第118話 【閑話】ギルバート×アルフレッド編

「ここも問題ないな。

おい、お前魔力持って来い。

聞いてるのか!…ん?」


「やはり貴方だったのですね。

スキル狩りの目的は何です?

魔力ですか?」


タフェット伯爵が連れてきた付与魔法使いもすでに取り押さえ、伯爵自身の周りも取り囲んでいる。

もう逃げられない。


「クックックックッ。

ハメられたのか?俺は。」


「まぁそうなりますね。

のこのこ来ていただき助かりました。

貴方がスキル狩り首謀者ですね。」


それからタフェット伯爵が話すことは、予想はしていたものの聞いていて気分の良いものではなかった。

魔導具を作るには、もちろん魔力が必要だ。

その魔力を補うために、研究を重ね、魔力を吸い取る機械を作ったのだとか。

機械が出来てからは、魔力源となる人間を攫った。

相手が4大魔法だと反撃されて厄介だったので、攻撃魔法の使えない4大魔法以外の人を狙い、さらに念には念を入れて、反撃できないような薬も作ったという。


「スキル至上主義のこの国で、誘拐するのは簡単だったよ。

使えない奴らは魔力源として使えると教えたら、スキル至上主義の奴らは喜んで誘拐してきた。

アレにも有効活用法があったのかってね。」


言っていることは、本当に最悪で聞きたくもないが…何か、おかしい。

圧倒的に不利な状況なはずなのに、なぜこの男はこんなに余裕なのだ?


そう思った時、伯爵の手から何か出てきた。

しまった!

一瞬にして部屋が火の海になる。


伯爵は手持ちの魔導具を使って壁に穴を開け脱出。

くそっ!

施設の周りは帝国の騎士が取り囲んでいる。

万が一にも逃げられることはないが…アルフレッド…やりすぎるなよ。



*********

はあっ、はぁっ。

くそっ!やられた。

いつの間に気づかれた?!


スタンピードだかなんだか知らないが、それにビビってあのバカ王子が武器を増産しろなんていうから、こっちまで気を回せなかった。


あのバカめ。

1つ魔導具を作るのに、どれだけ魔力使うと思ってんだ。

俺の魔石製造機がなきゃ、武器なんて夢のまた夢だ。


だから焦って、しくじっちまった。

少し前から魔石の納入が少なくなったと思ったら、その後ぱったり納入されなくなり、機械が壊れたと言ってきた。

アレを作ったのは俺だ。

俺以外直せる奴などいるわけがない。

魔石納入量が減っていたこともあり、今あの機械が壊れたら壊滅的に魔力が足りない。


今までは間に何人も連絡役を置いて、俺自身の関与がバレないようにしていたが…しくじった。

機械の故障云々は俺を誘き出す為か。


念の為、あのバカ王子に言われて開発した魔導武器を持ってきてたのは正解だったな。


ザッ。

不意に男が出てきた。

追手か?

男と言っても、若造1人。

学校を卒業したばかりか?

俺は魔導武器を持っているし、問題ない。


「お前がタフェットだな。」


「伯爵だ。口の聞き方に気をつけろ。」


「罪人に何故敬意をはらう必要が?」

つまりあいつは…敵だな。

そう思った時若造は、剣を地面に突き刺した。


「何の真似だ?」


「生捕りを命じられてる。

剣を使ったらお前を殺してしまいそうだから。」


ぶちっ。

頭で何かがキレた気がした。

なんだと?こんな若造に手加減してもらわなきゃならねえってか?


俺は魔力を込めて魔導具を投げつける。

何かに当たると一気に炎が辺りを焼き尽くす魔導具だ。

ぶわっと炎が立ち昇り、火の粉が舞い、熱風がふく。


ムカつく若造のトドメは刺したいが、今はそれどころじゃない。

本格的な追っ手が来る前に逃げなければ。

くるりと方向を変え、逃げようとしたその時。


水滝ウォーターフォール

大量の水が流れ落ち、あっという間に炎を消した。


少しみくびっていたようだ。

あの若造……魔力には恵まれているらしい。


だが、あの規模の炎を消したのだ。

若造だって魔力消費が大きかろう。

それに比べて私は魔導具を起動させるほんの少しの魔力だけ。

まだこちらが有利だ。


「はははは!お前は水か。

ならば、水の攻撃の方がいいだろう。

存外同じスキル同士は戦いにくいのだ!」

俺はジャケット裏に携帯していた筒状の魔導具を取り出す。

この筒から高圧の水が出るのだ。

水と侮るなかれ、圧をかけた水は木をも貫通させる。


勢いよく出た水が辺りの木々を払う。

あの若造はちょこまかちょこまか動いて、逃げの一手だ。

こちらは一歩も動くことなく攻撃できるのだから、笑いが出そうになる。

あぁ。あの若造はいつまで持つかな?


