第146話
「わぁ! 風が気持ちいい! サリー見て! 魚が見えるわ」
「本当ですね~。私がクラティエ帝国に来たときは曇りだったので、こんなにお天気の船旅は気持ちがいいですね」
「そっか。サリーは来るときも船だったんだ」
今私たちは船に乗っている。
去年父様を見送ったあの船だ。
あの時は父様ともアルフレッド兄様ともこれでお別れかとさみしい気持ちもしたけれど、アルフレッド兄様はそのまま帝国に残ってくれたし、父様が帰った後母様やメリンダも来てくれた。
サリーやルカも帝国に来てくれて嬉しかった。
でも、今はもっと嬉しい。そして、ちょっと緊張して、ドキドキする。
誘拐されかけて、家を出て2年半。2年半ぶりに家に帰っている。
それも、父様や兄様たちがスキル狩りを解決してくれたおかげ。
父様と母様、そして家を出てからずっと会えていないマリウス兄様に会えるのもあと少し。
メリンダも、ラッシュも、ジョセフも、ネイトもルークも……みんな元気かなぁ。
久しぶりに帰るドレイト領、久しぶりに会える家族、友人。
嬉しさと緊張で、私は試験が終わり帰国の日が近づくにつれそわそわ落ち着かなくなった。
ちなみに前期の試験は、社会学だけだと幾分気持ちに余裕をもって過ごしていたら、試験前2週間になってSクラスは口頭試問だと知り焦った。
ダンスは休めなかったので、シャンギーラ語を少しお休みして試験前はありとあらゆる本を読みこんだ。
おかげで試験までは帰国のことなんて考える余裕もないほどだった。
試験当日は死ぬほど緊張した。だって相手はあのスパルタオルトヴェイン先生だ。
試験が終わるまでなんだかシクシクとおなかが痛かったほど。
それでも一応なんとか全ての質問に答えられたので大丈夫……だと信じたい。
ダンスもトリフォニア王国に帰国している間も自主練できるよう、アルフレッド兄様にも付き合ってもらい、ステップとリズムを完璧に覚えるまで練習した。
兄様のおかげで何とか、振りつけも覚えたし、少し遅いテンポでなら完璧にできるようになった。
この帰省中に自主練で何とか元の速さでも踊れるようにならなければならない。
……頑張ろう。
試験が終わってユリウスさんのところに挨拶に行けば、ユリウスさんからはさらなるスキルアップを考えるよう言い含められた。
前期が終わって、ユリウスさんが危惧したように私のSクラス認定を訝しむ声が上がったらしい。
ただ言い出した人が一人だけだったから、先生方がそれを跳ね除け、今回は何事もなく終わっただけだ。
「人を集めてから糾弾されれば、跳ね除けられなくなる。そうなったらきっと再試だ。もちろん次は観衆もいるだろう。だからなるべく早く上級にスキルアップしておくように」
今年度中だったスキルアップの締切がなるべく早くになってしまったけれど、私を守るためだから仕方ない。
「まぁ、君は学園で習えることももう少ないし、仕事もしている。いざという時は辞めてしまってもいいかもしれないな。その時君がまだ魔法研究したかったら、ジュードと共に助手にしてやる」
そうユリウスさんは言ったけれど、なんだかんだあった学園生活も今振り返れば楽しかった。
あまり辞めたくないなぁ。
そして、ユリウスさんに言われたのはもう一つ。
「ドレイト領に帰ったら、スキル鑑定具を調べられるか?」
「月に1度のスキル判定の時に見に行くことはできますけど……。持って帰ってくることは出来ませんよ? まだ修理する方法もわかっていないので、解体もできませんからね」
「見るだけでいい。魔法陣があるかどうか見てきてくれないか」
そういうわけで、私の帰省にスキル鑑定具の調査も加わった。
なぜ、わざわざドレイト領の鑑定具を調べるかというと、それはトリフォニア王国がスキル鑑定具を作ったエイバン王のおひざ元にあたる場所にできた国だからだ。
スキル鑑定具を作ったエイバン王の時代は未だトリフォニア王国もクラティエ帝国もない時代で、この大陸のほとんどをトリム王国という国が支配していた。
エイバン王の時代をピークにその影響力はしぼんでいき、いくつかの国へと分裂していくのだが、そのトリム王国の中心があったのは今のトリフォニア王国にあると言われている。
言われている……というのは、城はもうない上、あの時代はまだ本が一般的ではなかったのかあまり文献が残っていないのだ。
だからかもしれないが、現在の国の規模はクラティエ帝国の方がとても大きいにもかかわらず、スキル鑑定具の数はトリフォニア王国に比べて少ないらしい。
トリフォニア王国の鑑定具が多いのは、増産している可能性が高い。
増産分までエイバン王が作ったとは思えないので、トリフォニア王国で使われているスキル鑑定具には魔法陣が刻まれているのではないかとユリウスさんは言う。
なるほど。
確かにトリフォニア王国中のスキル鑑定具を調べろというのは無理だが、自領で行うスキル判定を見に行くことはできるだろうし、魔法陣があるかないか見るだけならできるだろうと請け負った。
出発前にそんなこんながあって、夏休みが始まってすぐ私たちはトリフォニア王国へと旅立った。
ともに行くのは、サリーとバイロンさんが雇ってくれた護衛二人。
ルカも一緒に里帰りしようといったのだけど、ルカはやることがあるとかで来なかった。
ルカのお父様のゴードンさんも楽しみにしていたと思うんだけどな。
海を渡って帰国する今回の旅は、カラヴィン山脈の旅路が嘘のように速かった。
馬車から船へ、船から馬車へと乗り継いだのだから当たり前なんだけど、驚きだ。
遠回りな上、カラヴィン山脈の時はロバと歩きだったもんね。
前回と違うのはそれだけではない。
トリフォニア王国側でも途中の町に寄ったこと。
どの町の市場も見回るのは楽しかった。屋台で売られている食べ物を食べ歩き、サリーと感想を言い合うのも。
特に港町はクラティエ帝国側も、トリフォニア王国側もにぎわっていて、両国の名産が売られているほか、物珍しいものもたくさん見た。
サリーは最近すごく勉強熱心で、知らない食材を見ると必ず購入し、使い方を熱心に商人に聞いている。
私も作りたいものがあったから、ハーブ類は目につく種類をありったけ買った。
町と町の間で魔物に襲われることもあったけれど、ウォービーズやスタンピードの時のような大事にはならず、護衛があっさり倒してくれた。
野営するときもあった。だが、カラヴィン山脈を旅していた間はずっと外だったのだ。
メンバー内で一番年下な私が一番手慣れていて、護衛の二人には驚かれた。
旅は順調に進み、そして。
ようやく……懐かしいドレイト領が見えてきた。
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