第101話
「どういうことですか?
私がレアを救えるの?」
「それについては、私から説明させてください。」
そう言ったのは、ギルバート様だ。
「私はスタンピードの調査をしていました。
その調査の過程で、レアは見つかったのです。
レアが見つかった場所の近くにはウォービーズを飼っている施設があった。」
「!!!」
そんな!魔物を飼う?
魔物は昔アイリーンが言っていたように、人々を襲う。
犬や猫、馬などのように人間になつくことはないのだ。
そんな危険な物を飼ってた?
なんのために。
「そこから、レアの毒はウォービーズ由来の物ではないかと考えたのです。
冬のウォービーズの毒は死に至りますが、それ以外の季節では刺された箇所が赤黒くなり、思考が緩慢になるだけですから。
レアの症状にも似ています。」
確かに、レアの症状は自分で思考できず、人の言いなりになってしまうものだ。
黒くなるのも、似ている。
ウォービーズの毒をさらに強めた?
「先程、スタンピードの時に私があの村にいたのは話しましたね。
そこで村長から貴女がアイリーン嬢を救った話も薬を作っていった話も聞いていました。
それで、村から薬を取り寄せレアに服用させたのです。」
あの村で作った薬は、アマルゴンを使った解毒の薬。
ウォービーズの毒を受けたアイリーンには効いたし、同じウォービーズの毒ならばレアも効くのではないだろうか。
「どうでした?」
「少しずつ痣がなくなっています。
今はまだ胸のあたりの痣が残っていますが、我々が帰る頃にはすっかり治っているかもしれません。」
「あぁ!良かった!」
「そこでお願いがあるのです。
アイリーンの恩人に、またもお願いしなければならないのは心苦しいのですが。」
そう言って、また侯爵は頭を下げようとする。
「な、なんでしょう。
私が出来ることであれば、お手伝いさせていただきますが。」
「実はレアの他にも同じ症状の者が多く見つかっております。
しかしあの薬はもうこちらの手元にはない。
こちらでも再現しようとしたのですが、出来る者がおらず、あの薬を作っていただけないかと思い、お願いに参りました。
まだ、お礼も十分にできていないうちから、さらにお願いなど本当に申し訳ない。」
「それなら問題ありません!
実は今学園に通わせていただいていて、薬草学の先生の助手をさせていただいているのです。
そこで少しばかり、薬づくりを教えていただいているので、あの村で作ったのよりもマシなものをお渡しできると思います。」
「そうか。ありがとう。
材料などは全てこちらで用意するから、何でも必要なものは声かけてほしい。」
「あ、でもどれくらいの量必要でしょうか。
結婚式が終わったら帰られますよね?
結婚式まであと2日…私一人でどこまで作れるかわからないのですが…」
「あぁ。それは心配しないでいい。
メンティア侯爵は2日後に帰るが、私は2週間ほど滞在する予定だから、2日後に出来上がらなかった分は私が持って帰ろう。」
「お父様!?本当ですか?」
「あぁ。せっかく可愛い娘のところに来たんだ。
少しくらい娘と一緒に暮らしたいじゃないか。」
「わぁ嬉しい!
ん?暮らす?」
「テルミス…お前の家に父様も泊めてくれないか。」
「えぇぇぇぇぇぇ!
でも、父様?私の家には、使用人もいませんよ?」
「テルミス、父様を侮ってもらっちゃ困るよ。
若い時は騎士団に所属してたんだ。
野宿の経験だってある。
どんな狭いところでも問題ない。
それにみんなからお土産もあるし、ちゃんと暮らしているか、危険がないか確認するようマリウスからも口酸っぱく言われている。」
なんだろう?マリウス兄様、なんか強い。
「テルー。
今日は久しぶりに会えて本当にうれしかった。
学園も楽しそうで安心したわ。」
「アイリーン様。」
「もう堅苦しい話は終わったのだから、今は様なんてつけないで。
私たち友達でしょう?
今日を私楽しみにしてたんだから。」
「アイリーン!
私も会えてうれしい。」
「建国祭で屋台するんでしょ?
さっきの花あられすっごくおいしかったわ。
当日、私が直接行くのは難しいけれど必ず誰か買いに行ってもらうわ。」
「もう。言ってくれれば、いつでも作るわ。
あ、でも屋台ではさっきの花あられのほかにも出すの。
串にささってるから、あまり上品に食べられるものじゃないんだけど。」
「串餅ってやつかい?
さっきテルーちゃん待ってる間に、バイロンに聞いたよ。
お腹が空く匂いだって。
匂いで釣る作戦なんだろ?」
「なんだ、それは。気になるな。
よし、俺とアイリーンの分は誰かに買いに行かせよう。」
「え?お届けしましょうか?」
「いやいや、シャンギーラを保護したが、いまだ帝国となじめていない。
そのシャンギーラの品を売っている店がどう受け止められているかも見たいからな。
祭りの期間中どこかで買いに行こう。」
さっきまでのシリアスな雰囲気が嘘だったかのように、楽しい会話が続く。
もしかして気を使われているのかもしれない。
先程聞いた話も、何か腑に落ちない。
今は楽しくて、どこが腑に落ちないかわからないけれど…全部は話してもらえてない。
そういう気がする。
「テルミス?」
アルフレッド兄様がこちらをのぞき込む。
「ううん。大丈夫。」
私もしっかりしないと。
心配かけちゃう。
私は私のできることをがんばろう。
さぁもうすぐお開きという頃になって、私はまだお礼を言えていないことに気が付いた。
「殿下、アイリーン。
本当にありがとうございました。
家のこともそうですが、お二人の勧めで学園に通って、最初は貴族の中でやっていけるのだろうかと思いましたが、楽しくて。
今は本当に通って良かったと思っています。
ありがとうございました。」
その後、再びギルバート様からはお礼を言われ、「我が辺境伯領はいつでも貴女の味方をする」とまで言われてしまった。
メンティア侯爵も別室に待機していた侯爵夫人と息子さんを連れてきて、改めて涙ながらに感謝を伝えられた。
急にたくさんのお礼を言われて、私はあわあわしっぱなしで、それを隣で父様と兄様は暖かく見守っているだけだった。
不遇なスキルでも、誘拐されかけても、国を離れてもやっぱり私は恵まれているのだと思う。
こんなにやさしい人たちが周りにいるのだから。
父様、兄様、ニールさんと家に戻ってきた。
「テルーちゃん、今日は急だったのにありがとね!
明日の昼に顔見せに来るよ。
その時追加で必要なものとかあったら言ってね。
とりあえず今日は男爵と一緒にゆっくり休んで」
「テルミス。
色んな事を聞いたが、大丈夫か?
ベルン様は、屋敷中からあれこれ持たされていたからお土産は本当に大量だぞ。
楽しみにしてるといい。
俺もまたニールとともに明日くるよ。
それじゃあ、おやすみ。」
そう言ってニールさんと兄様は行ってしまった。
びっくりすることが沢山あって、兄様とあまり話せなかったな。
明日は話せるといいけれど。
「テルーちゃん。おかえり。
ベッドが届いてるんだけど、どこに運ぶ?」
「バイロンさんありがとうございます。
3階に空室があるのでそこにお願いします。」
そうして殿下のご厚意で届けてもらったベッドを3階の空室に運び、父娘の共同生活が始まったのだった。
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