第141話

ノックして工房となっているルカの部屋を訪ねる。

「ルカ? 木型できたんだって?」

「はい、お嬢様。見られますか?」


ということで、ずらずらっと並んだ木型を見ている。

「よくこの量を短い期間に仕上げてくれました」

ルカは本当にすごい。

クラティエ帝国に来てから作り始めたのに、一人でもう完成させてしまった。

しかもやることは木型製作だけじゃなく、靴擦れ防止のパッドやラインキーパーの作り方を新人に教えなければならなかったはずだ。

「それで、はいお嬢様。新作です」

それは普通のパンプス。

けれど、このシンプルなパンプスですら木型がないと作れず、今まで靴事業はベルト調整ができるサンダルだけだった。

ドレイト領を旅立つ時にルカが作ってくれたブーツも履き心地が良かった。きっと売れるだろう。

今年はブーツ、サンダル、パンプスの3種で靴事業の本格スタートだ。

靴も長かったなぁ。

売る靴は3種と言ったけれど、サンダルは革を染色してカラーバリエーションを作るくらいしかできないが、パンプスは色はもちろん装飾品のリボンや宝石をつけたりとデザインを変えられる。結構なバリエーションになるのではないだろうか。


「ルカ。やっとだね。バイロンさんと私で宣伝は頑張るね!」

なんの装飾もないシンプルなパンプスを腕に抱える。

綺麗な靴好きだ。素敵な靴は素敵な場所へ私を連れて行ってくれるような気がするから。

この靴はシンプルだけど、とても素敵でその上私にピッタリで足を痛めない靴だ。

3年もかけて私のところにやってきた大切な靴。

そう考えると感慨深くて、ぎゅっと抱きしめてしまう。


「調整パッドとラインキーパーの方も好調なんでしょ?」

靴を抱きしめてばかりじゃいられないから、話を変える。

「えぇ。特に踵用のパッドが好調です。自分で取りに行く時間がないので、冒険者ギルドにラーナやスライムの採取依頼を出すほどです」

「そんなにですか」

「昔お嬢様にパッドのことを聞いた時は、正直本当に売れるのかと思っていましたし、どうやって作るか頭を抱えたものですが、こんなにも必要とされているんですね。作ってよかったです」

そう言って笑うルカの服や腕には、ところどころスライム液がテカテカと付いている。

売上好調の調整パッドを仕込んでいる時についたのだろう。

ルカの腕を取って、スライム液をタオルで拭う。

「あ、すみません。つきっぱなしでしたね。いやースライム液だけだとスルッと取れるんですが、ラーナもつくとお湯かけないと取れなくて。見た目じゃラーナがついてるかどうかわからないものだから、ついつい風呂で取ればいいかとそのままにしてしまって」

ルカの腕をチェックする。

何か思いつきそうな感じがする。

何か忘れているような……。

「お嬢様?」

じっと腕を握って、取れなかったラーナ付きスライム液を見ている私にルカが問いかける。

えっと。なんだっけ?

まぁ、いっか。

「あ、握ったままでごめんね」

ルカの手を離し、工房を後にする。

なんか気になるな。もう喉元まで出そうなんだけど……。

歩きながら頭の中でぐるぐる考えていると突然思い出した。

「わかった! 絆創膏だ!」

走って工房に戻る。

「ルカ! バイロンさんところ集合!スライム液とラーナも持ってきて!」


たたたっと階段を降り、最後の二段を飛んで降りる。

「バイロンさん、傷の手当てに使う商品どうやって売ったらいいかな?」

「傷薬かい?」

ルカも急いでラーナとスライム液を持ってやってきた。

そこから偽聖女と呼ばれたことはスルーしながら、傷口を魔力で蓋すると傷の治りが良いこと、魔力で蓋する方法を教えたもののできる人が少ないことを話した。

「それで、さっきルカの姿を見て思いついたんだけど、スライム液とラーナで蓋の代わりにできないかな? 大怪我用に聖魔法を付与した高価なものと二つのバージョン作るのもいいかも!」

「なるほど。ちなみにルカはそれが皮膚についてかぶれたりしないのですか?」

「トリフォニアにいた時に作ったから、その時からよく腕についていたけれど今のところ問題ないですね」

かぶれの発想はなかった。血が止まればいいと思っていたけど、これのせいで健康被害が出たら大変だ。

「まずは売り物に耐える物なのかテレンスさんに調べてもらって、それでよければ特許を取ったあと宮廷医師に渡してみましょう。我々だけで生産するには人が足りなさそうですから」

テレンスさんと手を組んでいてよかった。

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