第102話
父様との暮らしは、意外にも平穏だった。
父様相手なら、魔法が使えることを隠さなくていいというのが大きい。
翌日父様が起きてくる前に、あらかた薬草の処理を終わらせておこうと思ったけれど、袋から出して、薬草の状態を確かめるだけで父様が起きてきてしまったのだ。
キッチンは薬草だらけなので、窓辺の椅子の前にサイドテーブルを出して、そこで一緒にご飯を食べる。
ごはんを作る間に甘麴ミルクを出したけれど、父様も気に入ったよう。
さすがに皿洗いを
怠けているわけではないのだ。
今日はいっぱい薬を作らなきゃいけないから…時短だ。時短。
父様は驚いただけで、綺麗になるなら何でもいいと言ってくれたので、調子に乗って洗濯も
魔法を使ってあらかた家事を終えると、やっと薬づくりだ。
父様は私が魔法を使うのが新鮮なようで(そういえば、ドレイトで父様に魔法を見せたことなかったかも)、キッチンの隅で見学している。
さて、先ずは…アマルゴンの洗浄からだ。
昨日はとりあえず宮殿にあるありったけのアマルゴンを持って帰ってきたが、急だったので、処理済みの薬草は少なく、未処理の薬草ばかりだったのだ。
バンフィールド先生の温室で作るなら、バケツに水を入れ、そこで一枚一枚丁寧に洗う訳だけど、ここは私の家で、見ている人は父様だけで、さらに言えばそんな時間ないのだ。
だから…
「
一瞬キラキラときれいな光が舞い、アマルゴンがきれいになる。
それを1枚、1枚葉と茎を分ける。
これがなかなか重労働だが、これならできると父様も手伝ってくれた。
その次も魔法で時短の時間です。
大きめの瓶を見つけてきて、空調の魔法陣を付与する。
空調の魔法陣を使って乾燥させるのだ。
今日はあいにくの雨だし、全部を乾燥させていてはメンティア侯爵の帰国に間に合わないからだ。
ある程度瓶がいっぱいになったらふたを閉めて、待つ。
待っている間?もちろん葉と茎を分ける作業だよ。
2時間くらいたつと葉がしっかり乾燥した。
カラカラになった葉を取り出し、また新たに葉を入れる。
カラカラに乾燥した葉は、触れるだけでもボロボロと壊れるけれど、それをすり鉢を使ってさらに粉にしていく。
そして、再び。
「
今度は洗浄するために結界を張ったわけではなく、葉自体に付与している。
これでよし。
同じように滋養にいいと言われるゴイズの実もアマルゴンの葉と同じように洗浄、乾燥し、包丁を使って細かく刻んでいく。
こちらのゴイズの実には
ゴイズの実ブレンドは今回初だ。
砦村にはゴイズの実などなかったし、あの頃はゴイズの実の存在すら知らなかったから。
これはバンフィールド先生の助手業のおかげで知ったこと。
今回ゴイズの実をブレンドしたのは、その存在を知ったのもあるけれど、この薬を飲む患者を診ていないことが一番だ。
砦村に残した解毒効果のある薬が効いたのだから、同じようにアマルゴンの葉で薬を作ることは決まっていたが、もしかしたらその人は体力を消耗しているかもしれないし、損傷を負っているかもしれない。
あの時は私とイヴが回復をかけ続けていたから、問題なかったけれど、今回は現地に行くわけではないのだからそうはいかない。
そこで考えたのがゴイズの実に
これならある程度解毒と同時に自己治癒力も引きあがるのではないかと思う。
昼頃ニールさんとアルフレッド兄様がお昼をもって顔を出しに来てくれた。
薬づくりに没頭するあまり、昼ご飯のことわすれてた!
3階の家にどうぞと思ったのだけど、やはり1階の応接室で構わないと言われたため、急いでできたばかりの薬を持っていく。
「ニールさん、バンフィールド先生の温室には薬を鑑定するような機械があったのだけど、宮殿にもありますか?
ゴイズの実使ったの初めてですし、自分で使う薬でもないので、ちゃんと鑑定してもらえると安心です。」
「うん。宮殿にもあるから、今日このまま鑑定してもらってくるよー。」
「テルミス、昨日の今日だぞ。
もう出来上がってるなんて無理してないか?
何か手伝えることがあったら手伝うけど…」
「テルーちゃん、じゃあ俺はサクッと鑑定してくるね。
アルフレッド置いていくから、何か手伝えることあったら、じゃんじゃん頼んで。」
そう言って、ニールさんは出ていった。
「兄様ご飯食べました?」
「いや、まだだけど…気にしないでいいよ。
どこかで食べてくるから。」
「それならうちで食べていって。
ニールさんのくれたご飯、父様と2人じゃ食べきれないし。
それに、兄様とも話したいと思ってたの。」
最終的には押し切る形で兄様を食事に呼ぶ。
3階の部屋は今薬草だらけだ。
「ちょっと待っててね。」
そう言って薬草を隅に片付ける。
処理済みのものはこっち、あっちは付与前のもの…
やっときれいになったアイランドキッチンにニールさんからもらった食事を広げる。
久しぶりに食べたサンドラさんのご飯…美味しい。
何より久しぶりに会った父様とアルフレッド兄様と3人で食べるのが、嬉しいのだ。
昼食後は再び薬づくりに戻る。
窓辺では、父様とアルフレッド兄様が難しい顔をしてあれこれ話している。
2週間後の旅程なんかを決めてるのだろうか。
アルフレッド兄様が来たのは、お父様の護衛だろうから滞在中の護衛をどうするのか話しているのかもしれない。
家に結界があれば、アルフレッド兄様も安心できるかも?
一通り薬をつくったら、家に付与しようかな。
ニールさんはすぐに戻ってきた。
応接室まで話を聞きに行ったアルフレッド兄様の話によると解毒薬は問題なかったそうだ。
むしろ効果が高すぎて、出所を探られないようにするのが大変だったと言っていた。
それを聞いて思い至る。
オスニエル殿下とアイリーンは、私が4大魔法を使えることも聖魔法を使えることも、結界を張れることも、薬を作れることも知ってる。
私を取り込んで、あれこれ働かせる権力もあるし、私は何の権力もない平民だ。
それでも私に何かを頼むことはない。
むしろ守ってもらっているのかもしれない。
便利な道具のように使う人だっているだろうに。
やっぱり私は恵まれている。
薬の効果に問題ないことが分かったので、追加で材料と薬を入れる瓶をニールさんに頼み、メンティア侯爵が帰るまでできる限り薬を作った。
頑張った甲斐あって、依頼された薬の半量作り終えることが出来た。
残りは父様に持って帰ってもらう。
父様が帰国するのは2週間後。
まだまだ時間があるし、残りの薬も2、3日で作り終わるだろうから、父様とゆっくり帝国で暮らせたらいいな。
海街にも連れていきたいしね。
ふふふ。
◇作者からお知らせ◇
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