第117話 【閑話】ギルバート×アルフレッド編
足場の悪いうっそうとした森の中を進む。
木や草を切り分け進むと、ぽつんと1つの建物があった。
「首尾はどうだ?」
「被害者の移送も終わり、帝国からの応援も到着済みです。
あとは敵がかかるのを待つのみです。」
決戦はもうすぐ。
きっと大丈夫だろうが、相手はあんな機械を作る奴だ。
気を抜いては足をすくわれるな。
**********
俺がここを見つけたのは、1年半ほど前だ。
俺は領内の復興の目途がつき、スタンピードの跡をさかのぼって原因を調べていた。
そして辿りついたのが、隣領のチャーミントン。
領境に近い森は木々が倒され荒れ放題だったが、それより先はぱったりと跡がなくなっていた。
原因はわからないが、ここら辺一帯で魔物の大量発生があったのではないかと思った。
周辺を調査して、最初に見つけたのは壁に穴の開いた施設だ。
こんな山奥に何の施設だろうか?と密かに施設に近づき、中をのぞいた。
そこで見た光景のおぞましいこと。
中には、破られた檻、何かの実験道具と思われるもの、そして…無事だった数個の檻の中で蠢く幼虫と成体のウォービーズがあった。
何だここは…
「ちょっと来てください!」
部下に呼ばれ、裏手に向かうと不自然に盛られた土の山があった。
不審に思った部下が一部掘り返したら、出てきたのは3人の死体。
その死体には一様に鋭いもので刺された跡があり、赤黒く染まっていた。
それを見て確信する。
考えたくもないが、ここはウォービーズの飼育、もしくは研究施設だったのだろうと。
少し前に例年にない数のウォービーズが討伐されているが、ここで飼育されていたウォービーズが抜け出していたとなれば、あの数も納得だ。
日も暮れ、一時辺境伯領へ戻る。
施設を調査していた人員の他はさらに周辺を探らせていたのだが、そちらの部隊はもう1つの施設を見つけたという。
ウォービーズの施設など怪しい施設を見つけたこともあり、俺たちはその施設もしばらく監視することに決めた。
動きがあったのは、監視し始めて1週間だ。
1台の荷馬車がやってきたと報告があった。
報告によると荷馬車には4人の男女と、食料を大量に積んでいたようだ。
護衛の男から小突かれて、建物に入ったところを見ればその4人は好きでここに来たわけではないのだろう。
そして報告とともに現れたのは1人の少年。
この少年はあの荷馬車を追跡していたらしい。
「名は何と言う。
なぜあの荷馬車を追っていた?」
「その家紋…辺境伯軍か」
「ほう。それがわかるということは貴族か…
ならば学校に行っている年だろう。
どうしてここに?」
「俺はアルフレッド。
俺の妹は、4大魔法ではない。
スキル狩り対象だ。
その妹に嫌味を言ってたやつの父親を王都で見かけた。
そいつも、そいつの父親もスキル至上主義だ。
そして領地から出てはならない法などないが、王都へ行くには山越えが必要で、気軽に行けるわけではないし、行く理由もない。
証拠は何もない。
何もないが、怪しいと思ったから追ってきた。
それだけだ。」
嘘は言っていなさそうだった。
そもそも荷馬車を追っている時点で、荷馬車の連中とは無関係なのだろうということは分かった。
ただアルフレッドと名乗る少年が、なぜこちらを信頼したかはわからないが。
アルフレッドの話を聞き、あの施設はスキル狩りの被害者収容施設ではないかと思われた。
誘拐してきたのは、一緒にチャーミントンまで来たというドラステア男爵だろう。
領主の館へ行き、そこで一度荷馬車の中身を見ていたそうだから、チャーミントン男爵も同罪だな。
まだ学生だというアルフレッドを王都へ返し、俺たちは引き続き施設を監視した。
アルフレッドは優秀なようで、王都へ戻ってドラステア男爵を見かけた地域によく行くようになったようだ。
