第114話
お母様たちが帰国してしばらくして、私はとんでもないことを聞いてしまった。
「えぇ。きっとそうだと思わない?
だって殿下はアイリーン様を溺愛されているし、2年前のスタンピードだって……ねぇ。
私はこれをレポートに書くつもりなの」
彼女たちは社会学の課題をしているようだ。
今回の課題は近年起こった出来事について、それが何を意図して行われたか考察するというものだった。
1人の女子生徒は、アイリーンの結婚について書くようだ。
アイリーンは友達だし、なぜかスタンピードという言葉も聞こえたので、いけないとは思いながら自然と耳を傾けてしまった。
彼女たちの話を聞いて青ざめた。
それが、クラティエ帝国とトリフォニア王国が戦争をするのではないかというものだったからだ。
なんで結婚から戦争になるの!?
その話は、公になった情報ではない。
ただの彼女の憶測だ。
けれど、内容が内容なだけに気になって仕方ない。
そのまま話を聞いていると、彼女が戦が起こるのではないかと考え付いた理由は3つあるらしい。
1つ目は、先程聞こえたオスニエル殿下の溺愛ぶりだ。
あまりの溺愛にアイリーン皇子妃を追放した王国を憎んでいるのでは……と。
確かに。
オスニエル殿下はアイリーン一筋だ。
だけど、私怨だけで戦をするような人には見えないけれどなぁ……
そして、それをどうやってレポートにするのだろうか。
2つ目は、2年前に起きたスタンピードは自然災害的なものではなく、王国が仕組んだものだったのではということ。
知らなかったけれど、2年前帝国の一部の貴族ではそんな噂が流れていたらしい。
これも彼女の妄想だと一蹴出来る話だが、私も真実が何かは知らない。
夏にギルバート様の話を聞いて、ギルバート様が調査をしていたことは知っているけれど、調査結果は知らないのだ。
いや、待って。
そもそもなんでギルバート様は帝国に来たのだろうか。
メンティア侯爵はアイリーンの結婚式に、父様は私に会いに。
父様が来た理由も弱いけれど、ギルバート様はもっと弱い。
私に感謝するためだけじゃ……ないよね?
感謝だけならいつだっていいのだから。
わざわざアイリーンの結婚式の時に無理を押して来なくてもいいはず。
じゃあ……なんで?
そして彼女たちの戦が起こると感じた1番の理由が帝都から騎士の多くが出払っているということだ。
彼女たちはよく騎士の練習風景を見に行くようで、「○○様もいなかったわ、あの方もよ」と話している。
確かに、兄様は今いない。
長期遠征だと聞いている。
その中身は守秘義務と言うから知らないけれど……
なんだろう。
彼女の推論は、どれも噂や憶測をもとに推論を立てていて、何の根拠もないのだけど、なぜだか否定できない私がいる。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ。
心臓の鼓動が大きくなる。
「それじゃだめよ~。
貴女またオルトヴェイン先生に怒られるわよ。
妄想も大概にしろってね」
「そうよね~。
私の妄想結構当たるのに、根拠って難しいわ~」
アルフレッド兄様が戦争に……?
マリウス兄様も王都だし、ドレイト領だって山を挟むとはいえ、王都から近いのよ。
きっと彼女の妄想よね?
その日の夜は、ネロを抱いて眠った。
なんだか最近ネロを抱きしめて寝るのが癖になっている気がする。
それでも不安は晴れなくて、とうとうマリウス兄様に手紙を書いた。
凄い妄想よね?って面白おかしく手紙を書いた。
マリウス兄様は笑ってくれると思ったのだけど、私が不安に思っていることが分かったのだろうか。
「大丈夫だよ。テルミスが心配することなんて何もないからね」と返事が返ってきた。
その真面目に返された手紙で、安心するどころか私は一層不安になってしまった。
マリウス兄様……何かご存じなのですか?
