第136話
テレンスさんに甘麹ミルクを配達した後は、ユリウスさんの研究室へ。
「でもユリウスさん。今思ったのですが、常用ポーションってかける聖魔法を薄くすればいいだけなのでは?」
私はカラヴィン山脈で採集したラベンダーを抽出して、それにうっすら
今のところ効果がないってこともないけど、同じようにポーションも薄めればいいのではないかな?
「それは無理だな。ポーションは作ったことあるか?」
「いえ、勉強は少ししたのですが、実際に作ったことはありません」
ユリウスさんは、いい機会だと言ってポーションの材料を集めていく。
さすが聖魔法使いのユリウスさん、手慣れた様子で材料を刻んだり、すりつぶしたりしている。
今のところ魔法の使用はない。
そしてすべての材料をボウルに入れ混ぜながら、呪文を唱える。
「
一瞬パッと光り、ポーションが完成した。
「わかったかい? つまり聖魔法をかけるのは最後だ。だから薄められないのだ。過去聖魔法をかけたものと、かける前のもので割って効果を調べたことがある。確かに効果は薄まったが、日持ちが全くせず、薄めたポーションが世に出ることはなかった」
あれ? わからない。
物理的に薄めようとしたら、日持ちがしないので使えないのは分かった。
けれど、そもそもかける聖魔法を少なくすればいいと思うのだけど?
「納得いっていなさそうだな」
「聖魔法をかける量を調節したらどうでしょう?」
ユリウスさんははっと気がつき、深い溜息を吐いた。
「テルー。私が君に魔法の授業を受けるよりここで研究した方が有意義だといったのは理由がある」
わかっている。魔法陣を隠すためだ。
ちゃんと理解していることを示すためにもうんうんとうなずく。
「一つは魔法陣を使えることを隠すためだが、もう一つは君の魔法の知識が我々一般的な知識と違うからだ」
ユリウスさん曰く、魔法陣をもとにしているからか私の知識は普通ではないらしい。
だから魔法の授業を受けてもわからないだろうと。
確かに、学園では魔力感知の練習なんてしなかったな。
「君は去年生活魔法を習っただろう?
「パチッと一瞬だけはじけるような火が出ました」
「そう。みな同じ大きさの火だったろう? それと同じだ。
確かにそうだ。
どこにどれくらいの魔法をかけるか私は想像している。
私にとっては普通のことだけど、スキルでは違うのか。
それなら私が学園の魔法の授業を受けてもスキルとして魔法を使えない私には無駄だったかもしれない。
今後は魔法のことで少しでも疑問に思ったことはとりあえずユリウスさんに聞いてみよう。
でも待って。ということは、スキルで使う魔法って私が思っていたよりもずっとずっと簡単なのでは?
「スキルの魔法って、つまり呪文を唱えるだけ? しかも現代語で?」
「そうだ。とりあえず発動するだけなら自分のスキルで使える呪文を唱えるだけでできる」
い、いいなぁ。
私は、魔力感知と魔力コントロールだけで1年もかかったというのに。
そのあとも魔法陣をかけるように、古代語を読めるように、付与ができるように……あ~いっぱい勉強したな~。
でも振り返ってみれば、新しいことを発見して、できるようになっていくのは大変だったけれど楽しかった。
これがスキルだったら何の労力もかけずに手に入ったといわれると、無駄なことをした気持ちにもなるけれど、それでも一生懸命だったあの日々は振り返ればとてもキラキラ輝く思い出だ。
「でも、それではなぜ魔法の訓練が必要なのでしょう?」
「Sクラス認定の後に君に言ったとおり、何もしなくてもできるようになるのが初級まで。魔法の訓練をすることで魔法の精度が上がるし、発動までのスピードも上がる。魔力量にもよるが、訓練しなければスキルアップしないから、中級、上級の魔法を使えるようになるには訓練が必要だ。それでも魔法陣よりは簡単だがな」
なるほど。
私のスキルも初級だとユリウスさんは言っていたものね。
でも、どうやってスキルアップしたらいいものか……。
私の思考を読んだかのようにユリウスさんが続ける。
「君のスキルも中級……いや、上級にしないとな。今年度中に」
今年度中!?
ぼそっとつぶやくように言ったユリウスさんの言葉に驚き目を見張る。
今まで10年間過ごして初級の域から出なかったのに、急に上級までなんてできるのだろうか。
そもそも、どうやったらいいのかもわからないのに。
今年度中ってもう1年もない!
「君は今Sクラスということで有望株だ。だから君を取り込もうとしている人たちがいるというのは知っているね? それなら逆もいるわけだ」
「逆?」
取り込もうとしない人なら、警戒しなくてもいいのでは?
ユリウスさんの言っている意味が分からず、首を傾げた。
「君を引きずり下ろしたい人だよ」
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