第154話
ぺらりとページをめくり、『身体を知る』を読んでいく。
驚いたことに、ここには身体強化、聖魔法、緑魔法が付与魔法だとはっきり書かれていた。
私たちが、実験を繰り返し、たどり着いたことにこの作者は気づいていた。
その上で、より効果的に人体に対して魔法を使うにはという研究をしていた。
魔法陣を使うことを前提に書かれた本なので、魔法陣を使っていたころの研究書のようである。
『怪我や病気を治すことに関しては、研究が進んでいるためご存じの方も多いだろうが、魔力コントロールが未熟な者が適切な素材を用いて怪我や病気を治そうとすると効きすぎて体が却って弱くなるということがある。
1度使ったくらいでは何ともないが、風邪をひくたびに魔法で治したり、定期的に使用するのは注意が必要だ。
大病や大けがの場合は逆に素材を使わねば治しきることができないのであるが、ちょっとした風邪や腹痛といった日常の小さな病気やけがに関しては素材を使わず魔力調整だけで魔法をかけるか、そもそも魔法に頼らず、薬師の薬を飲み、自然に治るのを待つのが良い
薬に魔法を付与するものもいるが、それも聖魔法を直接かけても治らないような大病、大怪我、もしくは戦争など1分1秒を争う治療の場でのみ使うことが望ましい』
なるほど。クラティエ帝国に逃げている途中、ウォービーズに襲われてアイリーンが死にそうになった。その時初めて、素材を使って聖魔法をかけたのだけど、それまで魔力だけで何とかなっていたのは、魔力だけでどうにかなる病気や怪我だったからということか。
アイリーン、クリス様、そしてスキル狩りの被害者の人たちに私は素材を使った聖魔法をかけたことがあるが、皆治療は1度だ。良かった。
ということは……身体強化も?
『健康な者へ魔法をかけ、一時的に身体能力を向上させる身体強化も同様だ。
滋養効果の高い食物に魔法をかけ摂取すると効き過ぎてしまい、一時的に身体能力があがるが、その後体自体が耐え切れず、体に何らかの支障が出るため、けがや病気を治すとき同様に、魔力のみで魔法を付与することが望ましい』
やっぱりそうか。
そうなると、今と同じだな。
他にも何かできることはないのだろうか。身体強化を使いこなすために必要なことは……。
ぺらり、ぺらりと一心不乱に本を読んでいく。
そして……。
『だが、我々は間違っていたのかもしれない。
付与魔法は適切な素材に魔法をかけることが定石だ。だからこそ、解毒効果のある薬草、滋養のある食材に魔法をかけ摂取してきた。
ここでいう適切な素材が間違っていたとしたらどうだろう。
素材というのが、私たちの体そのものを指していたとしたら。そこで私は提案したい。我々の体について深く知ることこそが、少ない魔力で最大の効果を得られる方法なのだと。
腹痛が起きている時でも、我々は今まで体全体に魔法をかけていた。だが、病があるのは腹部だけだ。歩けなくなる理由は、骨なのか、それとも筋肉なのか。はたまた別の理由があるのか。
これからの治癒師は、ただ怪我や病を治す魔法が使えるだけではだめだ。どんな理由で、どんな場所に問題を抱えているかそれを見抜く技術、診断を下す知識が必要となってくるだろう』
素材は私たち人間の体?
すごく驚いたけれど、だとすれば納得がいく。体も素材ならば、そのうえで薬草を摂取するのは二重に素材を使っているに等しい。
だから効果が出過ぎるのだ。
病気やけがを治すなら、前世の医者のように、病気自体についてや体の仕組みについて知らなければならないということか。
ならば、身体強化するならアスリートのように体の動きを知らないといけないということなのだろうか。
『身体強化も同様だ。素材が私たちの体自身なのだから、素材が強ければ強いほど強い身体強化をかけることができる。
つまり、日常全く運動しない人が身体強化を使っても、程度の小さい範囲でしか使うことができない。
より強く身体強化をかけるには、もともとの筋肉、体力など体の強度を底上げしておくこと。
そして、その動きがどんな筋肉をどんなふうに使えばよいか知ることだ。
例えば運動ができない人とできる人の走り方は、まったく違う。
前者はただ足を前に出しているだけなので、ドタドタとかっこ悪く、さらに遅い。
だが後者の走りを見ればわかる。彼らは体全体で走っている。姿勢はまっすぐ、足は常に体より後ろにあることで、つま先に体重が乗り、それを蹴ることで前へ、前へと進んでいるのだ。
足だけで前に進もうとする運動音痴の人より早いのは自明である。
つまり、身体強化をより効率よくかけるためにはもともとの身体能力の向上とその道に秀でている者の動き方を観察し、体の使い方を学ぶことが必要なのである」
うっ。どたどた……。心当たりがありすぎる。
身体能力の向上かぁ……。そっか。身体強化使えるようになったから運動能力も引きあがったと思ったけれど、使いこなす域にまで高めるには……結局自分の体を鍛えなければならないんだ。
はぁ。近道ってないものなのね……。
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