それでも遠く離れた帝都の地にいるただの学生にできることなど何もない。
不安に思いつつも、毎日を過ごし、不安を追い払うかの如く、一心不乱に勉強した。
朝も昼も夜も。
アルフレッド兄様から一人で訓練するのは禁止されていたけれど、いてもたってもいられず魔法の特訓もした。
もちろん商会の仕事も。
特にサリーは、シャンギーラの食べ物に興味を持っていたから、チャーハンや花あられを教えたり、塩こうじを使ったレシピを考えたり、シャンギーラのお店が開店する時にこちらの菓子店でもコラボした商品が作れないかとか……たくさん話した。
あれこれ試作するために、しばらく我が家に泊まっているほどだ。
バイロンさんもルカもよく進捗報告と今後の計画を立てるために良く来る。
そうやってみんなに囲まれていることで、少し不安が紛れている気もする。
専属の2人が帝国まで来てくれて本当に良かった。
ちなみに専属2人には戦争のことをまだ何も話していない。
だって、彼女の妄想……なのだから。
年末年始の休みが近くなってきた頃、進路指導が始まった。
私はメリンダに話したように自分のスキルが一体何なのか、属性のことなど調査したいことが出てきたので、迷うことなく魔法科だ。
ナオとデニスさんは貴族科に行くらしい。
貴族科は、政治や経済、経営、法律などなど、1年の時に社会学で習ったことをさらに深く学んでいくところだ。
名前こそ貴族と入っているが、平民でも問題ないのだ。
二人と離れるのは正直寂しいが、お互い頑張ろうと励まし合った。
今日はコースごとに説明会が開かれるということで、私は一人魔法科の説明会が開かれる教室に向かう。
「あ、テルーちゃん。
テルーちゃんもやっぱり魔法科志望なの?」
「クリス様。
クリス様もですか?
貴族科じゃないかと思っていたんですが」
だって、クリス様はイライアス皇子の側近候補と言われる人だから。
クリス様も最初は貴族科志望だったようだが、幼少期から政治や経済の話をする家庭環境で、貴族科で勉強する内容は、入学前に家庭教師もつけて習ってきた分野だから、やめたのだそうだ。
二人で「魔法科の研究助手が魅力だよね」と言いながら、先生の到着を待った。
しばらくするとウィスコット先生がやってきて、魔法科の説明をしてくれる。
もちろんお目当ての研究助手の話も。
「今配りましたのは、各研究室で現在研究している研究者の名前と研究内容のリストです。
この中から、研究したいという研究があれば、研究助手に応募することが出来ます。
ただし、これは研究所の研究室ですから、応募したからと言って皆が研究助手になれることはありません。
各研究室が提示する課題に合格した人のみが研究助手になれるのです。
例年ですと学年で2、3人でしょうか。
狭き門ですが、いい経験ですのでチャレンジしたい人は積極的にチャレンジするといいでしょう」
リストには、「地魔法、水魔法による農地改善研究」とか「常用ポーションの開発」とか「新規攻撃魔法の開発」だとか、「魔導具の消費魔力軽減化」などなど、あらゆる分野の魔法研究がなされているようだった。
常用ポーションって…つまり毎日飲んでも問題ないようなエナジードリンクってことかな?
絶対研究している人が飲みたいんだ…。
「テルーちゃんはどれにするか決まってる?」
「うーん。悩ましいですけど、スキル研究が気になっています」
「うわぁ難しいところ狙うね。そのユリウスっていう研究者は、まだ学生の研究助手をとったことないって聞いたよ」
「そうなんですけど、私、自分以外のライブラリアンに会ったことがないんですよね。
だからこのスキルのことイマイチよくわからなくて」
そう。4大魔法はスキルではなく属性で、聖魔法、緑魔法は付与魔法と言うのは、今証明はできないけれど、今まで読んできた本と経験上、結構自信を持っている仮説だ。
だけど、その仮説を用いてもわからないのが、ライブラリアンだ。
それが研究出来たら……いいなぁ。
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