第165話

午後の自由時間は毎日ネイトに魔力コントロールを教えながら、本を読んでいる。

読んでいるのは、魔法陣に関する本を手あたり次第だ。

というのも、ドレイト領で思いついた前世の電話のようなものを作りたいからだ。


「多分、この文箱メッセージボックスの応用だと思うのよね」

文箱メッセージボックスの魔法陣を見ながらつぶやく。

やっぱり……この魔法陣は不思議。

このマークなんてどの本にも見たことがないのに、なぜか感覚的にこれが転移に使う属性だってわかった。

「この部分は転移先を表しているから、転移する物はここに表現されているのかな?」

「転移……ですか? わっ! しまった」

魔力を体表から逃がさないようにしているネイトがふと疑問の声をあげる。

集中が途切れたことで、体表から魔力がゆらゆらと立ち上っており、ユリウスさんやジュードさんも苦戦していたが、体表から出さないようにとどめるのは難しいようだ。

「転移魔法というのは、聞いたことも見たこともないのですが、学園ではそういう魔法も習うのですか?」

「いや、学園では習わなかったんだけど……なんでかこの魔法とは相性がいいみたいで、すぐ理解できるし、すぐできるようになるんだよね」

ネイトは何かに気が付いたように眉をあげ、一呼吸おいて話し始める。

「それは、お嬢様もお嬢様以外に使っている人を知らないということでしょうか」

「そうよ」

「だとしたら、それがライブラリアンの力だということではありませんか? ライブラリアンはあまりに珍しいので、どんな呪文で何ができるか正確にわかっている人はいません。けれど、通常自分の持つスキルはそのスキルの呪文を唱えれば、魔法が使えるものです。何も勉強せずともできるようになったというのであれば、それがお嬢様のスキルの力なのでは?」

転移がライブラリアンの力……?

そんなこと考えたことなかった。本が読めるだけだって……そう思ってたから。


でもネイトの言葉は、そうかもしれないと思わせる何かがあった。

私のスキルだから、これを理解でき、楽に文箱メッセージボックスを作れたのか。

じゃあ、私の能力は本が読めることと何かを移動させることなの?

文箱メッセージボックスをまじまじと見つめながら、ネイトの言葉を考える。

だとしたら、この箱をどこかに飛ばすこともできるのかしら?


それはただの思い付きだった。

文箱メッセージボックスを見て、部屋の入り口付近に立つネイトの手を見る。

転移テレポート

そっと声に出して呟いてみた。

「わっ! おっとと」

突然手の上に出現した箱に驚き文箱メッセージボックスを落としそうになる。

すれすれのところでキャッチして、私をじろりと見つめる。

「お嬢様……。やるなら先に言ってくださいよ」

「ごめん。でも、できた……よね? え! じゃあそう言うことなの!?」

「そういうことですよ」

驚く私に、驚かないネイト。

ネイトが言うには、ライブラリアンというスキル自体が普通ではないのだから、普通じゃできないことができても何も不思議ではないということらしい。


じゃあ音も転移させることができるかと考えたけれど、音にどう転移魔法をかけるんだ? と頭を抱え、最終的に、録音した声を転移させるイメージならできるのではと考えた。

部屋にあった羽ペンに小声で話しかけ、ネイトの横の棚にある花へ飛ばす。

転移テレポート開始。もしもしテルミスです。どうぞ」

すると、「どうぞ」と言い終わると同時に、花から私の声が聞こえてきた。

「で、できたわ!」

「今のは流石にすごいな! 俺の声も飛ばせるのかな」

驚いたからか昔のネイトの話し方に戻っているのも気づかず、ネイトは花に語り掛ける。

だが、もちろんできない。

「ネイト、その花に付与しているわけじゃないからできないわよ」


それからいろいろと実験してみたけれど、手元にある物、声をどこかへ飛ばすことよりも、遠くのものを手元へ転移させる方が難しいようだ。

まだ実験はすべて部屋の中だけ。

それでも、難しいのだからまだまだこの魔法を使いこなしているとは言えないのだろうな。

突然ネイトが手首をつかむ。


「お嬢様、やりすぎです。この魔法はまだ慣れていないからか魔力消費が大きいようです」

そう言って、メリンダを呼ぶ。

メリンダは、「やりすぎは禁物ですよ」とチャイを持ってきてくれた。


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