第107話

あっという間に夏休みは終わり、新学期になった。

久しぶりに来る学園はどこかそわそわ。


「テルーおはよう。

もうクラス見た?」


「まだ!」

そうだった。クラスどうなったのだろう?

ナオと2人中庭へ行く。

そこは一層ザワザワと騒がしかった。

 

デニスさんが私たちに気づいて駆け寄ってきた。

「2人ともおはよう!

みんなCクラス脱却だな。

あ、まだ見てない?じゃあまず自分で見て「不正だ!」」


ん?ジェイムス様?

ジェイムス様を中心に何人かの学生が声高に何か話している。


「あぁ!そうに違いない!」


「こんなこと前代未聞だ」


「不正をそのままにしていいわけがない!

学園側にはそれ相応の対応してもらわねば!」


そんなこと喚いている学生を横目にクラス発表を見にいく。

その途中でジェイムス様集団に見つかり、いつの間にか行く手を遮られていた。


「お前らの不正はもうわかっている。

ここで謝罪すれば、退学くらいで済むよう取り計らってやっていいが?」


「不正とはなんのことでしょう?

身に覚えのないことですわ。」


ナオが否定したけれどジェイムス様集団は納得いかないようで、「しらばっくれるか」とかなんとか口々に言い募る。

多分私たちのクラスが彼らより上だったのだろうと思うけれど、まだ発表を見てない私たちは責められつつも何クラスだったのだろうという興味ばかりが大きくなる。


「私たちまだ発表を見ておりませんので、失礼しますね」


「待て!」

そう言うと取り巻きが私の腕を掴んだ…と思ったら、そのまま前に転んだ。

ほら…結界があるから…はぁ…また巨神兵って呼ばれるわね。


「くそっ!」

「何を騒いでる!」


そこにやってきたのは、生徒会長でもあるイライアス皇子だった。

さすがに皇族の前では騒げないのか、ジェイムス様集団は「い、いえ…」など口を閉ざしてしまった。

「何もないなら、もうすぐ授業が始まる。

解散するように」


そう言って人が減っていく。

やっと発表を見て驚愕した。

クラスはナオも私もAクラスだった。

驚いたのはそれじゃない。

実技、筆記それぞれに優秀者の名が張り出されているのだが、筆記は5位、実技は1位に私の名前が書いてあるのだ。

「テルー…すごいじゃない。」


そういうナオも筆記4位に名を連ねている。

だからか…だから不正だと叫んでいたのか。

Cクラスの平民が筆記5位、実技1位なんて、海の民と蔑んでいたナオが筆記4位なんて。

認めたくないわよね。


「君が1位のテルーか。

私はこの学園を信用している。

だから証拠もないのに君の不正は疑わないが、Cクラスだった者が一気にAクラスまでなったんだ。

十分気をつけるといい。

ナオミ嬢もな」


「ご心配ありがとうございます」


皇子たちが去るとデニスさんが来た。

心配してくれていたみたいだ。

デニスさんもAクラス。

皆でCクラス脱却を喜んだ。


Aクラスは静かだった。

初めてCクラスに行ったときは、ギャーギャー騒いでいたり、寝ていたり…すごい状況だったけれど、ここは皆静か。

制服を着崩している人もおらず、一見すると皆真面目そうな人が多かった。

いや…真面目と言うだけでなく、さっきの騒ぎがあったから様子を見てるのかもしれない。


Aクラスになって、平穏な日が続いた。

積極的に仲良くしてくれる人はいないけれど、誰も私たちのことを悪くは言わない。

睨んだり敵意を感じることもない。


変わったのは食堂が近くなったので、弁当ではなく週に1、2度は食堂で食べるようになったこと。

食堂で食べているとジュードに声かけられた。

ここ半年見なかったからすぐに退学したかと思っていたらしく、かなり驚いていた。


「貴族たちの中でちゃんとやっていけてるのか?