その結果、2回ほどチャーミントン領へ向かう荷馬車を目撃している。
目撃の度に手紙をくれたが、その度に施設に人が送り込まれてきた。
領主の館も張り込みしているが、その間に荷馬車ともに来た来客はドラステア男爵ではなかった。
つまり、誘拐犯は複数人いるらしい。
3か月ほど監視し、護衛の行動パターン、どのタイミングで外部から人が来るのか、連絡役の男はどんな奴で誰なのか調査できたので、先ずは護衛となり替わることにした。
護衛を捕縛し、代わりの者を護衛として置く。
被害者たちと接触を図り、やはり彼らがスキル狩りにあった被害者であることが分かった。
そして、何のために収容されているのかも。
外から監視している時はわからなかったが、施設には大きな機械があった。
彼らの話によると、その機械に入れられると自然と魔力を放出してしまうのだとか。
そして魔力が切れると、次の人が中に入れられ、また魔力が切れると次の人…と言う風に魔力を搾り取られ続ける。
部屋の隅には魔力がこもった魔石が山のように置いてあり、彼らの話を聞いて、それが彼らの魔力を使って無理矢理充填した魔石だとわかった。
彼らは皆どこか体が黒くなっており、聞けば薬を打たれると、「入れ」と言われれば自主的に機械に入ってしまい、その後身体が黒くなるのだという。
俺たちが来て、緊張の糸が途切れたのか、皆帰りたいとこぼす中、ひときわ黒い痣のある女は一度も帰りたいとこぼさなかった。
それが不思議で問い詰めれば、レアと言うその女は泣いて語った。
曰く、彼女を信頼するお嬢様の誘拐を手伝ってしまったと。
薬を打たれたこと、屋敷の外からお嬢様を呼んだこと、つかまって馬車にお嬢様が乗せられたことすべて覚えていると。
俺はすぐさま裏を取った。
そこでやってきたのが、またあのアルフレッドという少年だ。
今度はドレイト男爵からの手紙を手にやってきた。
それから点と点がつながるようにいろんなことがわかっていった。
レアが誘拐を手伝ったのは、ドレイト男爵令嬢だったこと。
アルフレッドの言う妹も彼女のことで、その彼女は今テルーとして名を変え、貴族令嬢から冒険者となって帝国に逃げたこと。
レアは元夫であるタフェット伯爵に薬を打たれ、孤児院を出たこと。
そのままドラステア男爵と共にテルーの誘拐をし、その後は男爵たちと別れ、タフェット伯爵と共に王都の屋敷に戻ったこと。
薬の使い過ぎでレアの命がわずかだと知り、この施設に送り込まれたこと。
冒険者のテルー。
そうか。貴族令嬢だったのか。
まさかこんな過去があったなんて。
ウォービーズもスタンピードも彼女がいたから我が領は守られたのだ。
次は俺たちが恩返しする番だ。
それから、魔石を引き取りに来た連絡役にはすでに充填済みの魔石を渡し、持ってきた空の魔石には辺境伯軍総出で少しずつ充填した。
次に渡す分は今まで渡していた魔石の量よりは少ないが、それも計画のうちだ。
テルーの薬を思い出し、砦村から薬を取り寄せた。
一番ひどいレアに服用させると、少しずつ回復した。
彼女は確かに誘拐に加担したが、薬のせいだ。
それどころか、ドレイト領に逃げる前も薬を使われていたというのだから、彼女の人生を思うと本当に回復してよかったと思う。
被害者たちを機械にかけることはしなかったし、十分な食事を与えたが、まだ犯人たちに気付かれるわけにはいかず、彼らには解放まで随分我慢してもらった。
連絡役の男を捕縛し、なり代わりが出来てからは、少しずつ辺境伯領へ逃がした。
辺境伯領では、テルーが新たに作ってくれた薬で今彼らの治療をしている。
そして今日。
「これで壊れてなかったら、ただじゃ置かないぞ。
さっさと機械のところまで案内しろ!」
敵がかかった。
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