第135話

結局ユリウスさんの提案で、テレンスさんはテルミスグループと手を組むことになった。

というのも、ユリウスさんから説教をされたあの日。

私がジェイムス様と図書室で勉強をして家に戻ると、ユリウスさんとバイロンさんが話をしていたからだ。

いちごの甘麹ミルクを飲みながら言うには、テレンスさんは研究一筋だけど、人としては信用できる人らしい。

だから逆に味方につけてしまおう、いや身内にしてしまえばいいではないかと。


「でも、苺の甘麴ミルクは期間限定ですが……」

「それなんだけど、テルーちゃん。結構あれ評判よくてね。季節ごとに違う味で提供できないかと僕もテルーちゃんに相談したいなと思ってたんだ。一応サリーには他の味を開発してもらってるところだ」

なんと! 苺の甘麴ミルクそんなに人気だったんだ。

「あぁ、人気が出るのもわかる。これは飲むと確かに疲れが和らぐ気がする。ぜひ売り続けてほしいものだ。それに、テレンスがこれを研究して結果が出たら研究所お墨付きとうたうこともできるだろう」

研究所のお墨付き。それなんだか良さそう。

「ユリウスさん、あともう一つ。そのテレンスさんという人を僕はお客様としてしか対応したことがありませんが、研究できる分野はポーションのみでしょうか」

「いや、今は常用ポーションの研究をしているが、毒草の研究をしていたこともあったし、あれは人を救うことに関係するのなら何でも研究している。聖魔法以外でもある程度のことはわかるはずだが。何か研究させたいものがあるのか?」

なんかあったっけ? そう思ってバイロンさんを見るとなぜか苦笑いだ。

「いえ。何かあるわけではありませんが、テルーちゃんは思いもよらないことを始める事があるので、専門の方に相談できるのは心強いかと思いまして」

「なるほど。確かにそうだな。どうするかは君たちが実際に会って決めればいいと思うが、それならますますテレンスが適任な気がするな。なんだかんだ言って面倒見のいい奴だ」

ユリウスさんも納得顔だが、まだ思いもよらないことなんてしていないはずなのに。


そういうことで、後日バイロンさんとテレンスさんは話し合い、私たちは甘麴を含む商品の作り方を教え、テレンスさんはその効能を調べ私たちにフィードバックすることになった。

もちろんテレンスさんはそこで何かを発見した場合研究成果を発表できる。

私たちは研究者お墨付きをもらえる。ウィンウィンだ。

でも、一番のウィンはユリウスさんかもしれない。

甘麴ミルクを研究するため研究所に毎日大瓶で納入することになったのだが、ユリウスさんのおかげでこういう形になったというのもあり、ユリウスさんはそこからたまに分けてもらっているらしい。

研究所に配達に行くのは私だ。

どうせ私も毎日研究所に行くのだし、私には空間魔法付きのポシェットがあるから。


配達のついでにテレンスさんとはよく話すようになった。

「はい。これ今日の分の甘麹ミルク。あとこれも」

「なにー? これ?」

ポシェットから大瓶の甘麹ミルクとお弁当をだす。

中身は塩おにぎりと卵焼き、にんじんのきんぴらである。

昨日の夜作ってみた。

サリーが来てから、食事の用意はサリーが作ってくれるので、久しぶりの料理だった。

ちなみにキッチンで作っていたら、いつしか眺めていたサリーが卵焼きもきんぴらもしっかりメモしていたから今度から作ってくれると思う。


「お弁当です。テレンスさん、甘麹ミルクだけでご飯食べないつもりでしょ? 常用ポーションもいいけど、基本は毎日のご飯ですからね! 絶対、絶対食べて下さいね。あと夜はうちに来てくださいね。うちの専属がご飯作ってますから」

「なんだか貴女お母さんみたいね。テルーちゃんいくつよ?」

「10歳です」

「10歳!?」

テレンスさんはかなり驚いているようだ。

私もやっと大人っぽくなってきたのだろうか。

そんな淡い期待は芽生えて間も無く萎んでいった。


「え? 本当に本当に10歳? 見た目のまんまじゃない! 何してるの? 子供が学園通って、休日は仕事? ダメよ。そんなの大人になってからやったらいいんだから」

「え? 大丈夫ですよ。学園もお店も楽しいですから」

まだ開店して1年も経っていないから、私は休日よく視察がてらお店に顔出している。

だってほら、一応オーナーだし。

みんな働いてるのに、私一人サボれない。

リピート客も出てきて、トルトゥリーナも瑠璃のさえずりも今のところいい滑り出しだ。

笑顔で帰っていくお客さんを見ると、すごく元気にもなる。お店出せて本当によかったってね。

だから本当に苦ではないのだ。


「そう? ならいいんだけど。でも、覚えていてね。テルーちゃんはまだ10才。本当は日暮まで公園で走り回って、出された料理は好き嫌いして、嫌なことはイヤイヤと泣いてわがまま言っていいんだからね!」

「いや、流石にそんな10歳いないような……」

「テルーちゃんは妙に大人びてるから、これくらい言っとかなくっちゃ。子供の時間は貴重だよ。辛いことがあったら、いつでもここにおいで」

そう言ってテレンスさんは突然ギューッと私を抱きしめた。


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