第153話
「お嬢様、お時間です」とメリンダが厨房に呼びに来たので自室に戻る。
これからはテカペルの練習の時間だ。
タカタ、タカタ、タッカター。
右、左。
ここでターン、次はこっち。つま先ちょん、ちょん。
タカタ、タカタ、タッカター。
脳内で音楽と振付を思い出しながら、通常よりもゆっくりなペースで足を動かす。
振付は覚えている。後はどれだけ元のペースに追いつけるかだ。
ゆっくり振付をなぞりながら、朝の弓の訓練を思い出す。
ダンスの時も身体強化を使ったら、できるようになるのではないだろうか。
いや違う。テカペルのダンスができるように身体強化を使いこなすことが大事なんだ。
「
まずは、今日ネイトと一緒に走った時と同じくらいに身体強化をかける。
これくらいの身体強化ならさっきは使いこなせたもの。これでやってみよう。
タカタ、タカタ……「ひゃっ!」
足がもつれ、ベッドへ倒れこむ。
「身体強化……難しいわ」
倒れた先がベッドだから、何もけがはないが、最初のステップで足がもつれてしまった。
振付は分かっているのに、足を速く動かせる能力もあるはずなのに、その速さに私の脳の処理能力が追い付かない。
身体強化を駆使してダンスを踊るのはかなり至難の業のようだ。
走るより複雑な動きをしているものね。そりゃあそうか。
そう思ったけれど、そう思ったところで踊れるようにならなければならないのは変わらない。
「よしっ! もう一回!」
ベッドから飛び起き、さっきよりもさらに薄く身体強化をかける。
タカタ、タカタ、タッカター。
右、左。
ここでターン。次はこっち。
「わっ」少し体勢がぐらつく。ぐっと持ち直して、つま先ちょん、ちょん。
途中ぐらつきはあったものの、もともとのテカペルのペースよりもずいぶん遅いが、今までの私よりはちょっぴり速い速度でテカペルを踊ることができた。
よし。今日はこのペースで完璧に踊れるようになるぞ。
それから1時間ほど踊り、なんとか体勢を崩さず踊れるようになった。
「はぁっ、はぁっ。もう動けない……」
さっと
体力がなく、もう動けないので、代わりにライブラリアンを開き、身体強化についての本を探していく。
どうやったら身体強化を上手く使えるようになるのだろうか。
本のリストを眺めながら、それらしいタイトルを探す。
読める本多くなったな。
この家で暮らしていた時は、数えられる程度だったのに。
今では読める本の数は桁違いだし、何より書き込みもできるようになった。
想像することでこのスキルはもっと色んなことができるのかもしれない。
例えば特定の本をパッと探せるとか。そしたら、身体強化についての本もすぐ見つかるのに。
そう思った時、私の本がパラパラとめくれ、真っ白なページが開かれた。
「え?」
それから文字がジワリと浮かんでくる。
『身体強化呪文集』
『身体を知る』
もしかして……できた?
必要な本を瞬時に見つけることができるようになったのだろうか。
試しに植物の本が読みたいと意識してみる。
先ほど浮かんだ文字が消え、また新たに文字が浮かんでくる。
『植物大全』から始まり、数十冊の本のタイトルが並んだ。
やっぱりだ。
本の検索ができるようになってる!
これもスキルアップだとは思ったが、やはり私にしか見えないスキルアップだ。
まぁ、いっか。一歩一歩ではあるけれど確実に成長している!
気を取り直して身体強化をイメージして出てきた本を読んでみる。
最初に読んだ『身体強化呪文集』は、本当に呪文集だった。
そして恐ろしく短かった。
つまり初級、中級とレベル分けはしてあるものの、口語の呪文がズラリと並んでいるだけだったのだ。
おそらく身体強化スキル持ち用の本だ。
私には使えないということで、もうひとつの本を読み始める。
『身体を知る』か。どんな本なのだろう。
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