第207話
「嘘……竜が帝都に来たの? 何色の竜だった?」
「色? えっと……濃い灰色でした」
「灰色……濃い……。前回から4,5年ってところかしら? 早いわ、早すぎる……」
イヴは顎に手を当てて、ぶつぶつと唱えている。
「イヴ? どうしました?」
「あのね、ここシャンギーラにある町が災害被害を受けたのは知っている?」
それなら知っている。
初めて海街へ行った時にバイロンさんに教えてもらった。
災害で被害を受けたから保護国となり、それゆえ帝国に移り住んできている人が増えているのだ。
「それの災害の原因もここでは竜だといわれているわ」
「えっ?」
それからイヴが話すことによると、あるものすごい雨の日シャンギーラは大波に飲まれた。
それで人も農地も壊滅的なダメージを受けたのだ。
そしてここからが重要なのだが、シャンギーラにいる人たちはギエーという聞きなれない叫び声を聞き、遠くの海に灰色の竜らしきものを見た人もいるという。
イヴは私を帝都に送り届けた後、シャンギーラにきてその話を聞き、それからこの地にとどまり復興の手助けをしているという。
「それで、ここからは私もよく知らないんだけどね。白い竜もいるのよ。白い竜と灰色の竜の二種類いるのかもしれないし、なにか理由があって色が変わるのかもしれない。けれどこれだけ言えるのは、人里に降りて暴れたりして恐怖の対象になっているのは色の濃い竜ってこと。昔、邪竜と呼ばれた竜も濃い灰色や黒だった。だから、白い竜ならいいけれど、その竜が灰色なら十分気を付けて」
白い竜もいるのか。
しかも今の話だと、白い竜は危険ではないようだ。
それってまるでウィスパみたい。
「白い竜会ってみたいですねぇ。昔読んだ絵本に出てきた白い竜はとても賢くて優しい竜でしたから」
そんなことを話しながら通りを歩き、イヴが泊まっている宿についた。
ちょうど部屋も空いていたので、私たちも同じところに泊めてもらう。
コンコンとドアがノックされる。
「お嬢様、町を歩いてみませんか」
ドアを開けると、言葉遣いこそ丁寧だが、わくわくが隠し切れないネイトがいた。
シャンギーラに着くまでに立ち寄った町や村は、どこもすこし暗い影を落としていた。
楽しんではいけないようなそんな空気感。
けれど、シャンギーラは違う。
災害で被害を受けたが、それを乗り越え、頑張ろうという活気がある。
さっきイヴと並んで通りを歩いていた時だって、あっちこっちで楽し気な会話が聞こえた。
海を渡る間に陽気な船乗りの歌を何度も歌ったからかもしれないが、私たちの気持ちはすごく高揚していた。
ネイトが探検に行きたいのもわかる。
「いいわよ!」
ネイト、アグネス、イヴと私で宿の周辺を歩く。
「テルーほら見て。あの串食べよう! あれ、美味しいのよ」
イヴが一つの屋台を指さす。
確かに炭火で焼いたような香ばしい香りが漂っている。
イヴが買ってきてくれた串は、串に肉が刺さっていた。
けれど、私とイヴが旅の間食べていたものと全く違う。
旅の間はドンと大きく切り分けた肉を枝に刺し、豪快にかぶりつきながら食べていたものだが、ここの串はどれも一口大で、しかもたれが塗ってある。
甘じょっぱい醤油のたれだ。
これを私は知っている。これ、焼き鳥だ!
匂いや見た目で絶対に美味しいと確信した私は、もらってすぐに口に含む。
「ん~! 美味しい!!」
ネイトはいつの間にか食べ終わっていて、そのまますぐに追加を買いに行き、アグネスも少々躊躇いながら口に入れて、その美味しさに驚いていた。
「これも美味しいのよ~」と紹介されたのは、みたらし団子。
あぁーその手があったか。
美味しすぎる。
その後も、あの店はあれがおいしい、この店はこれというように……店から店へと食べ歩く。
これだけでもシャンギーラに来てよかったと思ってしまう私は、食い意地が張っているのだろうか。
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