第216話
神の落書きも解読でき、
新しく知った魔法でも習得までの時間が短くなってきたのは、おそらく今までずっと魔法の勉強をしてきたからだ。
火も水も風も地も含まれている。
だからきっと私が魔法陣の勉強を始めたあの7歳の時に
魔力感知や魔力コントロールはもちろん、火も水も風も地も、聖魔法や緑魔法も、身体強化や他にもいろんな付与魔法を勉強し、使ってきたからこそ。
基礎……ともいうべき部分ができていたからこそ、
だって、私なりにずっと頑張ってきたから。
シャンギーラの復興もだいぶ進んでいる。
私たちが来た時点で、人が多い宿や港周辺はきれいに建て直されていたし、イヴがずっと手伝ってきた地域もだいぶきれいになってきて、少しずつ人が戻り始めている。
薬も調子に乗ってたくさん作った。
復興を手伝ったり、神の落書きを解読したり、
そんなゆっくりと充実した日々を過ごしていた私たち。
いつの間にか暑い夏もいつの間にか過ぎ去り、朝晩は少し寒いくらいだ。
それだけ季節が移り替わったのを証明するように専属たちも、シャンギーラ語で買い物したり簡単な会話ができるようになった。
帝都にいるユリウスさんとは
あまりに平和で帝都で賢者に祭り上げられそうだから、逃げて来たことを忘れそうになるほど。
旅の始めに専属たちに言った通りだった。
みんながいれば、たとえどんな理由で旅に出たとしても、旅はこんなにも楽しい。
そう無邪気に思っていられたのは、唯一帝都に残っている専属のベティから
ベティは受注しているアナスタージア様のドレスづくりのために残ったのだ。
納期が短いのでアナスタージア様の専属になったアーロンさんと一緒にドレスを作っている。
つい最近の電話で「もうすぐ作り終わるので、終わったら私もシャンギーラに向かいます!」と言っていたのだが、再び連絡をしてきたベティの声は沈んでいた。
「ベティ、どうしたの?」
「あの……えっと……」
「アナスタージア様のドレスづくりで何かトラブルでもあったの?」
「いえ、あの……」とベティが口ごもり、向こうで何か話している声が聞こえた。
「テルーちゃん、久しぶり。ちょっといいかな」
そして、次に声が聞こえたのはバイロンさんだった。
バイロンさんによると、ベティが宮殿で賢者についての噂を聞いてきたので共有とのことだった。
なるほど。賢者の事だったのか。
でも何であれほど言い淀んでいたのだろう。
「ベティが聞いてきたことから、裏取りもしましたが、現在アルフレッド様に賢者隠匿の疑いがかけられているようです」
「え……?」
バイロンさんによると、結界を使い気絶した私を抱えたネイトを民衆から逃がしたアルフレッド様が賢者の行き先を知っているのではないかという声が上がっているのだとか。
それに対し、アルフレッド様は知らぬ存ぜぬを通していたらしいのだが、そこで声をあげたのが教会だ。
「絶対に知っているはずだ。本当に賢者様のご意志で隠れているのか」と。
「ここからは推測ですが、教会にはテルーちゃんが賢者だとバレていると思う。ただ賢者というのはまだただの愛称だ。ナオミさんが海の民の呼ばれているようにね。今のところ国としては何の地位もない。だから賢者隠匿といっても、何か罪に問えるわけではない。たとえテルーちゃんが賢者でも、どこにでもいる一人の子供なのだから、どこへ行こうと自由だからだ」
そうよね……。帝都から出てはならないなんて言われていないもの。
「けどね、人の気持ちは別だ。実際に竜を退けた賢者の人気はうなぎ登りだ。今はそんなことにまでなっていないが、もし『賢者様が理不尽に閉じ込められていたら?』と誰かが囁けば、一気にその憎悪はアルフレッド様へ向かうと思う。それにもうすぐ冬だろう? また来るのではないかと怖がっている民衆が多いんだ」
前回竜が来たのは冬だった。だから、人々は寒さと共に否応なく竜の存在を思い出しているという。
バイロンさんから聞く全く予期していなかった状態に、言葉を失う。
アルフレッド様とは、昨日も話をした。
アルフレッド様はそんなこと……何も言っていなかった。何も。
アルフレッド様はいつもそう。
私の知らないところで、いつも全力で守ってくれている。
「その反応だとテルーちゃんは、アルフレッド様から聞かされていなかったんだろう? 多分、アルフレッド様は知らせたくなかったんだろうと思う。テルーちゃんが心配したり、気に病んだりするからね。だからベティも言い淀んでいたんだ。僕は専属ではないけれど、テルミス商会帝都支部長で、テルーちゃんはオーナーだ。つまり僕らの主はテルーちゃんだ。アルフレッド様の思惑ではなくて、テルーちゃんがどうしたいかを聞きたい。だから包み隠さず報告することにした。ごめんね」
そうバイロンさんは謝った。
その話を聞いて痛感する。
いつものことながら、私は全然頭が足りていなかったのだと、想像力が足りていなかったのだと。
自分だけ逃れて、残された人がどうなるか想像できていなかった。
みんないつも通りの平和な日々を過ごしていると思っていた。
「ううん。バイロンさん、教えてくれてありがとう」
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