第160話

マリウス兄様とネイトと一緒に父様の執務室へ行く。

「テルミス、どうしたんだい?」

普段来ない私が、兄様を連れてやってきたとあって、父様は何かあったと思ったようで、慌てて机から離れ私の許へやってきた。


「お父様、マリウス兄様にスキル狩りについて聞きました。お父様、お兄様本当にありがとうございます。お父様たちのおかげで私は身も心も健やかに過ごせています。そのうえで、お願いがあります。私に何があったか教えてくれませんか。嫌なことも辛いことも」

そう言い切った私の顔を父様は驚いた顔で見つめ、私を抱きしめた。

「全くいつの間に……。まだまだ小さな子供だと思っていたのに、子供が育つのは早いな」

父様はどこか寂しそうな顔をした。

「父様、反乱までの出来事は私が話しました。テルミスはレアのことも気になっているようなので、レアたちに会わせようと思っているのですが、許可をいただけませんか」

横からマリウス兄様が補足してくれる。


「本音で言えば今お前たちに館を出て行ってほしくはない。だが必要なことなんだろうな……。許可はするが、ゼポットもつれていくように」

父様は許可を出した後も話があるようで、私たちをソファに誘う。

「ただ、十分注意してくれ。もうテルミスも大きくなったから包み隠さず言おう。先日行った教会でテルミスは目をつけられた可能性がある」

え? 全く寝耳に水の話に驚きを隠せない私と眉間にしわを寄せる兄様とネイト。


父様の話によると、最初はネイトの報告だったそう。

教会に行ったときに新しく着任した鑑定士の興味を引いたようだと。

私がいない間にネイトと父様たちがどんな関りをしていたかはわからないが、父様も兄様もネイトのある種の鋭さみたいなものを買っているようだった。

そこで、念のため調べてみたところ、私たちが訪れた翌日教会から早馬が出ていたことが分かったのだ。

「ただの偶然かもしれない。けれど、教会内のことは教会の者にしかわからないが、現在スキル狩りの責任という名目でトリフォニア王国の多くの教会で人事異動が行われているらしい。確かにスキルを鑑定するのは教会だが、今回のスキル狩りの関与はなかったというのに」

実態のわからない教会内部、こじつけたような人事異動。タイミングの良い早馬……。

考えすぎかもしれないが、何か警戒するべきことがあるかもしれないと父様は考えたようだ。

「そういうわけで、王都行きも早めたんだ。勝手に予定を変えて悪かった。どこへ早馬を出したかはわからんが、馬がここを出たのが昨日。だから今すぐ何か仕掛けてくることはないと思う。行くなら今日。十分護衛を伴っていくのだ。もうお前を危険にさらしたくないんだ。だから、わかったね」

「はい」

急に与えられた情報量の多さに混乱しながら、部屋を出る。


「大事になってしまったわ」

私にとっては大事なことだけれど、こんなに多くの人を動かしてまでしてもよいことなのだろうかと迷っていると、ネイトが私の手を包む。

「大丈夫です。今度は必ず守り切ります」

そう言われて気が付いた。

人に迷惑をかけてしまうことだけでなく、私自身もまた少し怖い気持ちになっていたことに。

スキル狩りから逃れるために旅をした。魔物とも戦った。

学園では巨神兵とか偽聖女と呼ばれたこともあったし、今はお買い得だと多くの人に目をつけられている事態になっている。

この数年でいろんなことを経験したけれど、やはり魔法もまだ満足に使えなかったあの頃に誘拐されたことが一番私にとって怖いことだったのだと、遅まきながら実感した。


「テルミス。父様はああいったが、うちの騎士団は強い。危険も迷惑も考えなくていい。それで……行きたいか?」

兄様とネイトに背中を押され、心が決まる。

きっと私が行きたくないと言えば、兄様は現地へ行くのではなくここで話をしてくれるのだろう。

けれど、父様も兄様もそうは提案しなかった。

話だけでは私が納得しないと思ったのか、自分の目で見ることが大事だと思ったのか……。

おそらく後者だろう。

「マリウス兄様、わがままを申してすみません。お願いします。私を連れて行ってください」


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