第161話

兄様と一緒に馬に乗り、領都を離れる。

領都以外のドレイト領へ行くの、初めてだわ。

しばらく馬に乗って走ると、着いたのは、領都よりも幾分小さな町だった。

「ここはね。ドラステア男爵に任せていた町だよ」

ドラステア男爵というと、私を誘拐した犯人だ。

兄様によると私の誘拐は未遂だが、他のスキル狩りにも関与していたということで罰としてドラステア男爵は強制労働についている。

イヴァン様やご夫人も事件のことを知っていたとして同罪だ。

だから今この地は父様が派遣している役人が治めているという。


ドラステア男爵の処遇を少し複雑な心境で聞く。

もちろん悪いのは、誘拐しようとしたドラステア男爵たちだ。

けれど、私がライブラリアンでなければこの人たちは道を踏み外さなかったんだろうかとも少し思ってしまう。

あれ? でも、待って。ドラステア男爵家はイヴァン様ともう一人。レイモンド様がいたはず。

レイモンド様はどうしたのだろう。

彼は、孤児院にいるレアに会いに来た時に私にスキルを隠さないのかと聞いた。

多分、あれは私を心配してくれていた。

悪い人になんて見えなかったけれど、やはりドラステア男爵家ということでともに処罰されてしまったのだろうか。


町の外れまで来て馬が止まる。

「着いたよ。ここが、レアがいる場所だ」

え? ここ?

強制労働というと、鉱山とかきつい仕事のようなイメージがあったのだけど、目の前にあるのは館で見た縦長トマトが真っ赤に色づくトマト畑だった。

トマトの苗が何列にも並ぶ畑の奥から、誰かが走ってくる。

「お嬢様! よかった。ご無事で……。私のせいで本当に申し訳ありませんでした」

私たちの声を聞いて奥から走ってきたのは、レアだった。

レアは、私の姿を見て泣き崩れた。

泣きながらよかったと安堵し、泣きながら謝り続けた。

「レア、いいの。レアの意志ではなかったと聞いたわ。レアこそ、無事でよかった……」

レアは私を誘拐するためにウォービーズの毒を打たれ、腕や首も真っ黒になっていたと聞いていた。

だが、今目の前にいるレアの首は、日に焼けてはいるものの白い。

呪いのようなウォービーズの毒は残っていないようだが、以前より少し痩せたレアを見て、私も言葉に詰まる。

二人で抱き合い無事を喜んでいると、レアの後ろからレイモンド様が現れた。

「レイモンド様……」

「テルミス様、ご無事でよかった。父や兄のせいで、大変申し訳ありません」

レイモンド様が話すには、レアがドレイト領に逃げてきた頃、レアとレイモンド様は偶然領都で出会ったらしい。

そこで二人は仲良くなり、レイモンド様は領都を訪れるたびに孤児院に寄り、レアと話をするようになったという。

「ご存じのとおり、父や兄はスキルが良い者が優れていると考える人です。母もそうでした。レアとテルミス様がいなくなったと聞いて、私は真っ先に家族を疑いました。あの頃、父は家を空けることも多かったですし、なんとなくいつもと違ったのです」

家族を疑ったといったけれど、確信していたわけではない。

半信半疑で家を調べたレイモンド様が見つけたのは、チャーミントン男爵とやり取りをする手紙だった。

そこで関与を確信したレイモンド様は、私が見つかった後も見つからないレアのために、証拠一式をもって我が家に駆け込んだのだ。


レアはスキル狩り主犯のタフェット伯爵の妻だった。

レイモンド様は、私の誘拐の犯人であるドラステア男爵の次男。

二人とも罪人の家族ということで、本来ならもっとずっと重い罪が課される。

けれど、レアはレア自身も被害者であり、タフェット伯爵からもう何年も逃げていた。レイモンド様はスキル狩り解決のため尽力した。

その点を考慮して、二人への処罰はドレイト名物となるトマトを育てることらしい。


「ありがたいです。不可抗力とはいえお嬢様の誘拐に関与した私は、子供たちのところになんてとても戻れませんでしたから」

そうレアは言っている。

レイモンド様はなんと緑魔法の使い手らしく、父様はその点も考慮してトマト栽培を罰としたのではないだろうか。

「家族を売りやがってと父には言われました。けれど、あの家に私の居場所などなかったですから、あのままスキル狩りが続けば、きっと私も誘拐された人たちと同じになっていたでしょうし」

レイモンド様は寂しそうにそう言った。

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