第174話
アグネス様は、やはり一人家から出されたのが心細かったのか私の提案に素直に頷いた。
バイロンさんに事情を説明し、部屋を一部屋開けてもらう。
バイロンさんはその足でアグネス様のことを調べに行ったが、調査の結果はおおむねアグネス様が語ったのと同じで、アグネス様は正式にブレイクリー子爵から名を消されていたそうだ。
アグネス様は部屋から出ずに閉じこもっている。
親から捨てられたというのがかなり堪えているようだ。
そりゃあそうだろう。アグネス様とブレイクリー子爵がどんな家族だったかなど私にはわからないけれど、自分に置き換えると耐えられないことは容易に想像がついた。
私が無能なライブラリアンでも、何かできることがないかと考えられたのは家族や友人がいたからだ。
誰もいなかったら……頑張ることができただろうか。
アグネス様は初日、部屋から一歩も出てこなかった。
全く出てこないアグネス様を心配して、二日目から私は食事をもって行ってみた。
扉に向かって声をかけたが、中から返事はない。
だが翌日、空になった皿が廊下に出ていた。
それから毎日部屋へ食事を運んでいたのだが、みんなの反応はあまりよくない。
私が傷つけられたと知った兄様たちやネイトは「家に置いて大丈夫なのか」と心配しているし、ルカは「お嬢様がそこまでする必要あります?」と言っている。
確かに昔危害を加えられたアグネス様を私が世話する義理はない。
けど、一人で生きるって辛いと思うんだよね。
私が家を離れ、帝国へ行くときはアイリーンとイヴがいた。
だから楽しかった。帝国についてもニールさんやバイロンさん、ナオとも友達になった。
私が頑張れているのはみんながいるからだと思う。
私はたくさんの人に助けられて来たから、今度は助けたいと思うのは……傲慢だろうか。
助けると言っても私には、ただ食事をもっていってあげることしか思いつかないのだけれど。
この状態はアグネス様にとっても良くないと思いつつも、どうしたらいいかわからない。
そんな状況が動いたのは、アグネス様が来て1週間が経ったころだった。
我が家に食事を食べに来ていたテレンスさんの怒りが頂点に達したのだ。
「もう我慢できない! ちょっと私、一言言ってくる!」
そう言って席を立つテレンスさん。
明らかに怒っているテレンスさんをなだめようと私もあわてて席を立とうとするが、マリウス兄様に止められた。
「兄様?」
「テルミスも今のままじゃダメだってわかるよね? 何か変わるかもしれない。様子を見よう」
あまりに正論で、再び席に着きテレンスさんを待つ。
するとすごい音がして、テレンスさんの大声が聞こえた。
「いつまで泣いてんのよ! 今アンタは、健康で、雨風しのげる部屋にいて、ただただ泣いているだけでも食事をくれる友達がいて。そんなアンタのどこが不幸なのよ! 親に捨てられたから何? そんな親こっちから願い下げ。嘘でもそれくらい強い心を持ちなさい。それくらいじゃないと一人で生きていけないわよ。甘ったれんな!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます