第96話
建国祭で屋台をするという新たな挑戦が始まるけれど、学校は相変わらず勉強漬けの毎日。
ただ今月末には初めて試験があるので若干皆ピリついている。
いや、皆ではないか…
逆に「必死に勉強して何になる?」と小ばかにした態度の生徒も一定数いるのだ。
一生懸命なのがダサい…みたいな感じだと思う。
少し気持ちわかる…
なりふり構わず一生懸命になるって意外と難しく、恥ずかしい。
もし一生懸命頑張ってもダメだったらと思うと怖くもある。
記憶があまりないから想像でしかないけれど、前世の私も少し怖いと思っていたんじゃないかな?
頑張ってもダメだったら?って。
そうやってほどほどの努力しかしなくて、年を重ねて、大人になって後悔したんだ。
もっとあの時頑張ればよかった…てね。
だから私は頑張る…今世では後悔したくないから。
その他に最近変わったことと言えば、偽聖女だ。
偽聖女の噂は一気に学園を駆け巡り、絶対に私ではないのに(男の子を誘惑なんてしてないもの!)、ナオが言った通り私のことを指しているようで、陰口をたたいてくる。
とにかくこういうのは、気にしないように、陰口を聞かないようにするに限る。
ナオは私を守ってくれるつもりなのか、いつも以上に一緒にいてくれる。
それだけで嬉しい。
時々一人になると、私の近くでバランスを崩してこける人がいる。
「大丈夫ですか?」と声をかけると、大抵「大丈夫だ」と言って立ち去っていく。
多分私にぶつかって難癖をつけようとして、結界にはじかれているのだと思う。
悪意がないとはじかれないはずなので、わざとぶつかってくるつもりだったのだ。
よかった。護身用のアクセサリー作っていて。
結界のおかげで実際にぶつかって難癖つけられたことはないから、心のダメージも思ったより負ってない。
多少はあるけどね…そりゃやっぱり。
本当結界様様である。
でもその代わり、偽聖女の汚名と共に巨神兵なんていう意味の分からないあだ名もついているそうだ。
偽聖女にしろ、巨神兵にしろ…多分噂しているほとんどの人は私のこと姿、形まで知らないんだろうなぁ。
だって、私9歳よ。
誰よりも小さい自信があるわ!それが巨神兵なんて…絶対私のこと知らないはずよ…
数ある噂を総合すると、テルーと言う平民が偽聖女で、男をたぶらかし、よく効く薬の対価に無理な要求をして、巨神兵のように強く逆らえないそうなのだ。
もうなんなの?この噂?
そして、噂がされ始めたころの「傷跡がキレイに治る」云々はどこに行ったのだろうか…
これでは偽聖女というか、ただの脅し屋じゃない。
そんな忙しくも平穏?な日に爆弾を落とした人がいた。
それが魔物学の教師ヒュー先生だ。
いつもの通り後方部隊に配置されたのだが、最近みんな私に手当てをされたがらなくなった。
偽聖女だから、当たり前と言えば当たり前なのだが、今まで手当てしてきた人も避けられるのは疑問しかない。
貴方たちは私が何も対価を要求していないことを知っているでしょうが。
その人までも避けるものだから、事実無根なのに噂が全然消えないのだ。
もちろん今日も私の周りには誰もいない。
今日の魔物は苦戦してないわね…もうすぐ終わるかしら?
そんなことを思いながら、戦っている様子を眺めていたらヒュー先生が近づいてきた。
「よぉ。暇そうだな。
ちゃんと授業受けてんのか?」
「誰も来ないんですよ。
授業を受ける気はあります。」
「みんなお前に何か要求されると思ってるんじゃないか?偽聖女さま。」
「先生までお疑いなのですか?
薬は先生から支給された薬ですよ。
それで対価を要求するなんて、出来るわけがありません。」
「そうだよなぁ。
俺が渡した薬だよなぁ。
男をたぶらかす…わけないしなぁ。
そんな年ごろでもないし、そうだとしても引っかかる男なんていないだろうし。」
残念な子を見る様な表情で見てくる。
それはそれで…ちょっとむかつく。
「何か対価要求してもなぁ。
たかが傷を治した程度で脅されても、平民のお前の方が潰されそうだしなぁ…」
「そうですよ。
誤解は解けました?」
「うーん。そうだな。
平民のお前をやっかんで、変な尾ひれがついてんのはわかった。
でもなぁ、傷の治りがいいっていう噂は本当っぽいぞ。
噂が出回ってから、俺もお前に処置された生徒を確認したからな。」
「え?でも同じ薬をアビー様も使ってますよね?」
「まぁな。それでも、お前の処置の方が治りがいい。
変な膿が出るやつもいないしな。
ということで…お前授業受けてても暇だろ?
ちょうどいい。
今から俺を処置してみろ」
「へ?先生どこか怪我して…」
突然ヒュー先生は、ナイフで腕に傷をつけた。
「ぎゃあーー!
何やってるんですか!
いきなりナイフで腕を切る人がどこにいますか!
バカなんですか!もう!
親からもらった大事な体に自分から傷つけるなんて罰当たりですよ!!
もう!まったく!」
びっくりして変な声は出てるけど気にしている暇はない。
赤い血がどくどく出ている場所に、水をかける。
そして薬を塗り込み、魔力でしっかり蓋をする。
「これで、よし!
もう無茶なことはしないでくださいね。」
「おい。
何で水をかけた?」
「え?汚れがついてたら良くなるものもなりませんよ。
傷口は清潔に!です。
先生だって水用意してくれてたじゃありませんか」
「あれは、飲むために用意している。
例年魔物との戦闘にいっぱいいっぱいになった生徒が、緊張もあってか水分不足で倒れるからな。」
「え?そうだったんですか?
傷の洗浄用なのかと。」
「まぁいい。
あと最後にお前は俺に何をした?」
「え?傷口がまた汚れたり、どこかに当たって悪化してはいけないので、魔力で保護しただけですよ。」
「ふーっ。
何で傷口をそんなきれいにしたがるのか、理論は俺にはさっぱりわからんが…多分これだな。
お前が聖女と呼ばれる所以は。」
「え?たったこれだけで?」
「こんな処置するやつはいないからな。
これは、お前の秘匿技術か?
誰かに教えたら困るか?」
「いえ、秘密でもなんでもないですよ。」
「じゃあ、お前じゃないやつが同じ処置をしても問題ないよな?」
「?いいんじゃないですか?」
「ということだ!
薬は特別なものではないし、処置の方法もたった今をもって、テルーだけが出来る処置ではなくなった。
これで、もしテルーが何か対価を要求してきても、お前らは突っぱねることが出来るな。
わかったら、普通に授業を受けろ!
アビーとバーバラばかりに処置させてたら、2人に負荷がかかるだろ!
せっかく後方部隊が3人いるんだ。分散しろ!
こっちは後方部隊の力も含めて、戦闘力を計算してお前らの授業の魔物を用意してるんだ。
後方部隊の戦力が1人減ったら、今日みたいに魔物のランクも落とさなきゃなんねぇ。
変な噂にふりまわされて授業妨害してんじゃねぇ。
わかったな!」
気がつくと、既に魔物は倒され、授業を受けている全員から注目を受けていた。
何人かはバツが悪そうにしている。
多分私が処置した人だろうな。
確かに今日の魔物は簡単そうだと思っていたが、偽聖女疑惑で私が使えなかったからだとは…
注目を集めたのは、居心地が悪かったが、これで一応偽聖女問題が解決したのかな?
ありがとうヒュー先生。
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