第108話
あれからジェイムス様達から何かしかけられることはない。
時折憎しみがこもったような視線を投げかけられることはあるけれど、実害はない。
今は初級魔法学の時間だ。
前期の授業は、浮遊紙を飛ばせたり、魔石に魔力を込めたりと魔力をコントロールする授業ばかりだったのだが、今期は違う。
生活魔法を教えてくれるのだという。
「今から教えるのは、生活魔法。
生活魔法はユリシーズ殿下が開発された魔法で、習得までに個人差はあるものの皆が使える魔法です。
私も魔法を教えている身ですが、魔法に関してはまだまだ分かっていないことが沢山あります。
ユリシーズ殿下のように、誰もが使える魔法を開発する人もいれば、自らのスキルを高め付与魔法使いではないのに自らのスキルを剣に付与して戦った者もいます。
魔法はまだまだ可能性に満ち溢れています。
今ここにいる皆さんが、将来新たな魔法の真実を見つけるかもしれませんよ。
さぁ、そのためにも皆さんには私の知る魔法を余すことなく教えましょう。」
付与魔法使いでもないのに自分のスキルを付与…か。
私も付与魔法使いではないけれど付与できる。
が、それは魔法陣を使ってだ。
たくさん練習したものは魔法陣なしでも使えるけれど…
先生がおっしゃってたのは、魔法陣なしで付与できるようになったということだ。
どういうことだろう。
スキル判定で受けた魔法しか使えないのではなかったの?
うーん。
考えているうちにも授業は進む。
今日の授業は屋外だ。
ウィスコット先生の前にも、生徒の前にも落ち葉や木の枝が準備されている。
「それでは皆さんしっかり見ていてね。」
そう言って手をかざす。
「
バチッと一瞬だけウィスコット先生から火が放たれ、焚火が出来る。
なるほど。
一瞬だけ火を出す魔法。
火起こしする必要がなくなるということね。
便利かも。
「先程私が見せた魔法を思い出しながらやってみて。」
そう言うとあちらこちらからから呪文が聞こえてくる。
私もやってみよう。
「
一発でできた。
「あ、出来た…」
古代語じゃない、魔法陣じゃない魔法が…できた!
すごい!
「さすが実技1位ね。お上手よテルー。」
ウィスコット先生にも褒められた。
ここで今までならジロリと睨まれるところなのだが…あれ?睨まれない。
皆ぽかんと見ている。
「やはり不正なんかじゃなかったのね。
負けられないわ。」
誰かがそう呟いて、皆がより一層魔法の習得に励み始めた。
すごい。
本当にCクラスを卒業してよかった。
平民のくせに!と蔑むばかりだったCクラスの人に対し、平民に負けられないと頑張るAクラス。
CクラスからAクラスに上がる人がほとんどいない理由が分かったかもしれない。
ちなみにスキルが火だったデニスさんには簡単だったようだが、スキルが水のナオは大苦戦で今日の授業では出来ることはなかった。
習得に個人差があるというのは、スキルとの相性ということなのだろうか?
初級魔法学は実際に魔法を使うようになったし、現在わかっている範囲ではあるが魔法についての知識…というか魔法の歴史?も教えてくれるようになった。
曰く、バンフィールド先生が使っている薬の鑑定をする魔導具も本来は鑑定スキル(薬)の人が作ったそうだ。
付与魔法使いではないのに、物体に魔法を付与できるなんて!と当時は大騒ぎになったらしい。
その後自分も付与が出来るのではないかと魔法の訓練を積む人が続出したが、結局付与できたのは先述した火魔法を付与した剣だけだったとか。
また薬だけとはいえ鑑定の魔導具が大騒ぎになったのは、付与魔法使いで鑑定魔法を付与できるものがいなかったからでもある。
付与魔法使いは何でも付与できるわけではなく、付与魔法使い(火)、付与魔法使い(水)というように限定的であり、付与魔法使い(鑑定)なんて人は今までいなかったのだ。
現在その鑑定具を作った人はもう亡くなっており、現存する鑑定具は宮殿にある鑑定具と個人的に友達だったというバンフィールド先生の鑑定具だけだという。
その他の授業もほんの少しずつ難易度が上がったように感じる。
魔物学はAクラスになって周囲の攻撃力が上がったからかD、Eランクの魔物なら2、3人につき1体で、Cランクの魔物なら全員で2、3体。
私はもちろん後方部隊だが、どんなにグループが分かれていようと私は全員を見なければいけない。
Aクラスは全員が4大魔法のいずれかのようで、後方部隊は1人だけだ。
大怪我があった時に対応できないので、1人学校所属の聖魔法使いもすぐ出動できるようにはしているらしいが…
一人で全員の怪我を捌くのはなかなか大変だ。
そういえば、Cクラスの時はBクラスと合同だったけれど、AクラスはSクラスと合同ではないようだ。
なんでもSクラスというのは、特別なのだとか。
Aクラス以下は試験の順位で上から順番に振り分けているのだけど、Sクラスは筆記も実技もある基準値を上回らないと所属できないという。
だからどれだけ学年1位でも基準値を上回らなければ所属できないため、所属人数0人という年もあるのだとか。
薬草学も前期は単純に扱いやすい薬草だけだったが、魔草と呼ばれる植物も取り扱うようになった。
この魔草と言うのは厄介で、切れ味鋭い葉を飛ばしてきたり、幻覚作用のある花粉をまき散らしたり、素手で触ると火傷したり…扱いづらい。
言うまでもないことだが、助手業はさらに大変になった。
体術も馬に乗りながら弓を引いたり、模擬戦方式になったりと確実に難しくなっている。
私は隅でまだ体力づくりだけれど…
社会学だけは前期からさほど変わらないが、これは元々がスパルタなのでこれ以上スパルタ度合いをあげたら死ぬと思う。
週末はアルフレッド兄様が訪ねてきて、一緒にご飯を食べたり、魔法の訓練をしたりする。
そう。
夏休みが終わっても、アルフレッド兄様は帝国に残ってくれたのだ。
学校はいいのかと聞いてみたが、もうあの学校で学べることはないから大丈夫だと言っている。
それならナリス学園に通うのかと思っていたら、いつの間にか騎士団に入団していた。
今後は寮生活となるらしい。
確かに兄様は強いけれど…いいのだろうか?
騎士団は学歴重視と言う訳ではないから、ならば早い頃から訓練や討伐に参加して実力をつけたほうがいいというのが兄様の話だ。
そう…かもしれない。
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