第85話

はぁ〜終わったー!

初級魔法学に社会学…たった2科目なのに疲労がすごい。

ご飯…ご飯…

そういえば食堂があったわよね。

一応今でも持ち歩いているポシェットの中には、食べられるものも入っているけれど、初めてだから食堂に行ってみよう。


クラスを出て、食堂へ行く人の波について行く。

学園と研究所が同じ敷地内にあるからか、学園の敷地は広い。

そして学生も研究員も使うため食堂や図書室は中央にある。

1年でさらにCクラスという落ちこぼれクラスの私の教室は東の端…

食堂が…遠い…


やっと食堂に着いた。

学生も研究員も使うとあって、すごい広さだ。

これだけ人がいれば、逆に人の目も気にならない。

1人で食べてても気まずくないかも。

現におひとり様もたくさんいるし。

さて、何を食べようかな…


!!!!!

高い…いや、払えない訳ではないけれど…一番安い本日のランチが2000ドーラってどういうこと?

一番高いスペシャルなんて5000ドーラもする…

学生のランチの値段じゃない…

いつも通ってるパン屋でサンドイッチ2つ買っても700ドーラだよ?

平民の奮発ランチの相場は1500ドーラだよ?

だが、値段を見て驚いているのは私だけのようで皆普通にランチを注文していく。

あ、ここは貴族ばかりだから…この値段が当たり前なのか。


仕方ない。

今日は初日だから奮発しよう。

明日からは……お弁当かな?

いや、お弁当作る気力なさそう。

行きにパン買えばいいか。


本日のランチは、白いふわふわのパンにビーフシチュー、ハムの乗ったサラダに、クッキーも添えてあった。

2000ドーラだけあって美味しい。

こんなふわふわのパンは平民街のパン屋では買えないもの。

でも…2000ドーラかぁ。


「ここ隣いいかな?」


「はい。どう…ぞ。

!!!え?あれ?ジュードさん?」


「あ、やっぱりテルー!

まさかここで会うとは…。

学生?」


「そうなんです。この春から通うことになりました。

ジュードさんは何してるの?

見たところ制服じゃないから学生ではないのはわかるんですけど。」


「学生ではないな。

だって俺もう20だし。

ここへは仕事だよ。

研究助手してるんだ。」


「え?大丈夫…ですか?」


「失礼な!とは言えないか・・・。

俺が助手してる研究員は、元々顔見知りでね。

まぁ~いわゆるコネで雇ってもらってるんだけど、流石に雑用するにももうちょっと算術ができるようになってこいって言われてさ。

それで初等部通うことになったんだ。

だから!助手になれたのは、テルーのおかげ。

その節は、ほんとお世話になりました!」


「いやいや、こちらこそその節はありがとうございました!

おかげさまで入試に受かりました。

それにしてもよく私を見つけられましたね?

この人の数ですよ?」


「いや、テルー目立つし。」


「?」


「明らかに子供が1人迷い込んでるから目立つ。

そんな小さいのに入試受かるとか本当頭よかったんだな。

っていうかテルー…ここ貴族ばっかりだぞ…大丈夫なのか?」


「子供…

大丈夫…と思います。多分。」


「そうか?

