第217話
バイロンさんと話をしてから一晩考えて、イヴの部屋をノックする。
「イヴ、私もう行こうと思うの」
「何かあった?」と優しく聞くイヴに、帝都の状況やアルフレッド様が犠牲になってしまっていることを話す。
「だからもう行かないと。私、父様や兄様たちがスキル狩りを解決してくれたときに思ったの。もう待つだけなんて嫌だって。私のせいでみんなに何かがあったら嫌だって。私も守りたいって」
イヴがむぎゅっと私を抱きしめる。
「テルー。今何歳だっけ」
「え? 11歳ですが」
「まだ子供じゃない。ううん、違うわ。まだ子供でいていいのよ。あの子が勝手に守っているんだから、守らせとけばいいの」
イヴの言葉に私は声が出なくなる。
確かに私はまだ子供。普通なら学園にもまだ通っていないくらいの年だ。
何も役に立たないのかもしれない。
でも……守りたい。
正直後の事なんて考えていない。
昨夜一日考えて、賢者になったからって命を取られるわけではあるまいし……とそういう決断に至ったのだ。
「イヴ。それでも行きたい。そう。私はまだ子供。だから、行きたいって言ったら行きたいのよ!」
ふっきれてニコッと笑ったら、イヴが笑い出す。
「そうね。それは仕方ないわ。なら次は私が報告する番ね。テルー、私も行くわ帝都に!」
「うそ! 本当ですか⁉ でも探し物は……いいの?」
「うん。ここにはないみたい。どこに行けば見つかるかわからないけどね、テル―と一緒に行った方が見つかる気がするの。勘だけどね!」
イヴと一緒に行くことが決まり、今度は専属の皆に出発の報告だ。
そう思って部屋に戻ると、専属皆がそろっていた。
「お嬢様、次はどちらに?」
ちょっと芝居がかった声でネイトが聞く。
だから私も。
「ふふふ。みんな! 帰るわよ、帝都に!」
「はいっ!」
ネイトだけでなく、サリー、ルカ、アグネスまでそろいで返事をする。
一緒に部屋に来たイヴが笑う。
「もう息ぴったりじゃない!」
ユリウスさんやバイロンさんにも報告し、三日後には出発することになった。
アルフレッド様には内緒だ。絶対反対されるから。
バイロンさんに報告すれば、バイロンさんは引き続き帝都や教会の情報を集めてくれると言ってくれた。
ユリウスさんに報告したときは、ユリウスさんはそうなることを予感していたのか全く驚かなかった。
「ユリウスさん、アルフレッド様の事知っていたでしょう? なんで教えてくれなかったんですか?」
少し前に電話したとき、不自然にアルフレッド様の事を聞かれたのを思い出した。
今思い返せばあの時にはきっとユリウスさんはアルフレッド様の状況を知っていたのだろう。
だから、アルフレッド様の質問したんだ。
そう思って問いかけると、ユリウスさんはなんてことないように返答する。
「私が守ると約束したのは君だからな。君がシャンギーラにいるならその方が安全安心だ。まぁ、帰ってくるというなら仕方ない。こっちのことは、ヴィルフォード公爵家の弟君のことも気にするな。帰ってきたら、忙しくなるはずだ。最後の休みだと思ってゆっくり帰ってきなさい」
「ゆっくりって、でも……」
ゆっくりなんてしていられない。
今すぐにでもアルフレッド様の疑惑を晴らしたいのに。
もたもたしている間に教会に何か言われるかもしれないのに。
「大丈夫だ。状況が変われば連絡するし、それに君は転移が使えるのだからいざとなったらすぐに帰って来られるだろう。だから、ゆっくり帰りつつ、君は今君のできることをするんだ」
できること?
すぐに返事のなかったことで、私が疑問に思っていることが伝わったのかユリウスさんが例を挙げてくれる。
ユリウスさんがやった方がいいと助言をくれたのはこの3つ。
一つ。今まで通り
誰も知らない魔法なのだから、もっとできることがあるかもしれないから。
二つ。教会について調べること。
教会が私に目をつけているというのだから、何故目をつけているのか調べるのだ。
これはアルフレッド様にも言われていたことだったが、どうしても神話や魔法についての事ばかり先に調べてしまっていて、教会という組織については調べていなかった。
三つ。魔物について調べること。
魔物について調べるのは、帝都に現れた竜も魔物と同じなのではとユリウスさんは考えているかららしい。
魔物と人は相いれない。確かに帝都に現れたあの竜と共存は……できなさそうだなと思う。
「竜についても調べてほしいが、いかにライブラリアンと言えど、なかなか現れない竜についての本はないと思ってな。だから竜と魔物は同じだという線から調べてみよう」
そう言って、ユリウスさんとの話は終わった。
左手につけた緑色のミサンガを見る。
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