第201話
ふぅと息を吐き出す。
怖い気持ちも吐き出すように。
怖い、怖いと恐怖がどんどん大きくなるのは、私ができることがないから。
勝てるかどうかわからないから。
だったら……私も加わる。
飛び込んでみれば、やることがあれば、必死で怖いのなんか忘れてしまう。
きっと。
レスリー様の結界、そしてさっき送り出したネイトにも結界を張った。
それに加えてもう一つ……張れるだろうか。
集中して、もう一つ。
騎士団や冒険者を結界で覆うのではない。
レスリー様がしていたように、騎士団や冒険者の背後に回らせないようロボレスの集団の横側に壁のような結界を張った。
これで、回り込んだりすることはできない。
来る方向が定まっていたらきっと戦いやすいはずだ。
再びネイトの姿を追うと、ちょうどレスリー様の所まで辿り着いたところだった。
ピカピカっとミサンガが光ったので、魔力を通す。
「お嬢様、レスリー様怪我しています。急いで連れていきます」
腕につけたミサンガからネイトの声が聞こえる。
ネイトがレスリー様を抱えて馬に乗るのが見える。
速く、速く。
塀の下まで来て、ネイトがレスリー様を連れて上ってくる。
レスリー様は足を嚙まれたらしい。
まだ繋がってはいるが、深い傷ができていた。
「
急いで治療する。
治れ、治れ。
レスリー様の傷が徐々にふさがる。
「ありがとう」
ぽつりとレスリー様が言った。
「レスリー!なんで、なんで飛び出していったのよー。あんた、戦うの苦手じゃない。もうー……よかったぁ」
アグネスが泣きそうになりながら言う。
「そりゃ、苦手だよ。だけど俺はここの領主の息子だから」
レスリー様は困ったように返した。
良かった良かったと言っていたら、突然ネイトが私の手を掴んだ。
「お嬢様。もう行かないと」
ネイトが見ている方に視線を投げれば、一人の騎士がこちらを見ていた。
ロボレスの討伐はいつの間にか終わっていたようだ。
「お嬢様はちょっと待っていてください。先にレスリー様を下しますから」
ネイトが早口でそう言うと、レスリー様がひらりと手を振る。
「いやいい。俺は、もう少し先に降りれるところがある。もう歩けるし大丈夫だ。何かは分からんが、見つかったらダメなのだろう? 早く行け」
「レスリー元気でね」
「レスリー様。これ、傷薬! 他に怪我している人いたら使ってあげて」
そう慌ただしく挨拶した私とアグネスを両脇に抱えてネイトが降りる。
急いで宿に引き返し、荷物をもって宿を出る。
馬車も店の人がレスリー様の知り合いだと知ってか、早くに準備してくれていたおかげで早く引き取ることができた。
念のためロボレスが出た南側の門ではなく、北側の門から街を出る。
北側の門番の人には、「夜は危ないし、さっき南側でロボレスが出たから明日にした方がいい」と言われたが、無理を言って通してもらった。
「アグネス……ごめんね。レスリー様ともっと話したかったよね」
揺れる馬車の中でアグネスに言う。
私にとってはみんながついてきてくれて嬉しい旅になったけれど、やっぱりこういう場面は普通の旅のようにはいかない。
普通の旅であったなら、一泊、二泊と留まって、十分に町を堪能し、会いたい人にも会えるはずなのだから。
「いいえ。一目レスリーに会えただけで十分です。知っていますかお嬢様。会おうと思う気持ちが人と人を繋ぐんです。だから、会いたいと思えばきっと会えます」
会いたいと思う気持ちがあれば……また会えるだろうか。
家族やナオ、アルフレッド様にも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます