第137話

ユリウスさんは、私を引き摺り下ろしたい人は私のSクラス認定が間違いだと言ってくるだろうと思っているようだ。

そういうクレームがつけば、再度認定テストを受けることになる。

私の能力を見せれば問題ないが、そうなると私の能力……すなわち五大魔法全て使えることが白日の元に晒されてしまう。

それを避けるためには……。

「君のスキルライブラリアンで納得させなければならない」

だが、いくら読める本が増えたと言っても自己申告にしかならないし、その本の内容を審査員がみられるわけでもない。

だから今のままではダメなんだそうだ。

「とはいえ、ライブラリアンがどうスキルアップしていくかは文献にも載っていない。だから私も考えるが正しいとは限らない。君も君のスキルでどんなことができそうか考えて欲しい」

そう言われたのが昨日。


今は体術の時間。

未だに一人基礎練習をしているから、ダラダラと走りながら昨日話していたスキルアップについて考えている。

以前ユリウスさんが話してくれたスキルアップの道筋は、最初は少しだけ火や水が出る。

これは私が鑑定を受けてすぐの頃10冊しか読めなかったのにあたるだろう。

それから魔法を使っていくにつれ、扱える火や水の量が多くなる。

今私は読める本が多くなっている。だから初級だ。


中級は火球ファイアボールのような単純な形ではなく、複雑な形を作ることが出来るという。

私が誘拐されかけた時に使った土の手みたいなことだ。

そして複雑なだけでなく、かなり小さいものを大量に扱えるのも中級だ。

それをライブラリアンに当てはめるとどんなことができるだろうか。

……。全く思い浮かばない。


「調子はどうだ?」

現れたのは弓を持ったヒュー先生だった。

「一つも身を守る術がないのは危険だからよ。お前を卒業までに弓くらい扱えるようにするのが俺の目標よ」

ヒュー先生は全然体力、筋力のつかない私に痺れを切らしたようだ。

ちなみに「まだ10歳だから……」と言おうとしたら、「普通の10歳はもっと体力がある」と言い切られたので、もうこの言い訳は通用しない。

というわけで弓を引いてみる。全然引けない。

今ヒュー先生は他の生徒に呼ばれて、向こうで通常の体術の授業をしている。向こうで説明したらすぐ戻ると言っていたが……弓すら引けないと戻ってきてもヒュー先生に教えてもらう事はないかもしれない。

はぁ。力なさすぎだなぁ。

もっと腕に筋肉が……あっ!

できるかも。

ヴィダ

小さな声でつぶやき、うっすら全身にかける。

急に力持ちになっても変だから、ほんのちょっとだけ……。


弓と矢を持ち、とりあえず引いてみる。

ギリギリギリと弦がしなる。

で、できた。

「お! よかった。賭けだったが、弓を扱えるくらいの力はあったか」

ごめんなさい、ヒュー先生。身体強化のおかげです。


「もっと足を開いて、そうだ。背筋は伸ばしたまま、まっすぐ!」

「は、はい!」

おかしいな。

身体強化使っているのにこの弓を引く体勢辛い。

うっすらしか魔法かけなかったからか。


「じゃあ、あの木に向かって放ってみて」

言われた通り木を狙って矢を放つ。

矢はポーンときれいな放物線を描き、木の前におちた。

「……」

「……」

「まぁ、練習あるのみだ。まずはもっと近くから。とりあえずまっすぐ飛ばせるようになることが目標だな」

そう言って、私の体術の授業は基礎訓練から一段レベルがアップした。

これからは練習のために常時うっすら身体強化をかけておくことにしよう。


体術の授業の後はジェイムス様、ナオ、デニスさんと一緒に勉強。

ジェイムス様は兵法の本を読み、ナオとデニスさんは法について。

私はスキル鑑定具について何かヒントはないかとライブラリアンで魔法関連の本を読んでいる。

以前読んでいた『発明を支えた欲望たち』は面白かったが、まったくスキル鑑定具を直すヒントになるようなことは書いてなかった。

他にも何冊か読んでみたけれど、今のところ成果なし。

ちなみにスキル鑑定具が壊れてすぐに、私のライブラリアンにある魔法の本と今までユリウスさんが読んだことのある魔法の本を突き合わせてみた。

結果、ユリウスさんはなんとライブラリアンにある魔法関連書の約8割の本を読んだことがあった。

すごい!


スキル鑑定した6歳の時はたった10冊だった私の本も今は結構すごい量だ。だというのに、その8割を読んだことがあるとは……。

だから私が探すのは残る2割の本の中から。

ちなみに8割の本はスキルによる魔法の本だったので、私は何冊かしか読んだことがなく、それ故に一般的な知識と乖離があるのだろう。

残り2割の中でも『付与魔法のすべて』や『魔法の基本』は何十回、何百回と読んできた。だからそれらも除外して、読んでいるのだがない……手がかりが全くない。


スキル鑑定具に関しては何も得られぬまま、その後はジェイムス様が家まで送ってくれる。

今日はナオも一緒だ。そして、放っておけば甘麴ミルクを夕食にするテレンスさんも研究室から回収して4人で帰宅。

最近なぜだか当たり前のようにジェイムス様も一緒にうちでご飯を食べている。

テレンスさんも増えて、我が家の食卓はまた一段とにぎやかになった。


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