突如若造が立ち止まった。

諦めの早い奴…。


消える水バニッシュウォーター


高圧の水はどんどん減り…そして、消えた。

ばかな!

消えるなどあり得ない!

どういうことだ!?


こうなりゃ、全部使い果たしても若造コイツを倒さねば。

火、風、水、土あらゆる攻撃魔法の武器を使ったが、火は水で消され、土の弾を飛ばせば風で押し返され、水や風の攻撃は途中で消える。


どういうことだ?

若造アイツも何か魔導具を?

いや、それはない。

王国の魔導具は俺の管理下で生産している。

俺の知らない魔導具なんてないはずだ。


俺が繰り出す攻撃を全て無効化しながら、若造はどんどん近づいてくる。

もう魔導具が効かないのはわかっている。

為す術なし…か。

俺と若造の距離はもうわずか。

若造が拳を振りかぶる。

な、何か…何かないか?


「す、すごいじゃないか!

君ほどの魔法使いなら、俺が殿下に掛け合っていいポストを用意してやろう。」


お?拳が止まったぞ。

脈ありか?


「俺と殿下は切っても切れない関係よ。

あの施設だって殿下のお墨付きだ。

役立たずを有効利用できて喜んでおられる。

俺が口を聞けば…」


「だまれ。

氷短剣アイスダガー

お前など殴る価値もない」


いつの間にか俺は、氷の剣で地面に貼り付け状態になっていた。

辺りを見回すと、俺が木々を薙ぎ払った奥に何人もの騎士がいた。

あぁ。

若造がちょこまか逃げていたのは、「手を出すな」という仲間への警告か。


なんだ。最初から負けじゃないか。


**********

「アルフレッド。

助かった。

でも、一発殴らなくてよかったのか?」


「そのつもりだったんだがな…

文句言って、痛めつけてやるつもりだった。

だが戦ってわかった。

あれは殴る価値すらない奴だ。

まぁ、こんな奴のせいでテルミスは逃げなきゃならなかったと思うと、未だにむかつくけど。」


それに…テルミスを見てると思う。

あいつはこんな奴らのこと少しも気にしてない。

もちろん親兄弟に会えなくて寂しいとかそういう気持ちはあるが、スキル狩りの首謀者を引き摺り下ろそうとか、復讐してやろうとか、そういう気が全くないんだ。

それは、テルミスが優しいとかそういうことじゃない。

ただそんな奴らのこと気にもせず前を向いてるだけだ。


それに何より可笑しいだろ?

そうやって前向いて頑張ってきた結果、タフェットなんて目じゃないくらいテルミスの方が強いのだから。

役立たずと、魔力源にしかならないと思っていたライブラリアンに負ける気持ちってどうなんだろうな。


これは確信を持って言えるんだが、今日のタフェットが使った魔導具は、恐らく簡単にテルミスは作り出すことができるし、それ以上の物を作れると思う。

そして、あの魔導具を使って対戦しても完膚なきまでにやっつけるだろうよ。


そう思ったら、俺も殴る気力も無くなってしまった。

もうこんな奴どうでもいいかな?と。


「報告します!

チャーミントン男爵捕縛完了。

屋敷から帳簿も見つけました。

実行犯は概ね事前調査で判明していた者ばかりです。」


「ご苦労。

街の者たちには気づかれていないか?

よし、じゃあそのまま何事もなかったように。

チャーミントン、タフェットの捕縛が外に伝わる前に全員捕まえるぞ。」


「はっ!」

ギルバート様たち辺境伯軍はこれからその帳簿を元に実行犯の捕縛だ。

俺を含め帝国部隊は、そのまま王都へ向かう。

決戦は王都だ。

まぁ…王都はベルン様もマリウスもいるから帝国軍の出番などなさそうだが。


「なぁ、もう1つ聞いていいか?

何故お前は最初から辺境伯を信用した?」


「あまり理由はないよ。

俺の恩人が辺境伯を信用していた。

ただそれだけだ。」


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