第166話

今日は父様と王宮へ行って、貴族籍を戻す手続きをする日だ。

本来は父様一人でできる手続きなのだが、手続き後にアイリーンに呼ばれているので、私も一緒に行く。

手続きは、さして時間はかからなかった。

そのため時間ができて、今は案内された部屋で父様と待っているところだ。


コンコンとノックの音が聞こえ、誰かがやってきた。

アイリーンとの時間には早いなと思っていたら、ドアを開けて入ってきたのはオスニエル殿下、もといオスニエル陛下だった。

「陛下!?」

父様も私も驚いて、慌てて礼をする。

陛下の後ろには護衛と思われる方とニールさんもいた。陛下もニールさんも久しぶりだ。

「いい。ここには今我々しかいないのだから」

そう言って、オスニエル陛下は私たちの対面のソファに座り、軽く当たり障りのない話をしたのち、陛下がふっと息を吐き、口を開く。

きっとこれからが本題なのだ。

「実は今日テルミス嬢に折いってお願いがあってね。アイリーンは反対しているが、僕としてはお願いしたい。今度の茶会で話しかけていいだろうか」

「それは……」と歯切れの悪い返事をしたのは父様だ。

私はちょっと意味がわからず、ぽかんとしていた。

話す? 話すくらい良いのではないだろうか。

むしろ光栄なのでは?

父様が私に向き直り、手を握る。

「今度の茶会はね。テルミスと同じようにスキル狩りで国を出た人も呼ばれているんだ。皆それは知っている。つまりだな……スキル狩り被害者の帰国を喜ぶ会みたいなものだ。そこで陛下から声をかけてもらえるということはだな」

なるほど。

私が五大魔法以外というのを周知するのと同義ということか……。

けれど、何のためにそんなことを? それに私のスキルが知られてもいいよね?

そんなことを考えていたら私が疑問に思っていることは伝わったようで、陛下が説明し始めた。

「私には……いや、私と兄には夢がある。スキルなど関係ないそんな世界を作ることだ。私と兄が考えていたのはスキルによって将来が変わらない世界だったが、トリフォニアに来て人々のあまりにスキル重視な考え方には驚いた」

陛下はトリフォニアはスキル重視と知識としては知っていたが、スキル狩りという悲惨で国のトップが変わるような大事件が起こった後でも、未だに多くの人々はスキル重視の考え方であるのを目の当たりにし、スキル至上主義の根深さに驚いたという。

一方で、スキル狩り被害者や被害者の家族、友人などは、少数ながら、現在声高にスキル重視の意識を変えようと声を上げている。

それ故にスキルをめぐって対立が激化しているという。馬車で兄様から聞いた話と一緒だ。

そこで私に声をかけることで、スキルが五大魔法でなくとも優秀なものはいると印象づけたいらしい。

それ、私で担える……かなぁ?


「テルミス、ライブラリアンだと分かれば嫌味やなんだと言われるんだぞ。嫌味で済めばいいが……今のトリフォニアは不安定だからな、危ないかもしれないぞ」

そう父様が危惧するが、多分私は大丈夫だ。

結界も使えるし、嫌味だってトリフォニアにいる間だ。

大丈夫。スキルについて偏見が少なくなるのは私も嬉しいし、オスニエル陛下の理想はユリウスさんの研究室でも話していたことだ。

私も協力したい。


バン!

突然ドアが開かれる。

入ってきたのはアイリーンだった。

「陛下、テルーに頼むのは反対だと言ったではありませんか!」

あまりの迫力に誰も何も言えない中、アイリーンが話し始める。

アイリーンは父様と同様で、その役を担う事で私が辛い思いをしないかを心配しているらしい。

もう辛い思いは十分している私に頼むなんて! と怒っているのだ。

なんか美女が怒ると迫力がある。


「アイリーン」

あえて敬称なしで呼ぶ。

「私は大丈夫。協力したいわ。私もね、クラティエ帝国で同じような話を聞いたの。スキルの関係ない世界。それからよくそのことについて考えてるんだけどね。私もそういう世界になればいいなと思うの。だから、協力したい。これは頼まれたからじゃなくて、私の意思で」

アイリーンの目をまっすぐに見つめる。

じじじっと見つめ合い、そしてようやく。

アイリーンは、私がそういうならと折れた。

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