた。

そして、残りの三人には兄を助けよと。

実際エルドレッドは優秀だ。

文武ともに非の打ち所がない。

だからこそ彼の兄弟たちも、その皇帝の決定に否を唱えなかった。

第三皇子オスニエルは、人当たりのいい皇子だった。

言語も優れ、頭の回転も速い。外交を担う予定だった。

第四皇子イライアスは、強さを極めようとしていた。

武の方で兄の力になろうと思っていたのだ。

では、第二皇子はどうだろうか。

聖魔法使いだった彼は、聖女として役に立つことが期待された。

隣国トリフォニアのように聖女(彼がもしもその役を担うなら聖人だろうか)として民の拠り所になることを。

それが、彼は嫌だった。

だから決めたのだ。

スキルなど関係ない世の中を作るのだと。


「オルトヴェイン、これから忙しくなるぞ」

「ユリウス、城に戻るのか」

「あぁ」

「意外だな。あの子を助手にしたとき、俺はお前が賢者になるのかと思ったよ。賢者になりたがってただろう」

オルトヴェインは、私の側近だ。

普段は、私が研究者として研究所に籠っているから、オルトヴェインは隣の学園で教師をしている。

だから、昔の私のこともよく知った男だ。

スキルなど関係ない世の中を作ろうと思って、あらゆる文献に当たっていた時に見つけたのが賢者だった。

賢者は、複数のスキルを使ったと文献には書いてあった。

スキルなんて関係ないというようなその生き様がかっこよくて、まだ子供だった時の私もそうなりたいと考えた。

オスニエルの友人のアルフレッドに複数スキルがあると知った時は、人知れず嫉妬もした。

私も聖魔法などではなく、もっと別のスキルであればよかったのにと。

聖魔法でなければ、聖女になんて望まれなかっただろう。

そして、テルミス嬢に出会ったときも衝撃だった。

彼女のやっている魔法が一切わからなかった。

課外授業で崖から落ちた時は聖魔法をつかっていたし、火球ファイアーボールを消していたのも見た。

賢者だ……と思った。

どういう理論でそれができているのか、何が何だかさっぱりわからなかった。

だから助手として採用して、その原理を学んだ。

その結果、テルミス嬢と同じく魔法陣を使えば私にもできることが分かった。

だけど……。

「あれは私では無理だよ。竜を退けたのはもちろんだが、本を読むのもくうを使うのも。あれは、選ばれた人のだ」

火も水も風も地も聖魔法も緑魔法も身体強化も、付与魔法も全て魔法陣を勉強すればできるようになる。

だが、ライブラリアンはどうだ。

「何かを知ることができる」という意味では、鑑定もライブラリアンに似ているが、こちらも魔法陣では使えない。

その結果から導き出されるものは何か――これらこそが本当のスキル。

誰もが使えないもの。選ばれし者のスキル。

選ばれない側の人間だから私は分かる。

テルミス嬢は、スキル鑑定具は魔法陣や古代語を勉強する手間と時間をかけないために作られたものだろうと言っていたが、多分違う。

もちろん全部間違いだとは言わない。そういう側面もあるだろう。

だけど、根っこのところではもっとドロドロした嫉妬が渦巻いているような気がしてならない。

選ばれない側の人間も、何かすごい力を持っていると思うためのもの。

どんなものだって突き詰めれば、人間の泥臭い欲望を糧に作られているのだから。


「で、賢者が戻ってきたら、俺らはどう動くんだ?」

オルトヴェインが聞く。

「私の目標は今も変わらずスキルなんて関係ない世界だ。だから守る」

「守る?」

「あぁ、今はまだ実現できていないが、スキルなんて関係ない世界なら少女一人に賢者なんてものを背負わせるなんておかしいだろ。あの子は確かに賢者だ。だがそれ以前に一人の少女。私たち大人が守るのは当たり前ではないか?」

「そうだな」

トリフォニアにいる弟オスニエル、テルミス嬢の家族にも連絡を取らねばならないし、賢者が不在だった理由も考えねば。

つつがなく、終わるよう下準備は念入りに。

さぁ、これから忙しくなりそうだ。

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