第212話
私が、あの洞窟から書き写してきた文章を解読している間に、専属たちが花見を企画し、連れて行ってくれた。
いつも行く団子屋さんの屋上で、飲んで、食べて、歌って。
結局花を見ていたのは最初だけだったかもしれない。
楽しかった。
そういえば、みんなのこんな笑顔も久しぶりだったと思い至る。
洞窟の文章はまだ解読できていない。
けれど多分神に関すること、きっと神話が書かれているのだと思う。
けれど、今まで読んだことない話だ。
知っている話なら、たとえシャンギーラの文字で書かれていても、古代語から訳さなければならないとしても。わかるはず。
わからない単語を読み飛ばしても、知っている話なら想像がつくから。
でも、それがない。
だから私の知らない神話なのだろうと思い、焦って解読していた。
けれど、だめね。
私の事情にみんなはついてきてくれたのに、私は何一つ考慮せず机にばかり向かっていた。
イヴのことだって、そう。
イヴは毎日出かけている。
最初は宿の周りを探索するのに、少ししてからは神の落書きを解読することばかりに気を取られて、何をしているか気に留めていなかった。
あの花見の日。
みんなの笑顔を見て、そういうことに気が付いた。
花見の翌日、反省してイヴに聞いてみると宿の周りや港の近くは、もう活気が出ているが島の反対側はまだ助けが必要な地域も多いらしい。
それで、イヴは毎日手伝いに行っていたのだ。
その日から私の毎日は変わった。
日の出ている時間は、イヴと共に島の反対側へ行き、手伝いをする。
私は力がないので専ら治療院で薬づくりを手伝っている。
ネイトは護衛なので、毎日共に行くし、他の専属たちも交代で来てくれている。
日が暮れ、宿に戻るとみんなでご飯を食べる。
湯あみなどを済ませ、寝るまでが私の勉強時間だ。
神の落書きの解読を進めている。
また、雨の日は宿の中で魔法の訓練をしている。
訓練しているのは、
ネイトがいざとなった時に、一人でも逃げられる方がいいんじゃないかというので、訓練を始めた。
以前物は転移させていたので、感覚をつかむのは簡単だった。
最初は宿の部屋の中を転移した。
問題なく移動できた。
隣のイヴの部屋に転移したこともある。
どうも一度行った場所ならできるようだ。
今のところ最長記録は、団子屋の屋上だ。
こっそり行って、こっそり帰ってきた。
雨の日だということを忘れて、ずぶぬれになった。
転移はさほど練習せずともできるようになったので、やはり転移はライブラリアンのスキルなのだろう。
魔法陣も古代語も使わず、現代語の呪文を唱えるだけでできるのだからきっとそうだ。
ネイトを連れて、部屋を移動したこともある。
倒れるほどではないが、ごっそり魔力がなくなった。
初めての魔法は魔力消費が激しいので、何度も使っていると魔力消費も少なくなっていくとは思うけれど。
暑くなってきたので、海辺に足を浸してぴちゃぴちゃと水遊びをしたこともあった。
手伝いに行っている治療院の治癒師たちとスイカ割をしたことも。
シャンギーラについてからの私たちは、復興の手伝いをしてはいたけれど、仕事もなく、学園もなく、賢者と担ぎ上げられることを懸念することもなく、純粋に日々の生活を楽しんでいた。
久しぶりの休みを満喫するかのような、そんな日々。
そんな日々の中でも帝都の人たちとの連絡も取っている。
アルフレッド様からは週に1度、変わりはないかと連絡が入る。
ユリウスさんは、不定期だ。
研究で聞きたいことなんかがあると連絡してくる。
ベティちゃん経由でナオとおしゃべりすることもある。
急に出てきたが、私がSクラスで一緒に授業を受けている人がほとんどいなかったからか、学園では私がいなくなったこともそれほど騒ぎになっていないらしい。
イライアス皇子からは一度「居場所を知っているのか?」と聞かれたらしいが、その時はナオも知らなかったので「知らない」と答え、それ以降は何も聞かれていないという。
国は騎士団を使って賢者を探していたはずだが、学園で騒ぎになっていないことを考えると賢者が私であることはまだバレていないらしい。
これも、すぐに帝都を離れる決断をしてくれたみんなのおかげだ。
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