第116話

ニールさんからトリフォニアの反乱の話を聞いた数日後、マリウス兄様からも説明の手紙が届いた。

内容は、父様も兄様も、アルフレッド兄様もドレイト領もみんな無事。

心配することないとのこと。


とにかく……無事でよかった。

そして、やっぱりアルフレッド兄様はトリフォニアに行ってたのか。


その手紙からさらに2週間。

アルフレッド兄様が帰ってきた。

元気そうな姿を見てホッとした。


みんなの無事が確認でき、アルフレッド兄様も帰ってきて、嬉しいはずなのに、最近私は何だか胸がざわざわと落ち着かない。

何故だかはわかっている。

ただただ足手まといになってばかりいる自分に自己嫌悪しているのだ。


父様も兄様たちも、スキル狩りについて色々と調べてくれて、犯人を捕まえてくれた。

スキル狩りの犯人が捕まったからと言って、ライブラリアン=役立たずという図式が崩れるわけではないのだけど、少なくとも私は逃げなくて良くなった。

ドレイトに帰ることもできるようになった。


けれど父様や兄様たちが私のために奔走し、戦ってくれていたというのに、私ときたらそんな事実を知りもしないで、のんびり帝国で過ごしていたのだ。

自分の問題すら、私は自分で解決できない。

やっぱり私は役立たずなのかもしれない。


そんな心のモヤモヤから逃げるように、私は勉強した。

アルフレッド兄様が帰ってくるまでは、不安から勉強していた。

兄様が帰ってきた今は、自身の虚無感から。

そして、糸が切れたようにぼんやりする。


そんな猛烈な勉強とぼんやりを繰り返す日々の中、私に面接の通知があった。

面接相手は、ユリウスさんだ。

志望動機を聞かれ、自身のスキルを研究したい旨を伝える。

ユリウスさんの研究は、スキルがどう進化していくのかの研究なため、他のスキルを知ることで、ライブラリアンについても何かしらのヒントが得られるのでは?と思ったのだ。


ユリウスさんは、私がライブラリアンだと聞いて驚いていた。

それはそうだろう。

彼には、レスリー様が放った火を消失魔法で消しているところも見られているし、課外授業の時も何かに気付いていそうだった。

まさかライブラリアンとは思うまい。


「正直に言おう。

私は君の謎の力が知りたい。

先日君は男子学生に囲まれている時、火を消したね?

課外授業の時もだ。

クリスを治したのは、君だろう?

そのことから、君のスキルは聖だと思っていたのだが、ライブラリアンか。

ますます興味が湧いた。

君が研究助手になってくれるなら、君の魔法を見る機会も増えるし、助手に希望してくれたのは願ったりかなったりだ。

だが、君はその力を隠しているんだろう?

私の研究室に所属したら、隠せなくなるよ。

少なくとも私には秘密ではなくなるがいいのか?」


……

確たる理由があって隠しているわけではない。

なんとなくいじめられそうだから、面倒なことになりそうだから。

だから隠していた。

確かに研究助手になると、バレる危険性もあるか。


「あぁ。君は平民だったな。

貴族に飼い殺されるのが不安だというのなら、それくらい私が追い払ってやる。

守ってやるから、その点は心配するな」


飼い殺される…ことは考えてなかった。

いじめられたくないならば、いじめられないほど「飛び抜けるがいい」とクリス様は言った。

どれだけ信用していいかわからないが、この人は私を守ってくれるらしい。

結界があるから、ある程度自衛もできると思う。


……じゃあ、もういいかな。隠さなくても。

そもそも帝国に来たのは、逃げなくていい、隠さなくていい、ありのままの自分で暮らせるようにだ。

いつの間にか、帝国でも息をひそめていたことに気付く。


「ふぅ。

隠していたのは、いじめられたり、面倒なことに巻き込まれたくなかったからです。

今まで考えてませんでしたけど、飼い殺しは嫌です。

だから本当に追い払ってくださいね」


「まかせておけ」

こうして、ユリウスさんの研究助手になることが決まった。

面接が終わり、部屋を出ようとする私にユリウスさんが声をかける。


「あぁ。それと、ジュードと君は知り合いなのだろう?

ジュードが心配していたぞ。

何を悩んでいるのか知らないが、研究助手になると悩んでいる暇などないほど忙しくなるから、覚悟しておくといい」


「はい」と返事をする私に、ユリウスさんは言うかどうか少し迷った挙句口を開いた。


「君がしたいというライブラリアンの研究は、私はとても意義あることだと思う。

私はスキルによる優劣などないと思っているが、そうじゃないと考える人も多い。

トリフォニアのスキル狩りからもわかるだろう?


君のスキルは言っちゃ悪いが、あまり評判のいいスキルじゃない。

だが、どんなスキルも何かの役に立つはずなんだ。

そうやって、いろいろな種類のスキルの人が集まって、互いに補い合うのが社会だと私は信じている。

そこに優劣などない。

君が私の研究室で研究することは、悪評を覆す一助になるだろう。

そして、それはライブラリアンである君しか出来ないことだ。

期待している」


少し目の前が開けたような気がした。

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