少し前も平民の子の偽聖女とかいう悪い噂があったから気をつけなよ」


「あ~。それ私なんです。

あ、でも事実無根ですし、ヒュー先生が収めてくれたのでもう大丈夫です」


「それ…貴族たちにもう目をつけられてないか?」


…そうかもしれない。


そんな話をした数日後。

今日は薬草学の助手のため温室に来ている。

ルーティンになっている傷薬を作り、授業で使う薬草を洗う。

バンフィールド先生は、誰かが訪ねてきたようで温室の外で話している。


これを確認してもらったら…今日の分は終わりかな。

「はぁ。今日は助手希望者が多くて困るわ。

みんなやりたいやりたいと言うだけで、ちょっと質問しても全く薬草のことわかっていないのよ。

しかも試験にも出した初歩的な質問なのに。

薬草の知識もなく、助手が務まるわけないのに。

きっと貴女のように、助手になったら成績優秀になれると思っているのね。

だからまずは、私の質問に答えれるようになってから来て頂戴って追い返したわ。

あれだけ助手業なんて雑用係、平民にやらせるのがお似合いだって言っていたのにね」


「バンフィールド先生…ご存じだったんですか」


「えぇ。これでも私耳がいいの。

いろいろな話が入ってくるのよ。

だから知ってたけれど、平民の貴女には雑用係と思われていたほうが都合がいいのかと思っていたわ」


助手業が人気…今申し込んでいる人は、知識のない人だから拒まれているが、知識のある人だったらきっとバンフィールド先生は受け入れるのだろうな。

半年通ってわかったが、学園の先生たちは過剰に誰かをひいきしたりすることがない。

平民である私も貴族であるほかの学生も等しく扱ってくれているから。

新しい助手が来たら、私はもうお役御免なのだろうか。

大変だ、大変だと言っていたバンフィールド先生の助手業も学びが多くていつの間にか好きになっていた。


そんなことを考えながら、温室を出る。

温室を出て少しすると、ジェイムス様とその取り巻きがいた。


困ったな。


「どんな手を使ったんだ。

イライアス皇子まで手を回すなんて」


まだ不正を疑ってるのか。

「不正などしておりません。

ましてや私はただの平民。

手を回すなんて権力ありません」


「不正でもなければ、貴様が1位などあり得ない。

お前が認めさえすればいいんだ」


また手を掴もうとされるが、結界に阻まれてつかめず転ぶ。

拘束しようにも、結界に阻まれ尻もちをつく。

逃げ道はふさがれているし、足は遅いけれど、結界がある私を悪意のあるジェイムス様達が捕まえることはできないから、強行突破で進もうかな…と思い、ふと後ろに目をやりゾッとした。


結界に阻まれ、尻もちをついたレスリー様の顔が憤怒に滲み、その手から大きな魔力を感じた。

火球ファイアボール!!!」


彼の手からまさに火が放たれようと、手に火が渦巻く。

ここでこんな火を放てば、大火事になるわ。

敷地の隅にある温室の周りは、人気がないが、木や植物は多いし、研究棟も近い。

研究棟で何を研究しているかなんて私にはわからないけれど…可燃性のものがあったら?危険な物質があったら?

火を消さなければ危ないと若干パニックになりながら、必死で頭を巡らす。


フエゴ


思いついたのは、この夏休みにたくさん特訓した消失魔法だった。

抑え込め、もっと小さく、もっと、もっと…!


彼から放たれた火は私に届くまでに消えていた。

「魔力切れか?」

結構な火の大きさに若干引き気味のジェイムス様が安堵の息を吐く。


「何をしている!

こんなところで火を放つなど愚か者が。

爆発したら、誰一人助からないぞ」


前髪が顔に半分かかった男性がこっちを見ていた。

「まぁいい。

お前らの処分は学園側に訴えよう。

ついて来い」


学園の応接室で待っているとオルトヴェイン先生がやってきた。

「すまんな。ユリウス手間をかけた。

悪いけどお前も事情聴取に付き合ってくれない?」


私は別室で待っている。

先にジェイムス様たちから事情を聞いているのだ。


私は今更になって、今の状況が怖くなった。

ジェイムス様は伯爵家の子供だし、火を放ったレスリー様も男爵家の子。

他にも子爵、男爵家の子が4人はいた。

高位貴族ではないといえ、貴族は貴族。

それに引き換え私は平民だ。


ドキドキと不安と不安と不安が入り乱れながら、待つ。

1人になってどれだけ待っただろうか…すごく怖い。


真っ青になりながら待っていると、オルトヴェイン先生と先程仲裁に入ってくれた人が来た。


「あ、あの…」


「ん?あぁ大丈夫だ。

レスリーが君に火を放とうとしていた所をユリウスが見ているし、クラス発表の時もあの集団は君に暴言を吐いていただろう。

君が被害者なのはわかっている。

まぁ、一応何があったか君の口からも聞かせてもらうけど」


そう言って、温室を出てジェイムス様たちに不正を認めろと絡まれたこと、手を掴まれそうになったり拘束されそうになったりしたこと(結界は言いたくなかったから避けたことにした)、火の魔法を放たれたけど途中で消えたことを話す。


あれだけ怖がっていたのに、呆気なく取り調べが終わった。

仲裁してくれたユリウスさんが火を放つところを見ていたのが大きかったようだ。

よかった。お咎めなしだ。

逆にユリウスさんが見ていたのは火を放つところだけ。

それ故に実際に火を放ったレスリー様は退学処分になっているが、他の人たちは彼ら自身「攻撃する気はなかった」と罪を認めていないこともあり、口頭注意で済んでいる。

これを機に絡んでこないといいなと思う。

せっかくCクラスを脱却したのだ。

Cクラスの人たちに煩わされたくない。


「あの、助けていただきありがとうございました。」


「いや、私は何も助けてない。

君自身の力だろう。

名前聞いてもいいかい?」


じっと見つめられる。

背筋に嫌な汗が流れる。

何か見透かされているような…そんな気が。

ん?君の力?

バレてる?!結界の方?それとも消失魔法?


「テルーと申します。

本当にありがとうございます」


それでもこの場で追求せず黙ってくれたのだ。

別に悪いことをしているわけではないけれど、魔法を使えるのを隠している身としてはありがたい。


黙ってくれてありがとうの意味が通じたのか、口元をニヤリと綻ばせ、またなと言って去っていった。


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