第214話

その夜ユリウスさんと神の落書きで知ったことを話す。

くうか……。その落書きが正しいのか、他の文献は残っていないのかなど調べなければならないことはありそうだが、納得できる部分もあるな」

「納得できる?」

軽く私の話を聞いただけなのに、ユリウスさんには何かが見えているようだ。


「あぁ、君の仮説だとスキルは属性であり、誰もが全部の属性を持っているということだっただろう。そしてその持っている属性のバランスが取れた者は聖魔法や身体強化、緑魔法になり、火魔法が突出していればスキルは火になる、と」

そのとおり。

そのバランスは様々だが、皆が四つ全ての属性を持っているからこそ、スキル関係なく努力をすれば生活魔法が使えるようになるのだ。

そう私が続けると、ユリウスさんが相槌を打つ。

「そう、だから証明はまだできていないが、私も有力な仮説だと思っている。だが、この仮説に当てはまらないのが、君だ。魔法陣の記号も違うことから私たちの知らない第五の属性だろうと思っていたが、それでも腑に落ちないことがあったのだ」

そのままユリウスさんが語るところによると、ユリウスさんが腑に落ちていなかったのは、第五の属性の立ち位置だ。

もし私たちの知らない第五の属性があり、それが私の属性だったとする。

すると私の仮説をもとに考えれば、第五の属性が突出し、その他四つの属性も多かれ少なかれ持っていることになる。

だが私の話を聞けば、どの属性もバランスよく習得していったように思えたから不思議だったのだという。

確かに、何かの属性だけ難しかったということはない。

聖魔法と同様に他の四つの属性のバランスが取れていたのだろうとユリウスさんも考えていたが、最近は違うのではないかと思っていたとのこと。

「君がスキル鑑定具に魔力を通した時、私とジュードは四色の色が見え、君は白色一色だっただろう。その時、君のは全く違うものではないかと思ったのだ。だがそれもその落書きが正しければ納得がいく。くうが四属性を作ったのなら、くうにはその能力があるはずだからね」

そうだった。スキル鑑定具で私だけ白い光が広がったんだった。

眼強化アイブーストで人の魔力の属性が見えるようになって、いろんな人を見てきたけれど皆四色の光が見える。

白い光なんて私だけだ。

自分のことだから見えないのだと残念に思っていたけれど、見えていたのか。

自分の白い光を見つめる。

これが、くうの色なんだ。

そのあとユリウスさんは、試しに実験してみるといいと言って属性の話を切り上げた。


「そういえば君は、ヴィルフォード公爵家の弟君とは連絡を取っているのか?」

通話の最後にユリウスさんがたずねる。

「アルフレッド様ですか? アルフレッド様は心配性なので、週に一度は『問題はないか』と連絡をくださります」

「そうか、話はそれだけか?」

急にどうしたのだろうか。

私が倒れている間、専属たちと一緒にユリウスさんとアルフレッド様が、私を逃がすのに尽力してくださったと聞いている。

その時に仲良くなったのだろうか。

「いえ、あの……。シャンギーラで食べた食べ物の話ですとか、花見をした話ですとか、スイカ割をした話ですとか……そんな話も……しますよ」

私の話って食べ物ばかりだと気づき、ちょっぴり恥ずかしい。

「ははっ、そうか。楽しそうにやっているならいいんだ」

そう言って、ユリウスさんとの話は終わった。


次の日は雨だった。

いつもなら雨の日は転移の練習だ。

けれど、今日は違う。

ユリウスさんに言われた実験をやろうと思う。

紙にくうの魔法陣を描き、風をイメージする。

シエロ

そう唱えると、ふわりと風が舞い、部屋の隅にかけてある私のローブをはためかせた。

「本当にできちゃった……」

ユリウスさんに言われた実験はシンプルだ。

くうが四属性を内包するなら、くうの魔法陣で火や水、風や地の魔法が使えるのではないかと言うのだ。

その後、くうの魔法陣を使って、ろうそくに火も灯した。

コップに水も注いだし、宿の裏の土を少しだけ盛ることもできた。

サリーの火傷も治して、眼強化アイブーストも使ってみた。

ユリウスさんの話を聞いたときは、納得したし、理論上はできるのだろうと思っていた。

けれど、実際にできるようになってみると驚きを通り越して、少し……怖い。

皆とは違うのだと言われている気がした。

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