第152話

朝食はミートパイにサラダ、スープ、そして果物たっぷり。

ラッシュは今サリーが帰ってきているから、今のうちとパイ作りの練習をしているらしい。

サリーもお手本で作るので、パイが今大量生産されているのだとか。

「美味しいわ。トマトはあのトマトから作っているのよね?」

母様が言う。

「はい! 縦長のトマトを使いました」

「ね、テルミスこれはどう? 新種のトマトを植えてみたの。うまく育ったからカラバッサと共に領地で売り出して行きたいのよ」

新種のトマトを植えていることは手紙で聞いていた。

私はトマトが好きだから普通に喜んだ。

パイだから色々味付けされているが、それでも濃厚なトマトの味を感じる。美味しいトマトなのではないだろうか。

「ただ、生で食べると美味しくないのよね。せっかく育てたから何か案はないかと色々試行錯誤しているんだけど、ソースやスープが一番ね。スープ用として売ればいいかしら?」

母様の顔が少し曇るのは、スープ用なんて用途を限定したトマトより、普通のトマトの方が売れると思っているからだ。


「それならお母様、トマトでなくソースを売りましょう!」


朝食後、ラッシュとサリーのところへ行き、トマトソースの開発をお願いに行く。

「これが縦長トマト……」

ピーマンのような形のトマトは確かに食べてみると、味気なく美味しくなかった。

「お嬢様、これがスープです。玉ねぎ、塩胡椒で味付けしています」

ラッシュが手早く縦長トマトをスープにしてくれた。

飲んでみるとびっくり。

「美味しい。これがさっきのトマトなの?」

甘みが出て、まるで別物なのだ。

これをもっと煮詰めたらケチャップになるかしら? ケチャップはもう少し甘かったわね。

それに、保存が効くから、多分ジャムみたいにたくさん砂糖が入っているのかも。


「これをもっともっと煮詰めて、ソースにしたいの。かけるだけで、誰でも簡単に美味しい料理が作れるような」

「誰でも簡単にですか? それじゃ俺たちの仕事無くなってしまいますねぇ」

ラッシュは苦笑している。

そうだよね。そこをなんとか説得しないと……。


「お兄ちゃん! そんなことないよ。誰でも簡単に美味しい料理が作れる調味料があっても、料理人の需要は無くならないわ」

サリーが私の前に出た。

サリーはクラティエ帝国で塩麹を使っている。

その経験から思うことがあるみたいで、簡単便利な調味料を使えばもう一品作る時間が増える、さらに新しい味の料理に挑戦できるとメリットを挙げている。


「それにお兄ちゃん、私に料理を教えてくれた時のこと覚えている? 料理は、食材の選び方、切り方、火加減はもちろん、火を入れる時間など、手をかける全ての工程が味に直結するって」

サリーは訴えかけるようにラッシュを見つめる。

「……わかったよ。誰でも美味しく作れる調味料に負けるようじゃ料理人じゃねぇってことだな。いつのまにか一端の料理人になっちまって」

ラッシュはガシガシと頭をかき、私に頭を下げた。

「お嬢様、その調味料任せてください。俺と妹で必ず作り上げて見せます」


こうして、ドレイト領の新しい名産開発が始まったのだった。

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