まぁなんかあったら言ってよ。

助けられることは助けるし。」


「ありがとうございます。」


ジュードと出会ったのは、ナリス学園初等部。

算術が苦手で通い詰めていたジュードとナリス語習得のため通い詰めてた私が顔見知りになるまでに時間はかからなかった。

初等部はすでに仕事についている平民の大人も多いので、授業の後まで居残って勉強しているのは、私とジュード以外にはほとんどいなかったのだ。

次第に他愛無い話をするようになり、ジュードがトリフォニア語を少し話せると知り、私が算術が得意だと知り、私たちは互いに教え合うことにしたのだ。


ジュードは仕事がかかってるからと必死だったし、私も帝国での暮らしに関わるので必死だった。

つまりジュードと私は戦友だ…と勝手に私は思っている。


ジュードは卒業してすぐここで働き始めたようで、私が「みんな毎日この値段のランチ食べてるのか」と言うと、購買で買えるパンは平民と同じくらいの値段だと教えてくれた。

ただ昼時はすぐに売り切れてしまうらしい。

中庭や東西にあるちょっとした庭園、空き教室で買ったランチを食べている人が多いそうだ。

クラスは東端だし、明日は東の庭園行ってみよう。


「そういえば来年無事に昇級出来たら、私魔法科に進む予定なんです。

ジュードさんが助手を務めている研究員の方ってどんな研究されてるんですか?」


中等部は1年こそ皆同じ授業を受講するが、2年からはコース選択制だ。

貴族科、魔法科、騎士科の3つから選ぶのだが、私は貴族ではないし、運動の才は全くないので、迷うことなく魔法科だ。

魔法科の生徒は、授業時間外に同じ敷地内にある研究所の研究助手になることもできる。

そのためには希望の研究室が定める試験を受けなければならず、研究助手になれるのはほんの一握りだと聞く。

けれど、魔法の研究って…ちょっと…いや結構…楽しそう!


「うーん。俺はユリウスっていう人と研究しているんだけど、彼は魔法の活用方法というよりも、魔法とかスキル自体の研究かな。

あんまり俺もよくわかってないんだけど。

ただ、2年の時の研究助手なら難しいかも。

今までユリウス助手をとったことないから。

大体テルーってスキルなに?」


「そうなんですね。やっぱり研究助手って難しいんですね。

ジュードさん助手になれるなんて、すごいラッキーですよ。

私のスキルは、ライブラリアンです。」


「ライブラリアン?って・・・そんなスキルあったっけ?

どんなことが出来るの?」


「本が読めます。」


「は?」


「うん。だから本が読めるだけですよ。ふふふ。」



その後ジュードと別れ、体術のクラスへ。

体術の授業は、初回と言うこともあり体力測定だった。

どれだけ速く走れるか、どれだけ長く走れるか、どれだけ高くジャンプができるか、何回腹筋が出来るか、どれだけ重いものを持ち上げられるかなどなどなど・・・

言うまでもないことだけど、私が一番できなかった。


100m走ではゴール手前で転んだし、ランニングは1キロくらいでギブアップ。

腹筋は結構頑張って30回。

上出来と思ったんだけど、100回未満は5人しかいなかった。

50回未満なんて2人しかいなかった。

貴族令嬢って・・・思ったより運動能力が高い。

先生からは完全に落ちこぼれの烙印を押された気がする。


9歳だもの。仕方ない。

みんなと3歳も違うんだから、体格だって全然違うんだから、仕方ないわ!と心の中で反論するけど、多分9歳の平均も超えてないんだろうな…


唯一の救いは、体術の試験はないことかな。

これで試験があったら、私確実に落第だ。


1時間半動き回り、ヘロヘロになって教室に戻ってくる。

もう授業はない。

早く帰りたいけれど、帰れない。

地獄の社会学の宿題があるからだ。

取りあえずライブラリアンで帝国の地図を出し、わからなかった島の所在地を調べる。

どこもラーナ島と同じく大陸から遠い小島だ。

船で行くなら1週間はかかるのではないかしら?

以前読んだ船乗りの航海日誌にここよりずっと近い島に3日かけて到着していたもの。

その島より倍の距離があるラーナ島は、単純計算で6日かかるわね。


帝国に入ってから私のスキルで読める本はどんどん増えている。

何故かはわからないが、その量の多さに読み切れないほどだ。


船乗りと言えば、船乗りの食糧事情も厳しいわよね。

餓死者も船乗りも、「食料が十分にないこと」が共通か。

かといって・・・セイムス領だけで食糧不足が改善するほど食料生産できるのかしら?

セイムス領の特産は小麦や畜産でもなく薬草だし…


薬草…


あ、もしかして…ピミエンタ?

私は仮説があっているか確かめるために資料室に急いだ。

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