第210話

サリーとルカが来たので、シャンギーラに来てからあれこれ食べに行った中でお気に入りの店に連れていく。

「なかなか帰ってこないから、何かあったかと思いましたよ」

そう言うのはアグネスだ。

幽霊の落書きだと言われていたことを知っているので、どうしても怖い方向に想像を膨らませたらしい。

「でも、幽霊じゃなかったならどうしてそんなに時間がかかったんですか? 何か面白いことがありました?」

そう言うサリーに答えるのはネイトだ。

「お嬢様、読めちゃったんですよ。だから、私の言葉も聞こえないくらい集中されて……」

そこまで言ったところで、皆一様に「あぁ」と声を漏らした。

「テルーは本読んでいる時、入り込んでるものね~」

「イヴ!?」

個人的には、6歳で怠け者から脱出しようと決めてから、本ばかり読まないようにしてきたつもりだ。

ちゃんと日常生活を送り、ちゃんと勉強してきたつもり。

けれど今日聞くところによると、本を読んでいる時の私は集中していて人の話など聞こえない位らしい。

もちろんそうでない時もあるはずだけれど……たぶん。


翌日も「神様の落書き」を読みに行く。

一緒に行くのは、ネイトとサリーだ。

「サリー、来たばっかりなんだからゆっくりしていてもいいのよ」

そう言ったけれど、サリーは首を横に振る。

「お嬢様のその感じだと、昼ご飯食べるの忘れてしまう気がします」

「でも、幽霊が出るって……サリーは怖くないの?」

私は読みたいから頑張っていくけれど、本当はまだ怖い。

読み始めたら、集中するので幽霊のことなど忘れていたけれど、あの落書きのある空間に行くまでは本当に怖かった。

「あー。お嬢様、幽霊は絶対いませんよ」

そう言うのは、つまらなそうについてくるネイトだ。

昨日まではあんなに楽しそうだったのに……と思ったら、私が壁の文字を読んでいる間ネイトはもうすっかり興味を失ったらしい。

でもなんで、幽霊はいないと断言できるのだろう。

「だってお嬢様もできるでしょ。火魔法で灯りをつけて、地魔法で天井近くまで登れば、あとは文字書くだけじゃないですか」

あ……。

なるほど。

あの洞窟は、昔からあったと言っていた。

シャンギーラ文字で古代語がつづられていたことを鑑みると、昔……つまりスキル鑑定具が生まれる前だろう。

魔法陣を使う人なら、火魔法も地魔法も両方使えても不思議ではなかった。


幽霊が出ないとわかったら、暗闇もさほど怖くないもので、3人でずんずんと中へ進む。

昨日と同じく、明かりを灯し、地魔法を使って天井近くへ。

記録と翻訳の両方をやっていると、私のシャンギーラ文字及び古代語の習得具合だと、何日も、いや1,2週間くらいここに通い詰めなければ読み終わらないとわかったので、今日は記録だけに専念する。

「えっと……1は、ここね」

紙に数字を振って、一字一句間違えないよう写していく。

とりあえず一面が終わったので、ダブルチェックのために紙と壁を見比べる。

「間違いないかしら?」

そう呟きながら、見比べていると紙がすっと私の手を離れた。

「書いてあるのが同じかどうか見ればいいんですよね? それなら私でも確認できます。お嬢様は続きを」

サリーとネイトが間違いないかダブルチェックしてくれるというので、私は続きを書き写す。

書いて、書いて、また書いて。

昼食をはさんでまた書いて。

何とか全ての文字や記号を書き写し終わり、洞窟を出るとまたも空は暗くなっていた。

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