第158話

帰省してからの私は毎日忙しくしている。

朝からゼポット様とネイトと一緒に身体強化を練習し、朝食ではラッシュとサリーが開発中のトマトソースの試食もする。

テカペルの練習して、シャンギーラ語の神話の本も読む。

シャンギーラ語はやっぱり難しく、なかなか進まない。

1日1、2ページくらいだ。

孤児院にも行った。年が離れていたルークや他の何人かはもう孤児院から出ていて会えなかったけれど、久しぶりに行けば、みんなが先を急ぐかのように、私の手を引いてこの2年で変わったところを案内してくれた。

ある子は、畑に連れて行ってくれた。

畑は拡張され、育てている野菜の種類が増えていた。

またある子は、室内の一角へ。そこには私が昔あげたトリフォニアの文字を一覧にした刺繍の表が貼ってあり、その近くの棚には紙の束がたくさんあった。

なんと、私から聞いた本の内容を思い出しながら、その子は新しい物語を作ったのだという。まだ幼いその子は、この表をみながらそれを少しずつ紙に書いていったのだとそう言って、たくさんの物語を聞かせてくれた。

ひと通り案内が終わるとみんなで干し芋を食べた。

あの誘拐事件があった年、みんなと約束していた焼き芋パーティができなかったからだ。

流石にあの年に収穫したさつまいもではないけれど、いつ私が帰ってきてもさつまいもを一緒に食べられるようにと孤児院の子達は収穫した半量は干して長く貯蔵できるようにしてくれていた。

今はさつまいもの時期じゃない。それでもこうしてあの時の約束を果たすことができたのは、みんなのおかげ。

皆で干し芋を掲げて乾杯し、皆で円になって頬張った。


そんな風に忙しくも楽しい日々を過ごして1週間。

ドレイト領のスキル鑑定の日がやってきた。

父様に頼んで協会の見学の許可をもらっているので、専属護衛(仮)のネイトともう一人護衛を連れて教会へ。

教会では子どもたちがスキル鑑定具を使って、火を出したり、水を出したりしていた。


懐かしいな。

私は小さな本……とも呼べないくらい小さな本が出てきたんだよね。

教会の方が珍しいと言ったから、すごいスキルなのかと思ったら、みんなからガッカリされたんだった。

今となっては遠い過去に思える自分のスキル鑑定日に思いを馳せていたら、ネイトが顔を覗き込んでいた。

手をひらりと振り、大丈夫だと伝える。

ネイトはまだ9歳だと言うのに、よく人の顔を見ている。

出会った時からそうだった。感情の機微に聡いのだ。


全員の鑑定が終わり、鑑定士に近づく。

「テルミス・ドレイトと申します。研究の為スキル鑑定具を見せていただけないでしょうか」

そう言うと、去年トリフォニアの管轄になったという新しい鑑定士は面倒くさいという気持ちを隠す事なく、ぞんざいにスキル鑑定具を渡してきた。

「ありがとうございます」

「なんだあいつ」と小声で悪態をつくネイトを諌めながら、鑑定具を調べる。

裏、表、側面も丁寧に確認するが魔法陣はない。

残念……。ここにもないか。

トリム王国のお膝元? のトリフォニア王国なら、魔法陣の描いてあるスキル鑑定具に出合えると思ったのに。


ふと、思った。

魔力を通したら? と。

鑑定士の方に使ってみてもいいかと確認して、魔力を流す。

正直言うと、どんな結果になるかという興味もあった。

だって今は火も水も、風、土も聖魔法も使えるのだから。

結果としては、本が出てきた。

ただし、6歳の頃との違いは本の形状だ。

6歳の時はノートとも思えるような小さくて、薄っぺらぺらの簡素な本だった。

今はいつも出している辞典かと思うほど分厚い本だ。

いつもと同じ本を出し、想定通りの結果に納得しつつも、6歳の時との本との差に成長を感じて嬉しくなる。

しかし肝心の魔法陣は結局見つけることが出来なかった。

眼強化アイブーストを使って見ても、魔法陣は見つけられなかった。

ただ、この眼強化アイブーストを通してスキル鑑定具を調べた時、なんだか喉元まで出かかっているような、何か分かりそうでわからない不思議な感じがした。

しかしそれについてはよく考えても何かは分からなくて、結局気のせいだと片付けてしまった。


「ライブ……ラリアンだと?」

その時の私は、その不思議な感じについてばかり考えていたので、鑑定士の言動にさして注意を払っていなかった。

珍しいスキルにただ驚いただけだと思ったのだ。

そんな能天気な私とは違い、帰りの馬車の中ではネイトがピリついた空気を放っていた。

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