第92話
海街を訪ねてから…いや違った。
ペルラとアマティスタを購入してから、1週間がたった。
あの時購入したペルラとアマティスタは、バイロンさんが紹介してくれた細工師に加工を依頼した。
首から下げられればいいので、加工に関する注文はほとんどない。
制服の下に隠したいので、紐は長めがいいな…位である。
だから1週間後の今日、ネックレスが届くはずだ。
ネックレスがないので先週1週間は学園にいる間中、体の近くに結界を張り続けていたんだけど、やはり慣れない環境で、授業を受けながら、結界を張り続けるのはかなり大変だった。
早くネックレスを身につけたかったから、1週間で出来上がってくれてよかった。
特に体術の時間はね…もう体力の限界だから、結局結界も解除されてたし。
それにしても入学して2週間。
今のところ嫌味を言われる位で、実害は何もない。
護身用のネックレスまで作って対策していたけれど、杞憂だったかしら?
カランカラン
ベルが鳴る。
「テルーちゃん、こんにちは。
頼んでいたネックレスが届いたよ。」
「ありがとうございます!!!」
早速開けてみると、金のチェーンの先にペルラとアマティスタがさくらんぼのようにぶら下がっていた。
可愛い。
今日は学園もお休みだから思う存分ネックレスづくりに没頭しよう。
ペルラとアマティスタを扱うのは初めてだけど、命の呪文と癒しの呪文は冒険者時代にどれだけ使ったかわからない。
大丈夫。きっとできるはず。
それにしても…なんで癒しの呪文っていうのかしら?
癒しと呼ばれる所以はやはり受けた毒や病の原因を取り除く効果があるからだと思うけれど…
それでも結界の呪文であることを知ってる私にとっては、毒や病、魔物、瘴気のありとあらゆる悪いものから守ってくれているように思える。
「癒し…というより
結界が発動した。
え?今古代語の長ーい呪文は唱えてない。
短縮呪文で発動出来るようになった!?
でも…呪文は「
私の個人的なイメージで定着しちゃった。
あ!もしかして、命の呪文も短縮できるのかしら?
私の命の呪文のイメージは、変わらず命のままだ。
だから・・・
「
ダメもとでつぶやいてみる。
指のさかむけがみるみる治った。
わぁ、出来ちゃった…。
確かに癒しの呪文…改め守護の呪文も命の呪文もたくさん使ってきた。
使い慣れた魔法だ。
4大魔法の時もそうだった。
たくさん訓練していたら、魔法陣が必要なくなったのだ。
今度は魔法陣のみならず、長い呪文も不要になった。
もしかして…魔法陣や長い古代語の呪文は魔法が上手く扱えない人のための補助的な役割なのだろうか。
今の時代魔法陣を使っている人はいない。
だから私のこの経験則が正しいかどうかなんてわからないけどね。
何だか、そんな気がする。
気を取り直して。
まずは…アマティスタに向かって付与する。
「
ぐーっと定着させるように。
ぐっぐっぐっ!
ピカっと一瞬光り、付与が完成。
同じようにペルラにも「
こちらも問題なく付与できた。
付与に慣れたからか、適した素材を使ったからか疲れもほとんどない。
すごい。
魔法って…面白い。
頑張ったら頑張っただけ応えてくれる。
早く終わったので、自分で昼食を作る。
なかなかできなくて疲れ果ててたらポシェットに入ってる非常食を食べようと思っていたけれど、まだ元気だものね。
作るのは、先週海街で買ったあまり粘り気のないというお米を使ってチャーハンだ。
にんじん、玉ねぎ細かく切って。
プロみたいに上手く卵でコーティングなんてできないから、先に卵だけ炒めちゃう。
ジャウ、ジャウ。
炒めた卵を取り出し、野菜を炒める。
ジャウ、ジャウ、ジャウ。
お米を入れて。
ジャウ、ジャウ、ジャウ、ジャウ。
最後に焦がし醤油。
ジュッジュワー。
はい!できた!
お店のチャーハンみたいに、綺麗なドーム型に盛り付けできないけれど、あぁ~美味しい!
今世初のチャーハン美味しすぎる。
満腹になってふと気が付いた。
空っぽのお皿の向こうに、ガラスの花瓶に生けたピンクと白のキンギョソウ。
もうだいぶくったりしている。
あ、そろそろ新しいお花変えなきゃ。
週明け、学校の帰りにまた買って来よう。
自分の家が出来てから、ドレイトの家を思い出して部屋に花を飾っている。
昔はジョセフが世話してくれていた花を庭からもらってきていたけれど、今のこの家はまだ庭師を雇っていないのでもともと植わっていた木がところどころにあるだけだ。
庭師を雇ったら、お花も育ててほしいなと思いつつ、今は近所のお花屋で買っている。
でも、ジョセフのお花の方が長持ちしたなぁ~。
切り方かしら?それとも気候?
やっぱり緑魔法かな?
いや鮮度か。
家のお花だと切りたてだものね。
でも緑魔法を使ったら少し長持ちするのかな?
ん?そういえばたくさん魔法関係の本は読んでいるけれど、聖魔法と同様に緑魔法の単語も見たことがない。
もしかして緑魔法も付与魔法なの?
だとすると…思い当たる呪文がある。
やってみようかな。
この呪文はやりすぎ禁物だから、ちょっと…ちょっとだけ。
「
すると、くったりしていたキンギョソウがゆっくり起き上がってきた。
もうすでに枯れて回復できなかったであろう葉は落ち、まだぎりぎり生きていた部分はすっかり息を吹き返した。
そうだったんだ。
緑魔法も付与魔法だったんだ。
聖魔法も緑魔法も同じ命の呪文を付与していたんだ。
その対象が人か植物かという違いだけで、同じように細胞やなんやかんやに働きかけ、人の、植物の生きる力を引き上げる。
そんな呪文だったんだ。
魔法っていうのは、案外思っているよりもシンプルなのかもしれない。
ってことは、今私は聖魔法の勉強として薬草ばかり勉強していたけれど。
本当はもっと人体のこと、植物のことを知らなければいけないのかもしれない。
今回も花に直接付与してしまったけれど、
付与魔法は、適切な素材を適切な処理してやっとその真価が発揮される。
4大魔法だって、同じだ。
例えば、火は火として使うだけではなく付与することで熱として使うことができると『付与魔法の全て』に書いてあった。
熱として使うには、そのための素材の研究などが必要だけれど、熱が使えたら魔法の幅はうんと広がる。
魔法はシンプルだけど、使いこなすにはきっと凄い努力が必要なんだ。
魔力を感知できるようになって、自在に操れるようになって、それを魔法として表現できるだけではダメなんだ。
きっと魔法を使えるようになって、やっとスタートライン。
そこから自分が使える魔法をどう使うのが一番効率的なのか、さらに発展させることが可能なのか…そんなことを追求していくのが魔法の勉強っていうのかもしれない。
ナリス学園の同じ敷地にある研究所では、そんなことを研究しているのかなぁ。
魔法の勉強って奥が深い。
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