第98話

はぁぁぁぁぁ。

つ…疲れた。


今日は、試験の日。

午前中は魔物学、薬草学、社会学と筆記の試験が続き、今はようやく社会学の試験が終わったところ。

魔物学は授業の半分は実技だったので、習った範囲が少なかったし、薬草学はスパルタな助手業をするうちにかなり知識が増えたから、それほど問題ではなかった。

どれもすらすら解けた。


問題は…わかっていたけれど、わかっていたけれど、社会学だ。

入学試験の時のように知識を問う問題(ただし今回は他国の知識も含まれていた)に加え、「ナリス学園初等部についてあなたの意見を述べなさい」なんていう小論文まであったのだ。

つ…疲れた…。

この半年オルトヴェイン先生からレポートを添削され続けてきたから、まぁまぁ書けた気がするけれど、ナリス語を大量に書く小論文は非常に疲れた。

スペルミスも…多分大丈夫…なはず。

試験勉強と並行してナリス語もかなり勉強したから。


「テルー、お疲れさま。

早くご飯食べに行こう。」


もちろん声をかけてきてくれたのは、ナオ。

二人でいつものように、東の庭園の奥でご飯を食べる。


「試験どうだった?」


「とても疲れたけれど、多分大丈夫…かな。

小論文だってまぁまぁちゃんと書けたし、スペルも間違わなかったし…多分。

魔物学と薬草学はできたと思う。

ナオは?」


「ナリス語かなり頑張ってたもの。

大丈夫よ。

私も多分大丈夫と思うわ。」


「ナオは頭いいものね。

そう言えば、何でナオCクラスなの?

一緒に試験勉強して思ったのだけど、絶対Aクラス…いやSクラスくらいにいそうなのだけど」


「あぁ、シャンギーラからこっちに来るときにね、雨で船が予定通り出せなくて。

トラブルもあって、帝都に到着できたのは入試の日当日で、1科目試験に間に合わなかったの。

さすがに落ちたかも…と思ったけれど、ギリギリ入学できてラッキーだったわ。」


「すごい…

私全科目受けて、Cクラスだったのに。」


「でも、それは多分ナリス語が間違ってたからでしょ?

最初の頃の社会学のレポート見たらわかるわ。

今はかなりスペルミスもなくなったし、わかる単語も増えたのだから大丈夫よ。

それに今回は入試の時と違って、実技もあるじゃない!

実技は貴女得意でしょ。

貴女こそS、Aクラス狙えるのでは?と思うわよ。」


「ありがとう。

ナオに褒められると嬉しいな。

実技の試験何するんだろうねぇ。」


私も周りの様子を見て、さすがにCクラスは今回脱却できるのでは?と思っている。

それに、確実に脱却するために頑張ったしね。

だって!偽聖女とひそひそ噂していたのは、学園に通う生徒のほとんどだったかもしれないけれど、ぶつかって来ようとしたり、明らかに悪意ある悪口言ってたのはCクラスの人だったから。

同じクラスだったからより目障りだったのかもしれないけれど、同じクラスだからこそ噂が嘘だとわかっていたはずなのに…それでもその噂に乗っかってきたところが、嫌だと思った。

だからなるべく関わりたくない。


そう言えば…デニスさんは「貧乏平民のくせに!」とは言うけれど、偽聖女とは言われたことなかったなぁ。

やっぱりナオの言う通り、心配して声をかけてくれたのかもしれない。


午後になった。

初級魔法学の試験だ。

この試験の後は、今学期最後のパーティが待っている。

順番に一人ずつ試験をするようで、一人、また一人名前を呼ばれていく。

試験が終わった生徒はそのままパーティーホールへ移動するらしい。

だから試験の内容はわからない。

何するんだろうなぁ…順番まだかな。


ナオが呼ばれた。

アビー様も呼ばれた。

デニスさんも呼ばれたし、アグネス様も呼ばれた。

私はまだ呼ばれない。


結局順番は最後だった。

部屋に入ると奥にウィスコット先生ともう一人知らない人がいた。

「最後はCクラス テルーね。

それでは、試験を始めます。

これをどうぞ。」


そう言って手渡されたのは、先が尖っていない針だった。

「その針には浮遊紙と同じ魔法がかかっています。

浮遊紙のように魔力を込めると浮き、動かすことが出来ます。

それを使って、この輪の中を潜り抜けて、私のところまで届けてください。」


先生の指さす方向を見ると、大小の輪が並んで浮いている。

私に近い方の輪っかは大きな輪。輪と輪の間隔も狭い。

先生に近い方の輪は小さく、間隔も広い。

一番最後の輪は本当に針に糸を通すような小ささだ。

これは…難しそうね。


浮遊紙の時と同様、針に魔力を込める。

少し込めただけなのに、針はあっという間に天井近くまで行ってしまった。

この針!!!ほんの…本当に本当にわずかな魔力で発動してしまうんだ。

消費魔力が少なすぎて、逆に難しい。


ぎりぎりと魔力を引き絞っていく。

少し、また少し針が降りてくる。

でもまだまだ高い。

もっと少なく…うーん。

一度出した魔力を絞るのは難しいな。


よし!まずは魔力を全部器に押し込めよう。

もう1度最初からやり直しだ。

魔力が全くでないようにして。

すると、魔力が回収されるにつれて少しずつ針が降りてくる。

針を掴み、そして、もう1度。

集中して、指先から糸のように細く、そして途切れぬよう魔力を込める。


ふわっと浮いた。

そのまま、糸のように細く魔力を出し続ける。

大きな輪っかは問題ない。

すっと通り抜けて、次の輪へ、1つクリア、2つクリア、3つ、4つ、5つ…

中くらいの輪も通り抜けた。

ふーっ。半分は行けた。


あとは小さい輪。

さすがに…一番最後の輪はここから遠すぎて、そして輪が小さすぎて、通るべき穴が見えない。

これは…ここから輪に通すなんて無理じゃない?

そんな当たり前のことに今更ながら気づき、糸のような魔力を維持しながら、先生に問いかける。


「先生!私自身は動いても良いのでしょうか。」

「構いません!」


そうよね。さすがに…見えないもの!

トコトコと小さな輪の近くに近づき針を通す。

小さいと言ってもその中で大小あり、最初は腕輪程度の輪、そこからどんどん小さくなって指輪程度の輪になり、最後は針穴くらいの輪だ。


腕輪はクリア、指輪も近づけるのなら大丈夫。クリア。

そして・・・最後の針穴。


ああ!もう少し下、いやもうちょっと右、行き過ぎた!

もうちょっと上に戻して、ゆっくり…慎重に…

針をまっすぐにして…

よし!先が通った!そのまま…そのまま…

ようやく通り抜け、先生のもとへ。


よかった。どうにかできた。

よほど集中していたのか額には汗が流れていた。


「はい。これで試験は終了です。

疲れていたら、そこのベンチで少し休憩してもいいですよ。

この後はパーティですから、休憩が終わったらそのままホールへ行き、パーティに参加してください。」


ほっとして、体が緩む。

いつも押し込めている魔力も、疲れてちょっと垂れ流し気味だ。

つ…疲れたぁぁぁ~。

ベンチに座り、魔力を体中に巡らす。

うん。気持ちがいい。

なんだかリフレッシュする。

糸みたいな少ない魔力を扱ったから、なんだか体がこわばってしまったのだ。


やっと試験が終わった。

頑張ったな。

いっぱい勉強したし、実技もあれ以上はできなかった。

うん。結果はどうあれベストは尽くした。


あとはパーティを頑張って、そしたら、そしたら夏休みだ!

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