第208話
私たちは毎日、シャンギーラの町を探検し、美味しいものを見つけた。
シャンギーラの人たちは、皆ナオと同じように黒髪、黒目の人ばかり。
大陸からはわざわざ船に乗っていかねばならないので、私たちのようにカラフルな髪の人は圧倒的に少数派だ。
けれど、私たち以前にイヴが来て彼らの町の復興を手伝っていたからか、町の人はおおむね好意的。
私がシャンギーラ語を話せるのも、良かったよう。
シャンギーラ語で話しかけると、お店の人は目を丸くし「すごいわ、上手ね」と褒めてくれる。
お店では情報収集も怠らない。
「シャンギーラらしい場所ってありますか」
「そうねぇ」
仲良くなった団子屋のお姉さんがすらすらと教えてくれる。
連日あっちこっちに食べ物調査に行っている私たちに食べ物の情報は要らないだろうということなのか、どこも食べ物以外情報だった。
例えば夕方になると恋人が集まるという海辺の丘。夕日が海へ落ちるのがきれいに見えるそうだ。
そして南の方にある温泉地。美肌効果だとすごい熱弁をふるっていた。
「あぁ、あともう少ししたら桜の季節だから、花見をするのもおすすめ。一斉に咲くから綺麗よ~。特に、この裏の河原は川に沿ってずらっと桜と菜の花が植わっているから、それはそれは人気でね。あなたたちも行くなら前日から場所取りしないと駄目よ。で、その時はまたうちの団子をご贔屓に」
「うわぁ。前日からですか。団子も飛ぶように売れそうですねぇ」
「もちろん! そのためにここに店を構えていると言ってもいいくらいだもの。私は全く桜を見る暇はないけど、稼ぐわよ~」
そう言って、団子屋のお姉さんはニヤリと笑った。
「あ、そうそう。気に入るかはわからないんだけど、『神の落書き』も珍しいかも」
「神……ですか?」
まだシャンギーラ語が完璧ではないネイトやアグネスも「神」という言葉は聞こえたようだ。
ピリッと緊張が走る。
お姉さんはそんな私たちの様子は気付かなかったようで、そのまま「神の落書き」について話してくれる。
それは、洞窟の中にあるそうだ。
その洞窟は最初は細い道だが、進んでいると少し広い場所に出る。
「そこに書いてあるのよ」
「何がですか?」
「落書き」
ぽつりとお姉さんが言った。
「落書き?」
「そう。書いてあるのは確かにシャンギーラ語なんだけどね。何も意味のない言葉の羅列なのよ。時折丸とか三角のマークも書いてあるから、きっとこれは落書きだろうって」
なるほど。意味のない言葉と形は確かに落書きと言えそうだ。
だけど、なんで神?
「だって、そこに行くには細い通路1本しかないのよ。燭台持ってやっと通る場所。足場を組み立てるような木材も、椅子すら持っていけない場所なのよ」
それは、大変な場所にあるけれど……だからといって何故神の話になるのだと思っていたら、それが顔に出ていたようだ。
「だってあなた、その文字は壁一面、ううん天井にもびっちり書かれていたのよ。……。わからない? 宙に浮いて書いたってことじゃない! そんなことできるのなんて神様か幽霊……」
そこでお姉さんが一度口を閉じる。
その後再び言うには、その洞窟はもともと幽霊の仕業じゃないかと言われていたが、怖がる人が多いので、大昔に神様の落書きと呼び名が変わったらしい。
正直怖いのは……苦手だ。
だけど、アルフレッド様が言っていたものね。
神話でもスキルでも神でも何でもいいから、教会に関することは情報を集めておくに越したことはないと。
ここは遠く離れたシャンギーラだ。
あまり関係はないかもしれない。
けれど、シャンギーラの神話も似ていたんだよね……。
一度見に行ってみようかな。
ネイトたちと一緒なら、きっと怖くないはずだ。
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