第187話
「第五の属性……? でも、そんな話どの本にも載ってなかった。火、水、風、地のほかにあるなんて、そんなわけ……」
ユリウスさんがスキル鑑定具を壊してから、私は魔法の本を隅から隅まで読んだ。
魔法陣の本はもちろん全て、スキル関係も少しは読んだ。
他にも魔導具を作った偉人たちの話だって読んだ。
それでも、第五の属性なんて話はなかった。
だから、ユリウスさんが話すことに納得しつつも、心のどこかで信じることができずにいた。
「テルー。今まで君は分からないことがあったら本を開き、そうすれば答えかそのヒントがあったかもしれない。けれど、本に書いてあることがすべてじゃない。ましてや君のスキルは珍しい。本に書いていないことがあっても不思議じゃない。現に本にはなかった転移を使えるようになっているだろう」
ユリウスさんに指摘されて、ぐっと口をつぐむ。
確かにそうだ。
じゃあ私の属性は転移属性ということ?
「けれどユリウスさん、私の本にも何も載っていないならどうやって調べればいいでしょう」
「そうだな。私だったら……」と口を開きかけて、ユリウスさんが黙る。
「そうだった。君はまだ学生だったな。これは君自身が研究するといい。いい勉強になるだろう」
研究って、どうやってすれば……。
私の顔に「どうやって、何から始めれば」と書いてあるのが分かったのか、ユリウスさんがヒントをくれる。
「自分のスキルライブラリアンや君が使う魔法陣と何かを比較したり、知識を当てはめてみたりするんだ。少しでも関係しそうなところから、これだと思う物を見つけていく」
何かと比較……。
すごくざっくりした話に頭の中にさらに疑問符が浮かぶ。
疑問たっぷりの私の顔を見て、なおもユリウスさんが話す。
「私は研究者だから、あまり人に教えるのは苦手でね……。まずは情報収集してみたら。ライブラリアンや第五の属性解明に少しでも関係ありそうなことを。そこから何か道が見えるかもよ」
この日から私は毎日ライブラリアンについて考えることになる。
まずはノートに書き記した。
ライブラリアンにできることや他の属性との違いを。
できることについては二つ箇条書きができた。
一つは本が読めること、もう一つは転移ができること。
けれど、よくよく考えれば転移の方には疑問符が付く。
魔法陣があるのだ。他の属性でも訓練したらできるようになるのではないか? と。
けれど、魔法が得意なユリウスさんも転移魔法陣を付与することは未だにできていない。
消失魔法を1発でできるようになったアルフレッド様ならできるかもしれないと思ったけれど、新学期が始まってから、いや公爵家だと明らかになってからアルフレッド様はかなり多忙のようで会えていない。アルフレッド様に試してもらうのは難しいだろう。
そして、他の属性との違いは一つも思い浮かばなかった。
……というよりも、属性が違うのだから違うのが当たり前だと思ってしまったのだ。
う~ん。わからない!
けれど、ヒントは意外なところから出てきた。
家でも、学園でも、通学中でさえ悩んでいるから、何を悩んでいるのかとネイトが相談に乗ってくれたのだ。
「属性研究ですか。それなら私が力になることはできなさそうですが、話してみませんか。私をメリンダさんの代わりだと思って」
ネイトは、私がいなかった2年半の間、我が家で騎士見習いをしていた。
だからこそ私が、メリンダに今日勉強したことを発表していたことも知っているのだ。
もう、みんなのおしゃべり。
「それで、ライブラリアンと他の属性がどう違うかも考えてみたんだけど、わからなくって」
「学園の勉強はやはり難しそうですね。私には神様がいないくらいしか思いつきませんよ」
「神様がいない?」
そうだ。
神がいない。
私は昔読んだ『やさしい神話』を思い出した。
食べるのが好きな火の神の話。
音楽をならせば、歌い踊りに来る風の神の話。
病に倒れる人々を癒してくれた水の神の話。
綺麗な宝石を集めていた地の神の話。
火も水も風も地も、皆神話に登場する属性だ。
神話に転移の話なんて、本を読む話なんて、なかった。
それにトリフォニアではスキルは神から授かったものだと考えられている。
まって。
そもそも魔法陣に描く古代語は神に祈る言葉ばかりだ。
神話にヒントがある……?
いや、まさかね。
そう思ったけれど、ほかに取り掛かるきっかけを思いつかず、私はとりあえず神話について深く勉強することにした。
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